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その後のその後の解決

予想以上の反響だったので続きを書いてみた。

「さて、それではこれより今後の辺境伯爵領の目的について検討しよう。いくつか方策は考えているが、自由な意見を聞きたい。」


 私が開催した辺境伯爵領の今後を定める会議開会の発言に対し、同じく円卓に座る長兄のジオルグと次兄のサイラスが頷く。

 なお、本来であれば、父上と母上、三男の弟スカイが参加するはずであった。しかし、父上は以前に私が領内に戻った際に爵位を譲り受ける条件としてあった決闘の結果、負傷療養中であり、母上は看病で付き添っている。もっとも、実際にはいちゃついているだけである。両親には新しい弟か妹を作らないように注意してもらいたい。

 弟については、ある日唐突に旅に出てから3年ほど連絡がないままである。


「問題はただ一つだな。今は問題ないが、この王国が隣国の帝国に吸収され、統治が進めば、我々は確実に邪魔物になる。政治的なものならまだしも、包囲された状態で殲滅戦を行われると物量で押し切られる可能性がある。そうされないように対応を考える必要がある。」


 ジオルグ兄上の意見は全くもって正しい。そこが唯一かつ最大の問題だ。流石に当家の領地管理を支えているだけのことはある。見た目は大柄で熊のようにしか見えんが。


「それなら、簡単だろ?王国の要望と関係なく、現状のまま帝国軍を撃退すりゃいいんだ。うちの領内は王都からも兵隊が帰ってきて、5000にはなる。山の出口をふさげば、帝国軍が1万だろうと2万だろうと撃退はできるだろ?」


 サイラス兄の意見も正しい。そうなのだ。おそらく普通に防衛すれば、帝国軍くらいであれば勝てる。兵士一人当たりの戦力比で見れば、当家の兵士一人で帝国兵三人程度なら対応できる。王国兵であれば、十人程度は相手にできる。

当家の軍事担当としては知性に欠けるところはあるが、こと戦闘に関しては本能と直感による指揮で勝てるという我が家の歴代当主の性質を引き継いでいる。ちなみに、こちらの見た目は中肉中背で体は引き締まっているが、顔にある傷跡が迫力を出している。


「しかし、ジリ貧とならないか?今回の件で王国は敵に回している。後背に王国を控えさせたままの戦闘となると長期の戦は危険すぎるぞ。かといって、王国と和解するというのはあり得ないぞ。ぽっと出のウチのレイラが女王になると認める貴族はいないだろうし、今回の件でうちの者は帝国よりも王国に対する敵意のほうが強いくらいなんだからな。」


「なら、先に王国を占領してから帝国へ対応する。王国の兵士なんてヘナチョコなんだから、1000も向かわせれば王都の占領なんて出来るだろ?」


「それに関しては、レイラも使者に話した通りだ。占領は出来ても、長期の統治となると人材も足りんし、討ち漏らしの蠢動などの対応の必要性も含めると、むしろ悪影響も大きい。」


「むぅ。」

 サイラス兄も代替案が思い浮かばないのか腕を組んで黙ってしまったか。

 とりあえず、兄上らも正確に現状を理解しているようで助かる。


「それでは、ジオルグ兄上には代替案はありますか?」


「ふむ。少し難しいな。即座には思いつかないな。」

 ジオルグ兄上も腕を組んで考え込み始めた。


「さてっ!それではまずは私の考えを聞いてもらおう。」

 椅子から立ち上がり、発言する。


「考えられる案は3つだ。

 一つ目は、帝国軍の間と和平を締結する。しかし、これについては帝国軍を説得する材料に乏しい。時間をかければ向こうはこちらを討伐できる可能性が高いことはジオルグ兄上も言うとおりだからだ。言い換えれば、何かしらの材料があれば、可能性があるということだ。」


「まぁ、それはそうだろうな。でも何かあるのか?」


「サイラス兄。それは後で話そう。次に二つ目としては、帝国の傘下に入ることだ。領地の安堵を条件にということになる。しかし、こちらも領地の安堵を認めたほうが占領するよりも良いと判断させる事情が必要になる。ただ、これに関しては私の誇りの問題だが、選択したくはないと思っている。」


「レイラも中々困ったことを言うね。」


「はっはっは。ジオルグ兄上も少し聞いてくれ。最後に三つ目は、非戦闘員を残してということになるが、領地を捨てて傭兵に戻るというものだ。面倒なことを丸投げにできるし、個人的には非常に惹かれてはいる。」


「ほほう。それは面白いなっ!!」

「それは不味いだろう。」

中々珍しいな。兄上らの意見が異なるとはな。反応が両極端で面白いものだ。


「そう。我々は非常に面白いのだが、領地に残していった者達がどうなるかは帝国次第ということになるということになるので、場合によっては非常に面白くないことになる可能性がある。特に我々は何度も帝国兵を撃退しているから、温情は期待しづらい。」


「それはなぁ。」

サイラス兄も理解したのか一気に勢いが沈下してしまったな。まぁ、こうなってしまうか。


「ということでだ。第一案を基本案とし、それで無理なら第二案、さらに無理なら第三案で可能な限り連れて行くという形で対応するものと考えている。」


「他に案はなさそうだし、それはそれでいいけど。それで勝算はあるのかい?先に言っておくが、レイラと引き換えとかは無しだよ。」

 ジオルグ兄上は先の王子との婚約破棄の件でも思い出しだのだろうか?私個人としてはそこそこ面白い出来事であったのだがな。


「それは交渉の経過次第だな。そこで、サイラス兄の話に戻るが、和平交渉の材料の点だ。」


「おおぅ。それだ。何があるんだよ。」


「ウチの領内は、自給自足は可能だが、王国内陸部と比べれば、そこまで肥沃とも言えないし、特産物もない。後は何らかの譲歩をする必要があると思うんだけどね。」


「違う。兄上らは決定的に勘違いしている。当家には他にはない特産物がある。素晴らしい特産物がな。説明のため、帝国の侵攻の前に私は帝国に使者として行くことにする。兄上らは留守を頼む。急ぐ必要がありますので、失礼。」




===============



 領内の円卓会議から二週間。私は今、謁見の間で帝国皇帝の前にいる。

 周りの貴族が騒ぎ続け、私は二名の護衛と共に近衛に囲まれていた。


 ふんっ。仰々しい奴らだ。国境を抜け、王城に忍び込んだだけではないか。害意があるならば正面から堂々と来ずに暗殺しているに決まっておるだろうに。

さて、あれが皇帝か。なるほど、国王と異なり、乱世の王といった感じだが、楽しそうにこちらを見ているあたり器は大きそうだ。


「静まれっ!そこの女ども。貴様らは何者だ?姿を現したのだ、何かしらの用件があるのであろう?」

 低いが、通る声で皇帝の発言が響いた。


「失礼いたしました。初めて御目にかかります。私、王国の元辺境伯爵領を現在独立して統治しておりますレイラと申します。この度は」

「ヒッヒィィ!!レレレレレイラァァァ!!!」

 何だこいつは?人の発言を妨げおって失礼な奴め。礼儀がなってない部下を飼っているな、皇帝の評価も下がるぞ。

 叫び声を上げ、腰を抜かした近衛の一人に向き直る。


「おぉ。スカイではないか?このようなところで会うとは奇遇だな。いやはや兄弟の絆というものは避けがたいものだな。しかし、姉は現在重要な用件の最中なのだ。後で相手してやるから待っておれ。」

「ちっ、ちがっ!」

「まぁ、そう言うな。後で訓練に付き合ってやる。どれだけ強くなったのか教えてくれ。」

「やっ、やめっ!」

 相変わらず、震える子犬のようでかわいい弟だな。後で存分に可愛がってやるからな。今は相手にできない姉を許しておくれ。


「それでレイラ嬢は何用で参ったのだ?近衛のスカイとはどのような関係だ?」


「スカイについては私の実弟です。旅に出ると当家を出た愚弟が皇帝陛下の為に働いておるとは望外の極み。そして、用件につきましては、この度の帝国の王国への侵攻についてです。その際、当家はこれまでのように防衛をせずに不干渉とさせていただきます。その代り、当家の領内の自治権を認め、通商条約と不可侵条約の締結を希望いたします。」


「ほう。侵攻する予定などないのだが、もしそうなったのであれば、それはありがたい。しかし、そちらの領地と我が帝国で対等な条約を結べると思っておるのか?」

 侵攻の点を言質を取られないように誤魔化しながら、皇帝が楽しそうに目を細めて問いかけてくる。


 しらばっくれながらも、単刀直入に聞いてくるとはな。好感は持てるが。


「はい。その理由を言葉で行うのは説得力が欠けましょう。そこで実演で示すのがよかろうかと思います。これから、私も含めた三名で私共を取り囲んでいる近衛十名を無力化致します。宜しいですね。」

 発言すると同時に、一番厄介だと思われる弟を蹴り飛ばす。鎧越しに肋骨が何本か折れた感触が足に響く。壁まで飛んでいく弟の姿に、周りの貴族と近衛の動きが止まる。


「無能がっ!意識を外すなっ!」

 突きつけられている近衛の槍の柄を掴みながら一喝し、槍を持っている近衛ごと横に振り払い、三名を弾き飛ばして気絶させる。

 次の相手は・・・・「お嬢酷いっすよ~。突然言われても困りますわ。」

 ちぃっ。流石に護衛どもは優秀だな。既に三名ずつ打ち倒している。帝国の近衛がこの程度とは戦力比を見直す必要があるか。


「さて、突然のことで失礼いたしましたが、武力なくして権威は維持できないことは既に御承知でしょう。当家の特産物である武力は、帝国と対等となるに十分な点かと御理解頂けたかと思います。

 









 等とこの程度で御理解頂けるはずはありませんでしょう。

 そこで、これより私は王城を出て、首都入口まで向かいます。そこから真っ直ぐこの場を目指します。どのような妨害も排除してこの場に辿り着いて見せましょう。なお、私が逃げない質として弟とこの護衛二名を置いていきましょう。それでは、失礼。」

静かになった謁見の間で一礼して翻る私の背中のほうから「お嬢~」などという声が聞こえる。


===============


「ははははっ。面白い者だな。おいっ。スカイ、話すくらいは出来よう?貴様の姉は何者なのだ?やれるのか?」


「はっ。陛下。失態をお見せして申し訳ございません。申し上げます。私見ですが、現在の帝国の兵力では本気になった姉を抑えるのは不可能でしょう。」

「なっ、バカなっ!!ふざけたことを言うなっ!!一人、しかも女だぞっ!あんな一人に負けるはずがなかろう。」

 ようやく衝撃から回復したのか、貴族が声を上げる。


「誤解を恐れずに言えば、姉は人の皮をかぶった化け物です。私には2人の兄がおります。次兄に関して言えば、個人の武でも指揮の点でも天才と言って良い人物です。兄は当時一五歳でしたが、その時点でもそこにいる護衛や私より強かった。しかし、そんな兄を七歳の姉は正面から堂々と一方的に打ち倒しました。その際に、兄の顔には今でも残っているであろう傷痕が出来てしまいました。」

 話すと折れた肋骨に響くのか、冷や汗をかきながら一泊置いてスカイは発言を続ける。

「より分かりやすく言えば、次兄は武装していれば一人で200名程度は相手にできるはずです。その時点で既に逃げに徹すれば、戦場で打ち倒すのは困難でした。姉は1000人程度ならば苦も無く駆逐するでしょう。「いや、今なら2000は軽いべ」「あぁ、お嬢なら余裕だろうな。」ということだそうです。」

 護衛の言葉を何ら疑わないスカイの姿に驚く皇帝。


「待て。お前は帝国でも5本の指に入る猛者であろう。それでも、比較にすらならんのか?」

 皇帝の問いに答える。


「情けないことですが、肯定せざるを得ません。

 姉は弓を上手く使えません。本気で弓を引けば力が強すぎて弓が壊れるためです。それでも、飛んできた矢を素手で掴んで2,3人は貫通する勢いで投げ返すことが可能です。

 山の獣なども逆らうどころか近寄っても来ませんし、熊ですら腹を見せて降伏してきます。

 私は、幼いころからそんな姉に長年訓練相手をさせられたために、防御だけなら一流と言えるでしょうが、それでも姉には時間稼ぎすら難しいでしょう。

 また、姉はこの謁見の間に苦も無く侵入してきたように、どこにでもバレずに侵入することが可能ですから、暗殺を仕掛けられた場合にこれを阻止するのは困難です。

 加えて、・・・・」


「待て待てっ!何か弱点は無いのか?一人で国を滅亡させることすら出来るではないか?」

 流石にそのような人物の存在すら想定しなかったのであろう。珍しく驚きながら、問い返す。


「姉が本気になれば国を滅ぼすくらいは容易でしょう。

 弱点は昔から変わっていなければ、2つあります。

 まず、姉は泳げません。ですから、海上戦には出てきません。そういう意味では姉と次兄の軍を抜くよりは、海から王国を攻めたほうが良いでしょうね。」


「いや、王国は遠浅の海岸なので接岸までに矢を雨のように浴びなくてはならないから山越えを選んでいたのだがな。」


「それでも、海上から攻めたほうが可能性は高かったかとは思います。軍は意見を受け付けてはくれませんでしたが。」


「それで、2つ目はなんだ?」


「姉は、ああ見えて信義誠実な人物であるため、人や約束は裏切りません。姉や次兄が化け物じみた武力で帝国軍を撃退しなかったのは、次代が育たず、堕落してしまう危険があるので、余程のことがない限り、あくまでも人として戦うように父と約束していたためです。そういう意味では、締結した条約は裏切らないでしょう。逆に言えば、領民を守らざるを得ないから領地に縛り付けることが可能なのです。」


「成程な。だから、ここで余を殺さずに和平交渉をということか。」

 納得したように頷く皇帝。


「御意。不敬ながら、陛下を殺害した場合には復讐戦で領地を包囲され、領民に多くの被害が出る可能性があります。いくら姉と次兄でもすべての範囲をカバーすることはできないでしょう。だからこその不可侵条約だと思われます。」


「ほうほう。なるほどな。」

 何度もうなずき、事情を呑み込むように考え込む仕草を見せる皇帝。


「お考えのところ、失礼いたします。陛下、警備については如何致しますか?」

 皇帝の横から近衛隊長が具申する。


「おぉ、そうだったな。現在、王城配備の者全てに迎撃の準備を整えさせろ。迎撃に失敗しても責任は問わぬ。タダで古今無双の相手に警備訓練が出来るのだ。十分に活用してやれ。」

 皇帝は満面の笑みで指示を出す。


========


「さぁ、何か好き勝手言われているような気がするけれども、平和のために行くとしよう。」

 面白くなることを期待しているぞ、皇帝陛下殿。




 その後、辺境伯爵領は自治領へと変わり、初代自治領主の名をとり、レイラ自治領と呼ばれるようになった。

 以後、レイラ自治領からは帝国に対し、傭兵を派遣することとなり、その屈強な兵士らは帝国の領地の拡大に大きく寄与することとなった。


 なお、年に一度、帝国の王城では1名が近衛らを蹂躙する魔王の降臨と呼ばれる訓練が行われることになったが、どのような訓練が行われているか参加者以外には不明のままであった。


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