第十二話 「遠き海辺からの願い ―― お布施という名の導き」
# 第十二話
## 「遠き海辺からの願い ―― 課金(お布施)という名の導き」
山間の街道、午後。
木漏れ日が揺れる中、クロードは岩場に腰を下ろしていた。
手元にあるのは、先ほど山賊の頭目から「寄進」させたばかりの、ずっしりと重い皮袋。そして、それ以上に重量感のある、潮風の香りがする封書だった。
「……また分厚いな。あいつ、毎日論文でも書いているのか?」
届いた白銀鳥の脚から手紙を抜き取る。
差出人はセレディア。丁寧な封蝋、上質な紙。そして、その筆跡からは彼女の「隠しきれない情熱」が溢れ出していた。
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> **クロード司祭様**
> いつも多大なるご支援、本当にありがとうございます。
> 教団の規則では、辺境への支援は管理司祭個人の『所有権』に基づく投資とされていますが……これほどまでに無私で継続的な献身を賜れるとは、夢にも思っておりませんでした。
> お陰様で、修道院はかつての面影がないほど賑わっております。
> 最近では村の方々から、新鮮な鯛やハーブ、まで購入出来るようになりました。
> ですが、今回筆を執りましたのは、他でもないご相談があるからです。
> 先日の祈月祭にて、女神様より『神託』が下されました。
> 私、セレディアには、**『女神官剣士』**への道が。
> そしてリシェルには、**『女魔道士』**への適性が示されました。
> 本来なら、私のような無力な修道女が望むべき道ではないのかもしれません。
> 教本によれば、武具一式や高度な魔導書を揃えるには、小さな村の予算を上回るほどの高価な経費が必要だとか……。
> ですが、王国は荒れ、この辺境にも海賊や賊の影が忍び寄っています。
> 私は……誰かに守られるだけの存在ではなく、この修道院の子供たちや島の人々を、自らの力で守れるようになりたいのです。
> リシェルも、慣れない魔力操作に目を回しながらも『もっと皆のお役に立ちたい』と、猛勉強を始めております。
もちろんこれまで通り修道女としての務めも果たして参ります。
> もし、許可をいただけるのであれば、私は剣を取りたいと思っております。
> 司祭様のご判断を、神妙にお待ちしております。
> **潮鐘修道院修道女**
> **セレディア**
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クロードは干し肉を噛み締めながら、鼻で笑った。
「女神官剣士に女魔道士か。……神託が下ったなら、一定以上の適正はあるんだろうな…もっとも女神官剣士は剣の腕前は高くないはずだがだ、あれは聖女要素の方が強い…」
この世界において、職業適性の判定は絶対だ。
適性がない者がどれほど努力しても、上級職のスキルは発現しない。つまり、彼女たちは「素質」という名のプラチナチケットを手に入れたことになる。
(ただの修道女として置いておけないのか…しかし金がかかるな…)
クロードの脳内では、冷徹な計算式が弾き出されていた。
中央の司教たちは、若く美しい修道女を「愛玩用の人形」として使い潰す。だが、職業レベルを上げた場合であれば、教団もむやみには手出ししない、まあもちろん肥った司教達の貪欲な欲望の前には無視される場合も多々あるが、貴重な戦力を損なうことは、教団全体の利益に反すると主張する事も出来る場合もある。
(司教共の酒代に消える上納金を、こいつらの装備・教育代に回すだけだ。修道院経営や孤児たちの生活も回って来たのなら別に良いか…)
クロードは懐から羽根ペンを取り出し、いつものように「含蓄があるように見えて、実は丸投げ」な返信をしたためた。
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### 【クロードからの返信】
> **修道女セレディア**
> 人が己に与えられた才を磨くことは、女神の導きに応える行いである。
> 祈祷によって示された道があるならば、それを疑う必要はない。
> 力は、振るう者の心次第。
> 民を守るために剣を執り、真理を求めて魔導を修める。
> その志が揺らがぬ限り、私はそれを否定せぬ。
> 必要経費――武具、魔導書、訓練費については、修道院運営に支障が出ない範囲で全額認める。
> 存分に研鑽を積むがいい。
> 女神の加護を。
> **クロード・ヴァレンティス**
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「……よし、これで追加投資確定だな」
数日後。
潮鐘修道院では、震える手で手紙を読んだセレディアが、大粒の涙をこぼしていた。
「認めて……いただけました……! 『全額認める』だなんて……クロード様、どれほどの負担を私達のために……っ!」
「やったあああ!! 魔導書! 術式集! 買ってもらっちゃうからねー!!」
狂喜乱舞するリシェルと、歓喜に沸く子供たち。
セレディアは胸元で手紙をぎゅっと抱き締め、決意を新たにする。
「……もっと強くなります。クロード様が信じてくださった、この命に代えても!」
彼女の脳内では、クロードが「若き才能の芽を摘まぬよう、身銭を切って未来を拓く、稀代の教育者」として神格化されていた。
一方その頃。
山道を歩くクロードは、奪ったばかりの財布を振って、ジャラジャラという音を楽しんでいた。周囲には物言わぬ賊徒の骸が横たわる。
「女神官剣士の服装は高くつくんだよな……。まあいい、その分どこぞの汚職代官から多めに『寄進』させれば済む話だ」
教育者とは言えない狩人のような顔で、彼は次の獲物を探して森の奥へと消えていった。




