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約定を制定した者

「おお、これはどうしたことじゃ。」


 少女を抱き抱えたアレックスが港に着くと、一人の老人が慌てて駆け寄ってきた。


「町外れで魔物におそわれてたんです。気を失っていたので、こちらの孫娘じゃないかなと思ってここに連れてきました。」


「おお、おおっ、可愛い孫娘を助けて頂いたそうで、なんとお礼をいってよいやら。」


 老人が泣きそうな顔で感謝の意を告げる。


「いや、あの、正確には僕達が助けたんじゃないんです。この子が自分で魔物を一匹倒して、それで逃げ出した魔物を僕達が倒しただけで・・・多分僕達がいなくても助かったと思います。」


 ネイリーの台詞は歯切れが悪く、自身なさ気だ。後ろにいるアレックスは我関せずと言わんばかりにそっぽを向いていた。


「お爺さん、そんなことよりどこか安静に出来る場所に寝かせましょう。」


 老人に案内されて事務所のベッドにその少女を寝かせた。その後はとなりの部屋で話をしている。


「本当にありがとうございました。やはり何かお礼をしなければいけないようです。」


「いえ、お礼をしてもらうほどのことはしていませんのでお気遣いなく。」


「そうはいきません。没落したといえ私もグランローズ商会の者、受けた恩と仇は必ず返す、その家訓を守らねばご先祖様に顔向けできません。」


「いえいえいえ、お気持ちだけで十分です。僕達はお礼が欲しくて連れてきたんじゃありません。」


 しばらく不毛な問答が繰り返される、隣で聞いていたアレックスが口を挟んだ。


「ネイリー、ここは礼を受けておくべきだ。目の前の者が何を望み、何を欲しているか、それを推し量るのが王族の勤め、お前もそう教わっただろう。」


「確かにそうだけど・・・あっ、馬鹿!」


「ん、王族?」


「ああっ!何でもないです。こいつ何言ってんだろう?」


 アレックスとネイリーの会話をいぶかしんだ老人に、慌ててネイリーが否定した。笑みを浮かべていたはずのマリアがアレックスを睨んでいるが、当の本人は涼しい顔でその視線を受け流していた。


「う~ん、よく寝た・・・あれっ?なんでぼくここにいるの?」


 気まずい雰囲気を壊すように、暢気な声が隣の部屋から聞こえた。老人が勢いよく立ち上がって隣の部屋に駆け込む。ネイリーを先頭に三人はなんとなくついて行く。


「ジギー、大丈夫か?魔物に襲われたところを助けてもらったのじゃ。何も覚えていないのか?」


「・・・魔物?あっ、そうだった。襲ってきた魔物に妙に腹が立って、魔法を使ったことまでは覚えてるけど・・・どうなったんだっけ?」


「こちらの方々がお前を助けてくれたんじゃ。お前からもお礼を言いなさい。」


 そう老人に言われたジギーと呼ばれた少女が、後ろにいる三人に視線を向けた。その視線は先頭にいるネイリー、そしてアレックス、マリアを通ってから、しばらく上を向いて何かを考えている。少女を除く四人が予想していたお礼の言葉は出てこない。


「えっと・・・誰?。」


 ジギーが無邪気にそう言ってのけた。


「これっ、ジギー。お客様、孫娘が失礼を申し上げました。お気になさらずに・・・あっ!」


 老人はそこまで言った瞬間に何かに気付いたように三人の顔と鎧の紋章をまじまじと見始めた。


「あ~あ、多分バレたな。俺と違ってお前の間抜け面は分かりやすいからな。」


「そんなことあるか。そっちこそ分かりやすい鎧を着ているだろう。」


「もう止めなさい!昨日から喧嘩ばかりして、仲裁に入る私の身にもなりなさい・・・ごめんなさいね。昨日あったばかりだけどやることなすことぶつかってばかりで。」


 アレンとコナンを怒った流れで、マリアが愚痴を口にした。


「申し訳ありません、孫娘が大変失礼なことを申しました。ローザラインのアレックス王子には一度お目にかかったことがあります。お連れの二人にもメタルマ、ローゼンシュタインの王様の面影があります。」


 老人が平身低頭して、お詫びする。ここグランローズは三国の中央に位置し、その三国によって自治が許されている。武力は持たないが経済的に三国を支える者として王族との繋がりもある。


「身分を隠していて申し訳ありません。お察しの通り、私がメタルマのマレーネ、こっちがローザラインの王子アレックス、そしてローゼンシュタインの王子コルネリアスです。」


「・・・三人が集まったとなると同盟の約定が発動したと取ってよろしいでしょうか?」


「なんでそれを知っている。そのことは三国の王族しか知らないはずだ。」


 老人の言葉に、アレックスの声が低くなった。


「警戒なさらずとも結構です。その約定を制定させたのは当商会の始祖と聞いております。そして同じくその約定が発動された時には当商会が支援せよとも伝わっております。納得頂けましたでしょうか?」


「・・・始祖?そんな話は聞いていない。ネイリー、マリア、知っているか?」


「少しだけなら。ここグランローズの港は三国の中心にある故に、争いの種にならないように自治が認められている。その自治を得る為に相当の尽力をされた方とは聞いているわ。」


「当王家の始祖、サイモン=ローゼンシュタインの親友。それだけでなくアレックス、お前の始祖のアレフ一世陛下の師匠に当たるお方だ。そんなことも知らないのか?」


「あ・・・ああ、そんなこと聞いたことあったかもしれん。まあいいや。で、支援って何ができるんだ?」


 ネイリーとマリアの視線が責めているようで痛い。アレックスは話題を変えることでその視線を逸らそうとした。


「支援ですか・・・半年前までなら船を貸すなり、その人員を手配することもできましたが、現在ではその船もありません。そうなると金銭的な援助しかできませんが、それも失礼な話かと・・・。」


「船ならあるよ。」


 歯切れの悪い祖父の言葉にジギーが割り込んだ。


「ジギー、そんな船がどこにあるのじゃ。私でもそんな船のことは知らぬぞ。」


「うん、お爺様が知るはずないよ、ぼくもほんの少し前に偶然港で見つけたんだから。」


「「「「はっ!?」」」」


 ジギーの言葉に全員の開いた口が閉まらなくなった。


「見つかったって何処でじゃ?この港にわしの知らぬ所などないはずじゃ。」


「幻の13番ドック。前から噂になっていたそこに船が隠されていたよ。」


「幻の13番ドック?」


 意味不明な言葉にアレックスが口を挟む。


「幻の13番ドックとはここ半年の間に目撃されていたドックのことです。本来この港には12番までのドックしかありません。それが見たこともない船が停泊していたと何人もの目撃証言がありました。野に魔物が出現する頃からのことでしたので魔物の仕業だと納得していたのですが、どうやらそうではなかったようです。いえ、まだ魔物の仕業でないとは限りません。如何致しましょうか?」


「使える船があるなら使うまでだ。そこに魔物がいるなら尚更のこと、倒すべきだろう。お前、その船まで案内してくれ。」


「お前って、ぼくには名前があります。ジークリット=グランローズ、父様や母様はジギーって呼んでたよ。」


 ジギーの言葉にネイリーが複雑な顔をする。昨日自分が言ったこととリンクしたのである。その顔にアレックスがしまったと言うような顔をした。


「悪い、余計なことまで思い出させたようだ。ジギーとやらその船まで案内してくれ。」


「とやらは余計だよ。でも案内はしてあげる。それに謝らなくていい。もう平気になったから・・・。」


 それだけ言うとジギーは部屋から飛び出した。アレックス達4人はその後を追う。その先に見たこともない形の船があった。

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