ローゼンシュタイン
半年以上船の往来のない港に怪しげな船が入ろうとしている。それに備えてグランゼの民が集まっていた。それぞれの手には武器がある。銛や鋤などまともに武器とは言えないが、それでも持っていないよりましと誰もが思っていた。
「バウアー長老、いったい何処の船でしょうか?」
「グランローズの船ですな。船籍だけならですが・・・。」
一人の年配の騎士の質問に隣に立つ老人が自信なさ気に答えた。
「本当にそうだといいのですが、この間のこともあります。用心するにこしたことはありません。」
「弱気は禁物ですぞ、シュナイダー様。あなたがそうでは皆が安心できません。陛下も王子も亡き今、あなただけが頼りなのですよ。」
「城から脱出した兵士によるとコルネリアス王子は秘密の通路から脱出したそうです。亡くなったと決め付けるのは早計でしょう。」
「これはたいへん失礼しました。不敬な発言をお詫びします。」
バウアー長老の言葉に一瞬騎士シュナイダーの表情が曇った。それに気付いたのですぐに詫びた。現状残された聖堂騎士は全32名中7名、隊長格の者はシュナイダー一人しか存在していない。そのシュナイダーの機嫌を悪くするわけにはいかなかった。
「分かって貰えればそれで結構、我々は王子が戻るまでこの町を守る義務があります。それまで協力をお願いします。」
「もちろんです。とりあえず目の前の問題から解決するとしましょう。」
そう返事をすると今まさに港に入ろうとしている船へと視線を送った。船の上に幾つかの人影が見える。背中に羽根など生えていない正真正銘の人間の姿、それが誰なのか目を凝らす。
「あれはもしかして?」
信じられないものを見たバウアー老はシュナイダーに事の真相を確認した。
「ええ、間違いありません。あれはコルネリアス王子です。良かった、王子が生きて戻って来られた。」
「王子?」
「ああ、そうだ。船をよく見てみろ。あの顔はコルネリアス王子だ。」
「コルネリアス王子、万歳!」
「ローゼンシュタイン、永遠なれ!」
「「コルネリアス王子、万歳!ローゼンシュタイン、永遠なれ!」
シュナイダーの声が近くにいる者を通じて広がる。歓喜の声が少しずつ大きくなり次第に一つの唱和となった。
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その唱和の声は船の上にも届いていた。
「大人気だな。格好悪い登場はできないぞ。」
「五月蝿い!余計なことは言わなくていい。」
ネイリーは冷やかすアレックスに向かって怒鳴りつけた。今まで王子として遇されたことはあるが、ここまでの歓迎は受けたことはない。その戸惑いをアレックスにぶつけてごまかそうとした。まだ唱和の声は続いている。停船した船からタラップ替わりの板がするすると伸ばされ、港側が受け取って固定される。覚悟を決めたネイリーはその板を渡ることにした。
「シュナイダー小隊長、聖堂騎士コルネリアス=ローゼンシュタイン、只今戻りました。」
タラップを渡りきったネイリーはそこで待ち受ける上官に帰還の挨拶をする。他に言うべき台詞は考えてあったが全て忘れた。
「うむ、よくぞ戻られた。殿下だけでも生還なされたこと、喜び申し上げます。」
「僕だけですか・・・覚悟はしていましたが他人の口から聞くと感慨深いものがあります。やはり城は落ち父上は亡くなられたのですね?」
「御意、遺体は見つかっていませんが生存は絶望的です。陛下亡き今、殿下が次の王となられるべきです。聖堂騎士カールハインツ=シュナイダー、陛下に忠誠を誓います。」
シュナイダーは片膝を付き臣下の礼を取った。他の者達もそれに倣う。誰一人として声を上げずにネイリーの言葉を待っている。ネイリーは再び躊躇っていた。
「・・・即位はしばらく待って貰えませんか?」
「はっ?何を仰られるのです。今この町に必要なのは希望、その為には貴方様が新たな王となられるべきです。」
「それは違います。今僕が即位したとしてもこの町に平和は訪れることはない。根本を解決することなくこの町に閉じこもったとしても、次の襲来を乗り越えることはできない。だから僕は根本を解決するために旅に出ます。その間、この町を預かって貰えますか?」
「なっ、そんなこと危険過ぎます。」
「シュナイダー殿の仰る通りです。殿下一人で何ができましょう?」
ネイリーの無茶な申し出をシュナイダーが咎め立てした。バウアー老もそれに同意して咎める。
「一人ではありません。ローザラインのアレクサンデル王子、メタルマのマレーネ王女、そしてグランローズのジークリット嬢が力を貸してくれています。」
ネイリーは後ろを振り向くと船に立っているアレックス達を紹介した。ほとんどの者はその顔を知らないが一部の者達にだけは分かった。
「えっ、ローザラインの?」
「そうです。これは我等が三国と一つの町の盟約、勇者の宿命に従い世界を危機から救う、それがこの町を救う唯一の方法と判断しました。」
「ですが・・・。」
「僕を次の王と認めて下さるのなら、僕の言葉に従って下さい。シュナイダー小隊長、あなたを臨時の騎士隊長に任命します。更にバウアー老、あなたを宰相代理としてその補佐をして頂きます。よろしいですね?」
お願いの形をとった命令、その言葉には未熟だが確かに王としての威厳が感じられた。
「殿下の御意に従いましょう。不肖シュナイダー、殿下が帰るまで騎士隊長代理を拝命致します。」
「バウアー老、あなたはどうですか?」
「御意に従いましょう。ですがそれ程待つことはできませんよ。私はこの通り老体ですので先は長くはありませんので・・・。」
バウアー老は冗談めかして答えたが目は笑っていなかった。
「ご安心下さい。僕もそれほど待たせるつもりはありませんから・・・。」
ネイリーも冗談めかしてバウアー老に答えた。




