船上の戦い
《僕は魔力を2消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ
《私は魔力を2消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ
《《おお、万能たるマナよ、大地を照らす陽光となりて、瘴気を払え!》》
魔法の詠唱し終えたのを目で合図する。ネイリーが扉を開いて同時にパワーワードを発声した。
『『Miasma Remotionem(瘴気除去)!』』
効果を確かめることなく扉を閉める。それから30を数えてから甲板へと飛び出した。見える範囲を確かめる。開きっ放しの操舵室の扉、そこに倒れているのは船長か?他には甲板後方に横たわる何人かの船員が見えた。
「アレックスとジギーが見当たらない。僕は船首、マリアは船尾を探そう。」
ネイリーの問いかけにマリアは船尾へと移動する。操舵室の中に倒れている人影を見つけた。
「いた、操舵室の中にジギーが倒れているわ。」
マリアの声にネイリーが振り向く。視線の先におかしな格好をしているアレックスの姿を見つけた。籠型の見張り台に身を乗り出した状態で気を失っているようだ。
「アレックスは上だ。見張り台にいる。」
「あら、すごい格好。よく落ないわね。」
「ああ、危ないからすぐ起こしたほうがいい。登るわけにはいかないから魔法を使う。」
その気になれば登ることも下から声をかけて起こすこともできるのだが、少し前に覚えたばかりの魔法を使うことを選択した。その魔法の効果を試す良い機会だと思ったのだ。
《僕は魔力を2消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ
おお、万能たるマナよ、眩しい朝日となりて、眠気を醒ませ!Suscitatio(覚醒)!》
この魔法は一瞬だけど眩しい光を放つ。その光に照らされたアレックスと倒れている船員達が身じろぎを始めた。
「んんっ!なんだ、うおっ、危ねえ。」
アレックスは目を開けた瞬間、宙ぶらりんになっている自分に驚きの声を上げ、慌てて身体を起こした。
「アレックス、起きたなら敵がいないか確かめてくれ。これだけ瘴気が濃いと野生の生き物でも魔物と変わらなくなる。」
「おっ、おう。任せろ。」
アレックスは見張り台から周りを見渡す。特に何も見えない。
「何もない・・・いや、あれは何・・・だ?」
「アレックス、何処だ?」
「あそこだ。船首の辺り、何かが巻きついている。」
アレックスは見張り台から身を乗り出すように下を指差した。その指の先には蛸か烏賊の脚が貼りついている。ただしその大きさはアレックスやネイリーの知っているものとは全く違った。
「大きい、こいつが巻きついているせいで船が止まったのか。マリア、乗組員を安全な場所に避難させて、僕とアレックスで迎撃する。」
「分かったわ。とりあえず操舵室に入ってもらう。ネイリー気をつけて、海に落ちたら終わりよ。」
マリアはそう注意を喚起すると、何が起きたか理解していない船員に駆け寄った。アレックスは見張り台から操舵室の上へと飛び降りる。さらに甲板にまで飛び降りると剣を抜いて船首へと駆けた。
「なんて無茶なことを。よくあんな所から飛び降りるな。」
「ふん、暢気に梯子を降りている暇はない。見ろ、もう甲板にまで入って来たぞ。」
吸盤のついた太い脚が船の柵を乗り越えて甲板にまで来ている。見える範囲だけでも3本の脚、直径30cmを超えていて巻き付かれれば命はないことは想像できた。だが恐ることなくアレックスがその内の一本に斬りかかる。しかし斬り付けた剣は脚の中程で止まった。剣を抜こうとしたが斬られた脚は反射的に収縮したせいで剣を抜くことはできない。
「くそっ、剣を返しやがれ。」
アレックスは巻き付かれることを恐れて剣から手を離して飛び下がった。
「どいてっ!」
アレックスの後ろからネイリーが飛び出す。腰から白刃が伸びて剣が刺さったままの脚を切り落とした。切り落とされた脚が無秩序に暴れまくる。更に一閃、二閃、分断された脚の動きが小さくなった。
「すごい斬れ味だ。やっぱり貰っておけば良かったかな?」
「馬鹿なことを言ってないで時間を稼いでくれ。君の剣に加護を与える。」
「なんだって?」
アレックスはそう言いながらも甲板の上に落ちた剣を手に取る。そして魔法の詠唱を始めたネイリーを守るように脚との間に入った。
《僕は魔力を6消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ
おお、万能たるマナよ、魔法の刃となりて、剣に宿れ!Acutus Lamina(鋭き刃)!》
アレックスは剣を取られないように深く食い込まないように剣を使っていた。その剣が光り輝くと打ち払った脚を綺麗に切り裂いた。
「おおっ!これは?」
「失われた魔法の一つ、Acutus Lamina(鋭き刃)。武器を一時的に強化する。」
「よく分からんがこれで戦える。後は見てるだけでいいぞ。」
アレックスはさらに剣を振って襲ってくる脚を切り裂く。その斬れ味に満足したのかネイリーの前に出ると一人狂喜乱舞し始めた。
「アレックス、一本や二本脚を切って倒せる相手じゃないぞ。」
「他にすることがない。だったらお得意の魔法でなんとかしてみろよ。」
「そんな便利な魔法はない。見える範囲を焼き払えても水の中まではどうにもできない。それで逃げてくれればいいけどそう思い通りに行くかどうか・・・。」
アレックスが言っているのは先日見せた焼き払う魔法のことだろう。だが水中の相手には効果がない。もし本体が水中から出てきたとしても全てを焼き払うことはできない。そこまでの火力になると船にもダメージがあることは想像できた。
「アレックス、ネイリー、船を動かすから何かに掴まって!」
操舵室の方からマリアの声が聞こえた。
「動かす?どうやって?」
「自走モードを使うわ。もう風は送り込んだ。」
振り返ると操舵輪をにぎった船長の姿とその周りに立つ船員、操舵室の扉から並んで顔をだしているマリアとジギーの姿が見えた。




