表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/58

出会い

勇者がいっぱいの続編になります。ローザライン創世記とはまた別の結末を迎えた後の話ですが、一部リンクしています。

「たっ、助けて!魔物が、私をっ!」


 年の頃は13、4だろうか?まだ大人にはなっていない少女が魔物数匹に襲われていた。この世界にはいなかったはずの魔物、ドラゴンのような外見、背中の翼に禍々しいものが感じられる。通りがかった少年二人と少女一人が、その声を聞いて助けようと駆け寄った。


「とでも言うと思ったっ!ふざけんじゃないよ、あんたたちのせいで父様も母様も死んじゃった。たくさんあった船も沈んで残ってない。そのうえぼくまで殺そうって言うのっ!ぼくは黙って殺られたりはしないぞっ!」


『ぼくは魔力を2消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ

  おお、万能たるマナよ、小さな炎となりて敵を撃て!Parma Ignis(小火球)!』


 魔法の詠唱が駆けつけた三人に聞こえた。しかし勢いよく突き出された右手から出るはずの火球は出ない。魔物は反射的に避けようとして少し離れる。一向に襲ってこない炎に意地の悪い笑みを浮かべた。


「もうどうして出ないのよっ、じゃあっ、次は取っておきを見せてやるわ。」


『ぼくは魔力を4消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ、

  おお、万能たるマナよ、風の刃となりて、切り裂け!Turbine(旋風)!』


 再び突き出された手からは旋風どころかそよ風すら発生しない。魔物達が馬鹿にしたかのように女の子から少し離れた所で飛び回って踊り狂っている。


「アレックス、助けないとっ!」


「うるさい、俺に命令するな。」


 アレックスと呼ばれた少年はブラウンの髪に茶色い目、比較的高い背丈、がっしりした体に頑丈な金属の鎧と盾を装備している。文句を言いながらも腰から鋼の剣を抜いて、魔物へと向かおうとした。


「駄目っ!アレックス、ネイリー。巻き込まれたら死ぬわよ。」


 三人は見た。さっきまで初級の魔法すら発動させることの出来なかった少女から、膨大な魔力が放出されるのを!放出された魔力が天へ昇り一条の雷となって魔物達を襲う。一瞬で絶命した魔物達が空中から地へと落ちた。


「なっ、何よ、あんな魔法知らないわ!」


 仲間を殺された魔物が恐れをなして少女に背を向けて逃げようとする。そこには三人の人間の姿、魔物は逃げ道を失った。そしてその魔物は鋼の剣に斬られて倒れた。


「こんな街中まで魔物が入ってくるとはな、マリア、その子はどうだ?」


 鋼の剣についた血を拭ったアレックスが、少女を介抱しているマリアと呼ばれた少女に声をかけた。肩より少し長い綺麗な金髪に碧眼、金属光沢のあるローブを纏う姿は精霊神の姿を思わせる。


「気絶しているだけよ。さっきの雷で少し怪我をしているけど、大丈夫だと思うわ。」


「それはよかった。直撃していたら死んでいてもおかしくない威力だ。それよりどこの子だろう?」


 もう一人いた少年は黒髪に黒の目、中性的な端正な顔をしている。やや細身の体を覆う鎧は薄汚れている。倒れている女の子の顔を覗き込んで言った。


「分からん。町の者も見当たらないし、どうしたもんかね。」


「アレックス、無責任なことを言ってはダメよ。それよりさっきたくさん船が沈んだって言ってたじゃない、多分グランローズ商会の子だわ。」


 マリアがアレックスと呼ぶ少年を嗜めた。見る人が見たら分かるだろうが三人とも身につけている装備に各々違う紋章が刻まれている。だが目の前の少女は気絶していて気づいていない。


「なら港まで連れて行かないと、多分あのお爺さんも心配しているでしょう。」


「なら俺に任せろ。これで男を抱き起こした感触を忘れられる。」


 アレックスは気絶したままの少女を軽々と抱き上げると港の波止場へ歩き出す。ネイリーとマリアもその後を追う。アレックスの言葉にネイリーが嫌そうな顔をしていた。


 -----------------------


 時は遡ること前日の同じくらいの時間、アレックスは単身グランローズの港にたどり着いていた。世界の中心に位置するこの港は往来する船も多く賑わっているはず、しかし今アレックスが歩いているこの港にその活気はない。


「ちっ、しけてやがる。この様子だと同盟の約定も期待できないかもしれないな。」


 アレックスはそう呟くととりあえず空いている宿屋を探して歩き出した。アレックスの言う同盟の約定とはローザライン、メタルマ、ローゼンシュタインの同盟三国にはるか昔から伝わる約定で、有事の際には各国共同で当たるべしと記されているものである。もっともその有事というのが如何なることを指しているのかは長い平和の内に忘れ去られていた。


 アレックスの祖先は封印されていた世界ノイエラントを開放した勇者アレフ。後のローザライン、メタルマの二カ国となる暗黒大陸を開拓した初代の国王。アレックスはその血を引いて剣技に長けていた。


 アレックスは不穏な空気の中、怪しい人物の存在に気づいていた。足を引き摺るように歩く一人の少年、着ている金属の鎧は元は立派な物だろうが至る所傷だらけの上、泥に塗れている。しかも落ち着かない様子であらゆる方向に視線を送る様は何かを恐れているようでもあった。


「おい、そこのお前。」


 アレックスは思わずその怪しい少年に声をかけた。声をかけられた少年はビクッと身を震わすとアレックスの方に視線を向けた。


「・・・僕のことか?」


「ここには俺とお前以外いない。一つ聞く。お前は誰だ?」


「・・・人に名を聞くのならまず名乗るべきだろう。ローザラインの者は礼儀を知らないのか?」


「なるほど、確かにお前の言う通りだ。いいだろう。俺はアレックス、アレクサンデル=ローザラインだ。」


 アレックスは胸を張って堂々と名乗り上げた。本来なら外で名乗ることはしない。国の要人ともなるとどこに敵がいるか分からない。だが名乗り上げた。誰にも負けない自信があるのだ。


「君がローザラインの・・・。僕はコルネリアス=ローゼンシュタイン、父上と母上にはネイリーと呼ばれていた。」


「呼ばれていた?過去形はのはどういうことだ。」


 絞り出すような声、意味深な言葉にアレックスが疑問を口にした。ローゼンシュタインの王が崩御したとは聞いていない。


「ローゼンシュタインの城が落ちた。一週間前、突然現れた魔物の群れが押し寄せてきた。僕も最後まで闘おうとしたが約定を守る為に脱出する様言われた。」


「・・・まだ過去形にするのは早い。もう一人、メタルマの者が現れたら行こう。」


「気休めなんかいらない。秘密の通路を通り抜けた後、燃え上がる城を見た。でもかならず仇は取る。その為にここに来たんだ。」


「分かった。約定に従って俺も手伝おう。」


 アレックスは言葉と共に右手を差し出した。その手を力無いネイリーの手が握った。


「じゃあ、その約定に私も混ぜてもらうわね。」


 突然聞こえた女の声に二人が振り向く。そこには同じぐらいの年齢の少女がいた。小さく紋章の入った銀色のローブ、手に持っている杖は魔法使いであることを想像させた。


「誰だっ!?」


「誰だとは失礼ね。私はマレーネ=メタルマ、マリアでいいわ。この自己紹介は7年前にもしたはずよ。もしかして覚えてないのかしら。」


「残念ながら覚えていない。俺はアレッ・・」

「自己紹介は要らないわ。あなたはローザラインのアレックス、そちらはローゼンシュタインのネイリー、同盟国の主要人物ぐらい覚えておくものよ。」


 アレックスの言葉を遮るとマリアは二人を指し示して名前を言ってのけた。


「次からはそうする。」


 悔し紛れにアレックスがそう言い返した。ドサッ!突然の物音にアレックスとマリアが振り向く。そこには地に伏せるて眠っているネイリーの姿があった。


「おい、こんな所で寝るなっ!って言っても仕方ないか。」


「そうね。さっきの話からすると落城から一週間、ほぼ不眠不休でここまで来たのでしょう。アレックス、運んであげてね。」


「なんで俺が!」


「私に運べって言うの?それこそ無理な話よ。」


 結局、アレックスは気を失ったネイリーを担ぎ上げて最寄りの宿屋へと運ぶことになった。ぶつくさ文句を言いながら・・・。

僕の勇者は王子様を大幅に改変してます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ