出会い
今日もバイトが終わった。
あたりはもう真っ暗で道には誰もいない。
そもそも俺は金を稼ぐために深夜バイトをしているので、帰宅時間の明け方は普段からあまり人とは出会わない。
それに、うっかりバイト先で家が近い事を話してからは1時から3時までのヘルプなど変なシフトが入るようになってしまった。
正直めんどくさいが金は欲しいのでしょうがない。
夜だとただでさえ人通りの少ない帰り道では人を見掛けることはまず無い。
だから、帰りの時間だけはこの世界に自分しかいないような不思議な感覚を味わうことが出来た。
それは、大学とバイトの行き来しかしていない俺にとっては唯一心が落ち着く時間となっていた。
それが、今日は違った。
いつもの静かな俺だけの世界に、今日は人がいた。
そいつは、塀を上って家の中に入っていった。
それを見た瞬間に本当は携帯を出して緊急通報を押すべきだったんだろうが、俺の手は携帯を出したところで止まってしまった。
頭の中をいろいろな仮説が駆け巡った。
もしかしたら家の鍵を忘れたのかもしれない。
それか、今はやっているパルクールの練習かもしれない。
他にも、、、、、、、
いや、とにかく通報するにはまだ早い。
現にもう数分ほどたったが、家の方からは物音も争う声も聞こえない。
もし本当に強盗のようなものならば、窓を割る音くらい聞こえてきてもいいはずだ。
もしかしたら俺の見間違いかもしれない。
よく考えると俺は昨日から大学の課題をやっていて、そのままバイトに行ったのでもう丸1日くらい寝ていないことになる。
ここ1ヶ月ほど寝不足で疲れている体はたった1日でも十分に悲鳴をあげていた。
やはり俺の幻覚だったんだ。
早く家に帰って寝よう。
頭を切りかえ歩き出した時、あいつが戻ってきた。
塀を乗り越え立ち上がったそいつは、こちらを見た。
一瞬だったし暗かったが、そいつは確かに笑っていた。
俺の方に歩いてきたそいつは、左手の人差し指を口元に近づけ
「しーっ」
俺の横をとおりすぎて行った。
そいつからは、甘い香水のような香りがした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「はっ!」
視界いっぱいの白い天井。カーテンから差し込んでくる陽の光。
間違いななく俺の布団の上だった。
いつの間に帰ってきたのだろう。
昨日の記憶が途中で切れている。
もしかしたら夢だったのかもしれない。
携帯で時間を確認すると、午前10時だった。
「やば、大学遅刻する」
布団から飛び起きて身支度を済ませ家を出た。
駅に向かって走っていると、甘い香りがした。
昨日の記憶がぶわっと蘇ってきた。
思わず立ち止まり振り返った。
昨日と同じシルエット。同じ香り。
今なら間に合う。
そう感じた時には、足はもう動いていた。




