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大天使(アークエンジェル)ヨシオ

 

 ――急速に意識が戻って。


【いやぁーーーーっ!!】


 自分の叫び声が耳を打つ。蘭子が目を瞑った瞬間だった。

 カッ

 蘭子のまぶたの向こうで、光が、強く瞬いた。


「っ……!? えっ」

『――ぎゃあああーーーーっ!?』


 蘭子が目を開け、顔を上げると。

 剣を振り上げていた女悪魔が、自らの手を押さえ、絶叫を上げていた。

 その手は焼け、ぶすぶすと炭化していた。燃え焦げた剣が悪魔の前に転がっていた。


 ――蘭子の視界の端に、大きな白い翼が映った。

 真白い羽根――それは蘭子たちの後ろから、蘭子達を包みこむように広がっていた。

 蘭子達のすぐ背後。


 その時蘭子は、この教会に入った時に見た、今自分達の後ろにある天使の彫像が脳裏に浮かんでいた。

 純白の羽を散らし。翼がはためく。

 《天使》が、蘭子達の前へ。魔族に立ちはだかるように、軽やかに降り立った――。


「……ああ……!」


 天使の頭上には、輝く光輪があった。

 その身には白き法衣、その上に鮮やかな蒼い鎧を纏い。背中には織天使セラフを示す、神聖な三対六翼の翼が生えていた。

 の周囲に清浄な光の粒子が、ちらちらと雪のように舞った。


『なにィ!?』


 突如として現れた救世ぐぜの天使を前に、魔族兵が慌てて距離を取る。

 自分達は……助かったのだろうか? 蘭子は思った。

 神を信じよ、と。


 信じる代わりに、この世界の神さまが、自分達に力ある天使を遣わして下さったのだろうか。

 美しき天使は、腰に差した銀の剣を抜き払い、邪悪な魔族兵どもを睥睨する。

 そして、天使がこちらに振り返り――


「……え゛っ!?」


 その天使の顔面を見た瞬間、蘭子の体が固まった。

 紛うかたなき、天使……の、体の上に。

 オーク(・・・)の顔面が、乗っかっていたからである。


 豚とゴリラを組み合わせたような異様で醜悪な顔つき。

 鼻は辛うじて人間の形をしているものの、低く横に広がり、形は非常に醜い。

 厚ぼったい目に大きい顎。顎鬚を生やし、明らかに中年の風体である。


 オークだ。


 完全にオーク顔である。どこからどう見てもエルフを罠にかけて襲ったりする、卑劣なるオーク面であった。

 それだけではない。よく見れば体は中年太りしてお腹が出ているし、足は短いし、体こそ大きいが力士のような体型である。しかも、頭まで若干ハゲている。

 抜き払ったように見えた銀の剣は、先が太くなった、棍棒・・だった。


 オークである!!


「な。なん。な」

「――はい、信者様一名ご案内!! 太陽神アマテラス教団へようこそ! 光の大天使ヨシオが、入信手続きをご案内致します!」

「!?」


 突然オークの天使が、蘭子に向かって叫んだ。いや天使のオークなのか。そのへん蘭子には判然としないが。

 オーク(天使?)はにやりと蘭子に笑いかけると、言った。


「つーわけで、迎えに来た。ちゃんと無事だったな?」

「あ、あなたは……?」

「さっき話してた奴だよ。君らを助けに来た。さっきも言ったが、俺は大天使アークエンジェルをやってるヨシオという。よろしくな、信者さん」


 天使の言葉に、蘭子は目をぱちくりとさせた。

 分からない。何が何だか。天使を名乗るオークが出た。蘭子は混乱していた。


「オーク……? に、日本人って」

「なんだ? 俺のオーク的顔面に興味でもあるのか。言っておくが、ただの生まれつきだ。生まれは千葉の日本人だ、よく勘違いされるがな……」

「あ、ごめんなさい!?」


 蘭子はあわてて謝った。確かに、言われてみれば辛うじて人間の顔である。

 するとヨシオと名乗る天使は、ほう、と少し感嘆したような声で言った。


「友達を庇ったのか?」

「え?」


 一瞬、蘭子は何を言われたのか分からなかった。

 が、自分が両手を大きく広げて、固まっていた事に気づいた。

 まるで背後にいる、南や莉子やクラスメイト達を庇うかように……。


「あ、わ。私」


 守ろうとしていた。

 蘭子は最期の瞬間、背後の友人を身を盾にして、守ろうとしていたのだ。自分でも無意識の行動だった。

 南が、蘭子を後ろから抱き締めた。


「ら、蘭子っ!」

「きゃっ? み、南ちゃん」


 南は泣いていた。莉子が震える手を延ばして、蘭子の腕を取った。


「蘭子。ごめん。ありが、とう……!」

「莉子ちゃん」


 莉子も、蘭子の腕にすがりついて泣き出してしまった。

 ヨシオが首の後ろの装甲にあるスイッチを押した。シュッと鈍色のハンディカムが口元に伸び、耳にイヤホンが装着される。


「アージェント(至急)・リクエストだ。……おい、じじい?」


 するとイヤホンから、女性的な返答が漏れ聞こえてくる。


「――天使長、ミーアです。サポートを行います」

「なんだって?」

「主は、先ほどの天使長との口論で機嫌を損ねて引きこもってしまいまして……。ゲームを持って、別室へ」

「あのクソじじい……。仕方がない、とにかく頼む。残りの救済対象の現在地の特定、及びDoA(生死確認)を。それとアバターだ」


 ヨシオの足元で、手を焼かれた女悪魔が、憔悴し顔を歪ませて叫んだ。


『貴様……よくも私の手を! 何者だ!? 天使だと、そんな物が』

「ん? ……」


 ヨシオが軽く振り返る。

 が、それ以上反応を返す事もなく、視線を外した。


「いや、目の前の連中は、俺だけで全く問題ない。学生連中の護衛に付かせよう。ぞろぞろ引き連れて行ってもしょうがないだろう、確か二番が空いていたはずだが」

『な! こ、この私を無視するだと!?』


 女悪魔が激昂する。

 話し込むヨシオから大きく跳び退ると、蝙蝠の羽を動かし、周囲の魔族兵と共に空へ飛び上がった。


『ふざけやがってぇ! もういい、ラグファノス! こいつらまとめて焼き殺せ!』


 ラグファノスの双頭の口に、灼熱のブレスの光が灯った。

 蘭子はぞっとする。

 ――グオオオオ!――


「い、いけない! 危ない!」

『燃え尽きろォ!』


 ――グギィアアアアーーーーッ!!――

 漆黒の邪竜が爆炎を吐き散らそうと、大きく仰け反り――

 

 

 

「――やかましいッ!!」

 

 

 ヨシオの周囲に、眩い光の光球が、大量に出現した。

 ほぼ同時に光球から、鋭く光線が放たれる。宙へ飛び上がった魔族兵を呑み込み、折れ曲がり集束して、邪竜の全身に襲いかかった。

 付近の全てが光に包まれた。


 コアッ!


「きゃあっ!?」


 蘭子は、目が潰れるんじゃないかと思うほどの大量の光に、驚き目を瞑った。

 そして……光が去った後には、焦げた魔族兵の死骸が空から落ちてきた。

 黒き邪竜はその肌の色を、別の黒に変容させていた。


 全身が炭化し、大穴が体にいくつも開き、目は焼かれて白く濁っていた。その口から煤塗れの黒煙が吐き出された。

 無敵だったはずのドラゴンが。ゆっくりと傾き、仰向けに倒れる。

 ――ズズゥン……!


 30mの焦げた巨体が近くの林をなぎ倒し、砂煙が大いに舞い上がる。

 ヨシオが、炭化した死骸の山に振り返り言った。


「通話中に、ぎゃあぎゃあ騒ぐな。ぶち殺すぞ……!」


 もう全滅している。

 粉塵が過ぎ去り、ヨシオは一度通話を切ると、蘭子達に振り返った。


「やれやれ。無駄な邪魔が入ったが、それで君らは……ん?」

「目、目が」

「あっすまん! ちょっと待ってくれ」


 ヨシオは手を延ばし、蘭子や南達に手を振りかけた。

 すると、目を灼いていた光の残像がすっと消え去り、元に戻る。


「目に入る光線の量を調節した。視力が戻れば徐々に解けるようにしておいたから、安心していい」

「あ。は、はい、どうも」


 蘭子は目を瞬きさせると、あたりを見た。

 一撃。即死。

 あの巨大なドラゴンが。一緒にいた魔族兵ごと、瞬殺である。


「す、すごい……。今のは?」

「俺は《光》の大天使でな。あらゆる光線を自在に操る能力が――まあ、そんな事はどうでもいい事だ」


 ヨシオは軽く流すと、蘭子に向かって言った。


「で、和原さんだっけ。太陽神教うちに入信したとの事だけど。これからいくつか確認事項とかあるから、聞いてもらっていいか?」

「え?」

「まず宗教なんざ、うさんくせー事この上ないと感じてると思うんだが、そのへん誤解を解いておきたい。実際俺も神なんて欠片も信じてないが、そこは置いておこう。

うちは教団なんて銘打っているが、実際にはただの一企業、会社だ。

異世界に飛ばされたトリッパー・転生者に対して、助けや奇跡を与える見返りに、対価として信仰の祈りを貰うという商売をしている。

取り扱っている奇跡しょうひんには幾つかあって、天使が護衛に出るサービスから、地球の物品をお届けする宅配業務まで、幅広く業務を展開している。

安心して欲しいのは、うちは怪しい壷を金で買わせるような事はしないって事だ。要するに我が教団は総合商社であって、信者は客という扱い方だ。ここまではいいか?」

「は、はあ……?」


 つらつらと喋るヨシオに、蘭子は曖昧に頷いた。

 よく分からない。

 宗教……入信とはなんだろう。神を信じよ、などと言っていた事のことだろうか?


 さっきは藁にもすがる思いで、蘭子は信じると言ってしまったが。

 しかし企業や総合商社とも言っているし……?


「見た通り俺達は天使だが、しかし誰でも救済するわけじゃない。そりゃあな。慈善事業でやっているんじゃないんだ。

基本的な前提として、人間または元人間のトリッパー及び転生者、『次元を跨いだ者』である事。

さらに奇跡を受け取るには、二つ条件がある。一つはうちのクソじじい――太陽神を、嘘でいいから、本音じゃ死ねハゲとか思ってていいから、表向き信仰する事。つまりアマテラスの信者となる事を誓って貰う。

もう一点、元の世界に帰還するにあたっては、転移の際に付与された特殊能力を破棄し、こちらへ譲渡すること。

危険がなくなったら、もういらないよなって事だ。元の世界に帰って、チートなんてやられても困るんでな。この二点に承諾が得られた時点で、我が教団と取引する事が認められる。

奇跡の購入・・には、『信仰ポイント』を使って買ってもらう事になる。これは、神に祈る事で手に入る。

溜めた信仰ポイントに応じて、消費して注文する事で本人の元に届けられる仕組みだ。今、君らを助けたのも本当はポイントがかかるんだが状況が状況だったし、おまけで無料にしておこう。

以上で、大方の説明は終わりだが……。なんで信仰を集める必要があるのかだとか、特に聞きたい事があるなら、答えてもいいぞ。何かあるか?」

「えっと、あ、ありません」


 聞くべき事は色々とあるはずなのだが。

 蘭子は、勢いに押されるまま頷いてしまう。


「それは結構だ。では、おめでとう。君は今日から立派なアマテラス教信者である」


 何やら、ぱちぱちとヨシオが拍手してきた。いつの間にか蘭子は謎の宗教に入信を終えてしまったようだった。

 本当になんなのだろう、このオーク似のおじさん……。

 しかし蘭子はすぐに、はっとした顔になった。突然の事で混乱していたが思い出した、そんな事より今は。


「り、莉子ちゃん? 大丈夫!」


 蘭子が横を見ると、莉子は床に倒れぐったりしていた。

 血が石の床に滴り落ちている。先ほど止まったはずの腹の傷の出血が、再び開いてしまったらしい。莉子の体を急に動かしたのが、良くなかった。

 他の重傷を負った生徒達からも、苦痛にうめく声が聞こえる。


「う、う。痛いよ。蘭子、南……」

「莉子ちゃんしっかりして! た、助けて!?」


 蘭子は南と共に莉子を介抱しながら、すぐそばのヨシオに言った。

 ヨシオが頷く。


「構わんぞ。では、対価をもらおうか」

「対価?」

「『神に祈る』事だ。これだ」


 ヨシオが腰の皮袋から、金属製の像を取り出して見せた。

 それは、でっぷりと太った老オークそっくりの、醜い老人を象ったものだった。


「これか、もしくは太陽を思い浮かべて祈ってみろ。信仰の力が神に届くだろう」

「祈る……」


 蘭子は、言われるまま手を祈りの形にして、強く祈ってみる。

 すると合わせた手から、ぽうっと光が灯った。

 それが宙に浮かびあがり、空に飛んでいく。壊れた教会の天井があったあたりで、空間が歪んで吸い込まれていった。


「きゃっ。今のは」

「それが信仰の力だ。今の光がうちのじじい――太陽神に届く。祈って生み出したエネルギーの量に応じて、信者にはポイントが付与される。

信者は付与された信仰ポイントを消費する事で、様々な神の奇跡を授けられる、というわけだな。

確かに御代を受け取った。そら、品だ」


 ヨシオは壜に入った薬のような、青い液体を取り出した。

 莉子の怪我を確かめると、傷口に液体を垂らす。


「動くな」


 すると――


「痛い、痛……。あ、あぐっ! 熱いっ! ……あれ?」


 血が流れ続けていた傷が、塞がり……いや、瞬く間に消えてしまった。

 蘭子は驚いた。これほどの治癒効果は、クラスメイトが使う治癒魔法でも見た事がなかった。


「傷が治ったわ! 莉子ちゃん、平気?」

「へ、平気だけど。もう痛くない」


 莉子はぽかんとして、血の痕の残る自分の腹部を眺めていた。血で汚れてはいるが、傷跡さえ残っていなかった。


「今の祈りで薬一つ分だな。他にも怪我人がいるようだが、どうする?」


 目の前で行われた奇跡に、クラスメイト達は顔を見合わせる。そして、一斉に祈りはじめた。

 今度はクラスメイト達の両手から光が浮かび、虚空へ消える。

 ヨシオはそれを確認次第、回復薬の入った壜を他の全員に手渡した。薬が垂らされ、生徒達が負っていた怪我の全てが綺麗に快癒していった。


 生徒の歓声が上がる。全身を焼け爛れていた男子は、薬を垂らすときょとんと起き上がった。

 包帯の下の焼けた皮膚が元通りになっているのを確認すると、看護していた女子が涙ながらに彼に抱きついた。


「ありがとうございます! 皆、助かりました!」

「毎度あり。気にするな、商売をしただけだ。……と」


 ヨシオの首元からピピッと音が鳴り、彼は通話に答える。


「俺だ。ああ、LZランディング・ゾーンを指定する。送ってくれ」


 ヨシオは木の棒を拾い、少し離れた場所の地面に四角を描いた。

 空間が歪み、天から一条の光が差し込む。地面に魔法陣が生まれ、複雑な紋様が浮かび上がった。

 それ(・・)が、ずるり、と虚空を断ち割って現れる。


 巨大な四足獣の怪物だった。

 燃えるように逆立った白い毛並み。裂かれたように開かれた、大きな眦。黒く縁取られた眼窩には、見る者に畏怖を覚えさせる蒼白く妖しい眼が、爛々と月光に輝いている。

 体躯は、立った状態で4mはあろうか。すらりと長く伸びた足、大振りのナイフほどはある黒曜石の鍵爪が鈍く光沢を放っていた。顎門には、サイズに比した牙が生え揃っていた。


 巨大な狐にも似ているが……。纏うオーラは禍々しく、神々しいほどに凶暴だった。

 神……、いや悪魔。

 いや、神の如き力を持った悪魔だ。


 怪物の周囲に蒼い焔球が六つ、浮かび上がる。炎は地獄の亡者の貌をしていた。


『シュオオオ……』

「きゃあっ!?」

「どうどう。おすわり!」


 怪物はヨシオに命令に素早く耳を反応させると、その場でサッとおすわりした。


「お手」


 怪物が右手でお手をする。


「ち●ち●!」

『ギャウ! ヘッヘッヘッヘッ』


 調教師とペットよろしく命令に従う怪物に、ヨシオは頷いた。


「よろしい。アバター……元の名前はなんだったか? 滅界の象狼なんとか、まあ、ポチでいいか。

ここにいる人間の安全をあらゆる能力を行使して守れ。外敵は殺していい、だが変なもんは食うなよ。行動命令順はいつも通り、護衛を一とし、自己保全を二だ」


 怪物は蘭子達に対して、敵意はないようである。壊れた教会の入り口のあたりに歩いていき、門番のように腰を下ろして身を横たえた。

 怪物が守りに就いたのを見て、ヨシオは言った。


「ミーア、残りの座標データを頼む。じゃあ和原さん。今から君のクラスメイト達を回収に行くから、ついてきてくれていいか?」

「え?」

「いちいち説明するのが面倒でな。こういうのは、身内が呼んでくれると話が早い」


 ヨシオが腕時計に似た機械を操作すると、空中にホログラフの映像が現れ、素早く切り替わる。

 指先から光が放たれ、地面に魔法陣を描き出した。


「治療はしたが、あの薬は体力自体は回復しない。それは別途料金だからな。動けそうなのは君だし、契約の窓口も君だったからな。

転送の魔法陣をくぐって、生徒を連れて安全なここに戻ってくる簡単なお仕事です。手早く済ませよう」

「でも! 急に言われても……」

「怖がる必要はない。魔族だかなんだか、あんな連中は俺がいれば羽虫と変わらん」


 ヨシオが蘭子を引いて行こうとするとそこで、一人の生徒が割って入った。

 先ほどまで怪我をして倒れていた莉子だ。


「ま、待って! あんた一体誰なのよ?」

「む?」

「蘭子に手ぇ出すな。ほら蘭子、こっちに隠れて」

「り、莉子ちゃん」


 莉子は友人の蘭子をヨシオから引き離すと、自分の後ろに隠してしまった。

 あの白い空間でヨシオの声を聞いたのは蘭子であり、莉子は正体不明の怪しいオーク顔中年を見て警戒しているらしい。

 南も、蘭子を庇おうと立ち上がる。


「敵じゃないみたいだけど……。いきなり出てきて助けて、こっち訳わかんないわよ? 本当に誰なの?」

「おっさん言うな。せめて働く素敵なおじさまと呼べJK。見ての通り、俺は救いを与える聖なる大天使だが?」

「そんなオークそっくりの天使がいるか!?」

「事実なんだがな……。こうしているのも時間が惜しいんだが。はぐれた仲間を助けたいなら、急いだ方がいいぞ?」


 莉子達が顔を見合わせる。ヨシオは言った。


「まあ日本に帰りたくないってなら、別だけどな。無理強いはしないから好きにしろ」

「……日本に……帰れる?」

「ああ。うちは帰還業務もやっているからな。そういうトリッパーは、多くてな。希望するなら地球へ戻してやろう。

それには説明した通り、あらかじめ特殊能力を破棄してもらう必要があるが……」

「おおお、おいっ! おっさん! それ本当っ!?」

「引っ張るな」


 莉子が裏返った声を出して、ヨシオの服を引っ張った。


「落ち着け! 帰りたいなら帰してやる。汝が神を信じる限り、ってやつだ」

「あたし達、家に帰れるの? 嘘じゃなくて?」

「信じる者は救われるっつってんだろ。現に、俺は次元を渡ってここまで来てんだ」


 その言葉に、莉子はへなへなと、その場に座りこんでしまった。


「ら、蘭子。こんなの。信じられる……?」

「莉子ちゃん。わからないけど、でももし本当なら」


 蘭子は思う、まさかだが、本当に帰れるなら。

 この天使を名乗るおじさんが、自分達を日本に帰すことが出来るなら……。


「そっちは柄野南さん、だったか? 君はどうする。神信じるか」

「え、私は、ちゃんと家に帰してくれるなら。断る理由はないよ! でも本当にこんなこと。降ってわいた話みたいに」

「別に偶然ってわけじゃなく、こっちがトリッパーを探してただけなんだがな」


 ヨシオは、莉子を手招きして立たせて言った。


「じゃ、君らのクラスメイトの場所に案内してくれるか? こっちも仕事なんでな。信者を獲得しなけりゃならん。

帰りたくねー奴もいるかも知れんが、せめて半数は契約を取りたいもんだ」


 半数も何も、蘭子のクラスは全員が帰還の為に過酷な旅をしてきた。

 このヨシオが嘘をついていないなら、本当に日本へ帰してくれるなら、誰も反対はしないだろう。


「心配なら三人で来ればいい。それじゃ行こう、ついてきてくれ」


 このヨシオが嘘を言っているかは、蘭子達には分からない。

 だが蘭子達を助けてくれたのは事実だし、今は他に取るべき方策もなかった。

 蘭子達は頷き、ヨシオを追って魔法陣へ踏み込んで行った。

 

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