第7話
目覚まし時計がなる前に目が覚め、ゆっくりとベッドから起き上がった。
歯を磨き、顔を洗い、寝癖を直し、クリーニング済みのスーツをパリッと着る。
机の上に置いた退職届を鞄に入れて、ちょっと早めに家を出た。
いつもの通勤経路を通り、いつもの駅で電車に乗る。最近はこの辺り前さえはっきりと見えるようになった。もやのかかった景色じゃない。
忙しなく闊歩する人達が今日も仕事に向かい何かをつかもうとしているのだろう。
僕は今日退職届を提出する。
鞄をきつく握り、駅の改札を出た。
今日のお昼は寿司にした。回ってるやつじゃない。カウンター越しに注文する憧れのお寿司やだ。退職祝いという事で今日だけは奮発しようと思う。
しばらく有給を消化した後に正式に退職だが、もう書類手続きだけだと思うと凄く晴れやかな気分になった。
お昼を終えて、家とは真逆の電車に乗った。
午後はあきちゃんに会いにいくと約束していたのだ。
あの空間が消滅した後、僕は電車の中で目を覚ました。最初は夢でも見ていたと思ったが、手に握りしめていた包み袋を見て、確信した。体も携帯も無事だったが確かに長洲森駅での出来事はあった。
消えたはずの長洲森駅がその後発見されたのは1ヶ月後の事だった。
長洲森駅の発見は大きくテレビに取り上げられ一時その話題で持ちきりであったが、今は落ち着いたようだ。
僕は長い階段を登りきると小綺麗で規則正しく並んだお墓が並ぶ平野にたどり着いた。
あるお墓の前で止まり、手に持っていた花を置く。素早くロウソクに火をつけ線香を焚いた。独特の匂いが鼻をつく
あきちゃんのお父さんは一人現実に戻った後、何度もあきちゃんを探しに電車に乗ったという。警察も長洲森駅を何度も探したが発見できずやがて捜索は打ち切られた。あきちゃんのお父さんは周りからは頭がおかしくなったと言われ、やがて休みがちになってしまった仕事も解雇され、最後は病気でこの世を去ったという。その最後まであきちゃんの名を呼び続けたという。
僕はお墓の前で手を合わせた。
ここで眠る父親と......その娘に向けて......
長洲森駅が発見されると棺に入った白骨遺体と駅の椅子に座った白骨遺体が発見された。
一人は村の村長 秋森元成であり、もう一人は日向亜希だった。
この事件は数々の謎とともに風化しつつある。
発見された日向亜希の手には当時商品化されていない飴の包装が発見された。
駅長はその後の行方は不明である
僕は亜希ちゃんと一緒に帰ってこれた。
だけど彼女を救うことは出来なかった。
あの空間から魂が解放されて安らかに眠っていると思いたい。
あの世界で見た寝顔を思い出す。
僕はゆっくり目を閉じてただただ天に祈った。
目を開けると春の日差しが目に入る
うっすらした視界の中
手を繋いだ親子の後ろ姿が遠くに見えた。
とても仲良く話し合っている姿にいつか見た夢を思い出す。
ふと少女が振り返り笑顔を見せた。
遠くにも関わらず笑ってありがとう、そう聞こえた気がした。
瞬きをするとそこには誰の姿もなく霊園が続いていた。
そうだな、きっとではない必ずあの少女の魂は父親の元に帰れたのだ。
君が繋いでくれたこの命を大切にするよ。
僕は鞄を持って霊園を後にする。




