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切り詰めた時

「悪魔ねぇ・・・にわかには信じられない話だが、その後はどうした?」


 長い話の途中で息をついたネイリーにアレックスが口を挟んだ。


「気付いた時にはその悪魔がバラバラになって眼下に倒れていた。隊長が言うには死んで動かなくなった相手を更に斬りつけていたらしい。」


「らしいって、覚えていないのか?」


「覚えていない。怒りに血が登って剣を抜いたところまでは覚えている。バラバラにしたのは多分・・・恐怖でそこまでしないと安心できなかったのだと思う。」


 ネイリーは遠い目をしてそう語った。聞いていた4人はかける言葉を思いつけずにいた。


「出てきた敵を倒しながら父上のいる寝所を目指した。倒した敵は5体まで数えたけど、その先は覚えていない。しばらくして再び大きな振動が伝わってきた。」


「もしかして城が崩れたのか?」


「報告によるとそうらしい。それで隊長から僕に城を脱出する様薦められた。散々渋ったけど、約定のことを持ち出されてはそれ以上抗弁できなかった。その判断が正しかったのかどうかはこれから分かる・・・もういいだろう、僕は下に行くから何かあったら呼んでくれ。」


 それだけ言うとネイリーは操舵室から出て行った。ネイリーの姿が階段から消え、完全に気配が消えるまで誰一人口をきかなかった。


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 グランローズを出港してから三日、クラーケンに襲われてから二日、船はローゼンシュタインの港の間近を航行している。本来この辺りから見えるローゼンシュタイン城は世界でも一二を争うほど美しいと言われていた。赤と白の煉瓦を組み合わせた薔薇を思わせた城は半壊し、隣に立っていた黒の塔はすでに崩れて存在しない。


「酷いな、何をどうしたらこうなるんだ?マリア、分かるか?」


「そうねえ・・・爆発の魔法を効果的に使えばできるかもしれない。ただその為には気づかれないように城壁に登って魔法を使う必要があるわ。人間業では考えられないことね。」


 丘の上に立つ城には高い城壁があって人知れず登るのは困難と思われる。アレックスの経験上、それは不可能と判断した。


「なるほど、だとするとネイリーの言っていた悪魔ってのも嘘ではないか。」


「嘘ってそんなことネイリーに聞かれたら怒るわよ。」


「大丈夫、昨日も夜遅くまで書と向かい合っていたからまだ寝ているはずさ。」


「ならいいけど・・・。」


 多少の後ろめたさを感じたマリアは舳先から振り向いて噂の主がいないことを確かめた。アレックスの言うとおりネイリーの姿はない。


「それに嘘じゃなくて思い込みってこともある。」


「そう思う根拠は?」


「俺にも似たような経験がある。三日三晩の行軍訓練、初めての魔物との戦い、その後によく分からない夢を見た。ネイリーに起きたことはその両方を遥かに超える。やつが悪夢を見たとしてもおかしいことではないさ。」


「へえ、見事な心理分析だわ。ただの筋肉馬鹿ではなかったのね。」


「筋肉馬鹿とは酷い言われ様だ。まあいい、どちらにせよ城に行けば答えは分かる。俺としてはネイリーの悪夢の結果であってほしいとも思う。」


 好戦的なアレックスにしては珍しい言葉だとマリアは疑問に思った。その疑問をぶつけてみる。


「あなたは戦いを望んでいる。そうではなくて?」


「否定はしない、君の言うとおりだ。ローザラインを建国した勇者王アレフ、その伝説の偉業に匹敵する冒険ができると心が踊った。だけどそれは口にすべきではない。」


「あなた多分いい王様になれるわ。それまで生きていられたらね。」


「そんなことを言われたのは初めてだ。今まで父上にもアイゼンマウアーにもそう褒められたことがない。」


「アイゼンマウアー?」


 マリアは聞き覚えのない名前に首を捻った。


「先の近衛騎士隊長だ。いつも“王子、そんなことでは立派な王にはなれませんぞっ!”って言怒られている・・・くそっ、思い出したら腹が立ってきた。」


「あなたとその人、どっちが強いの?」


「あいつ爺の癖にめちゃめちゃ強いんだ。五本に一本取れればいい方で、散々打ち据えられた記憶しかない。現時点では持久力以外勝てる要素がない。絶対に追い抜いてやるけどな。」


「羨ましいわね、メタルマにはもう私に魔法を教えることのできる人はいないのよ。」


 マリアの目がメタルマがある方角を見つめた。もちろんその方角にメタルマが見えることはない。


「自慢かよ、流石は時期メタルマの女王様とでも言えばいいのか?」


「違うわ、目指す頂があるのは幸せなことよ。でもその目指す頂が私にもできた。その頂にたどり着いたら私の統治するメタルマが見えるかもしれない。」


「統治か、それこそ俺には無縁だな。できる奴に任せる、それがローザラインのやり方だ。」


 始祖を同じくするローザラインとメタルマ、勇者王アレフとローゼマリーの二人の子、息子にはローザラインを、娘にはメタルマを与えた。双方共に立憲君主制ではあるが、メタルマの方が権力の集中具合が強い。それが二人の考え方の違いに出ていた。


「さて、そろそろ港に着くぞ。二人を起こしてくるとするか。」


「そうね、敵がいるかもしれないからそのつもりで準備させるわ。」


 二人はこれから起こるであろう戦いを想像しながら甲板から船室へと降りていった。

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