降臨まで 後篇
……そうして蘭子たちは、森の中を彷徨っていた。
おそらく30mを超す、大きな――黒い双頭のドラゴンだった。
強靭な鱗はあらゆる魔法や矢を弾いた。二つの口から吐き出す炎は、広く木々を灼いた。
突如出現した邪竜ラグファノスの攻撃で、蘭子達のクラスは散り散りになってしまった。
蘭子を含む数名の生徒が結界の魔法を張ってどうにか防ぎ、咄嗟に森の中に逃げ込んだまでは、クラスメイト全員が生きていたのは分かっている。
そこからは、もう、分からない。
蘭子達三人は仲間とはぐれ、見失ってしまった。
さらには逃げる途中、魔族兵の放った投槍が、避け損ねた莉子の腹を貫いた。蘭子と南は倒れた莉子を担ぎ、ひたすら森を走るしかなかった。
あれから、もう何時間も歩いただろうか……。
蘭子は後ろを振り返る。
陽はついに落ち、夜闇の森が密やかに蘭子達を包んでいた。耳に聞こえるのは、草のざわめきと虫の音ばかりである。
追ってきている様子は、蘭子が見たところ無いように思える。だが、敵は蘭子達を皆殺しにしようと、追っ手を差し向けているのは間違いなかった。
魔族が二年一組の生徒達に対して、固執しているのも分かっていた。
彼らは魔王復活が遅れた失態を、蘭子達を殺して魔王の前に捧げる事で許しを乞いたがっていたからだ。
とにかく蘭子達は進むしかない。
「ふう。ふう」
蘭子達は荒い息をつき、莉子を背負って山道を下りていく。
このまま森を抜けて、いずれどこかで休息しなければならない。ここは旧ヴァヲ新王国の跡地であり、打ち棄てられたままの廃村もある。
はぐれたクラスメイトの仲間達とは、森を抜けた先にあるはずの村跡地で落ちあう約束をしていた。そこは人類連合軍が仮の補給拠点にしていた場所で、そこに着けば仲間と会える可能性が高かった。
運が良ければ他の人類軍部隊とも、合流できるかも知れない。
だが、莉子の重さで三人の足取りは重い……。
蘭子は、絶対に諦めるわけにはいかなかった。たとえ手がちぎれようとも、莉子を置いていく事だけはできない。
この異世界トリップの中で、新しく出来た友人。
莉子は以前クラスのカースト上位、ギャルのグループに属していた。内気な蘭子とは接点がなく、莉子の金髪を見て、怖い人達なのだと一方的に思っていた。
でも、その考えは間違いだった。莉子は本当は心根の優しい女の子だった。
気の弱い蘭子はモンスターに襲われたり、立ち寄った町でガラの悪いごろつき共に絡まれたりするたび、何度も怖くて泣いた。
そのたびに莉子に助けられ守られてきた。
サーベリア神聖国を目指す道中、心が折れて諦めてしまいそうになった時もだ。莉子に激励されて立ち直れた。そうして蘭子はクラスの仲間達と再会する事ができたのだ。
日本が恋しくて泣いていた時、南と二人で、ずっとそばにいて慰めてくれた。
なら今度は、自分が莉子を守る番だ。
早く森の外へ。仲間の待つ村で休み、莉子に手当てをして。治癒魔法を使える魔導士を探して、傷を癒してもらわないと。
もし魔族に追いつかれたら? 魔力を使い果たして、木の棒を取って戦ってでも、莉子を守る。
私じゃ役に立てないかもしれないけど。莉子だけは、絶対に……。
ますます顔色が悪くなってきている莉子の唇が、小さく動いた。
「蘭子。あたし、もうダメかも……。後ろから来てる。追いつかれるから、あたしを」
「だめ!! 莉子ちゃんは、置いていけない!」
答えは決まりきっている。
だが、莉子の続く言葉は違っていた。
「ごめん。かっこつけた。やっぱり、見捨てないで……! こんなとこで死にたく、ないよ。一人で死ぬなんて、やだ……!」
それはきっと、莉子の本心だったろう。
もし蘭子が同じ立場だったら。こんな真っ暗な森の中で一人、最期を迎えるなんて。絶対に嫌だ。
「ひっく。やだ。死にたくない。怖い……! 家に帰りたい」
莉子の目から、痛みに耐える以外の涙が、初めてこぼれた。
いつも気丈で、頼りになって、それでいて優しい彼女が見せた弱気だった。
それに触発されたのか。自分を重ねてしまったのか――蘭子と並んで莉子を担いでいる南もまた、ぽろぽろと涙をこぼした。
「私も。帰りたい。家に帰りたいよ。お母さんや、お父さんに会いたい。このまま異世界で、死んで帰れないなんて絶対やだよ。ぐすっ……」
南も、限界だったのだ。
魔族兵に追われ、傷つき、剣を失って。髪まで泥だらけで。この暗い森の中で、ついには死ぬかも知れない。
暗い空気が三人にのしかかった。思わず立ち止まりそうになる。
だが今、止まってはいけない。蘭子はそう思った。背後からも追われている今、それだけは駄目だった。
蘭子は、自分も泣き出したくなるのを必死に我慢して、莉子の手を握り締めた。
南の手も握りたかったが、莉子を支えなければならないので、代わりに南の肩を強く掴む。
「莉子ちゃん、南ちゃん。大丈夫。私が一緒だよ。一緒に元の世界に帰ろ」
「……蘭子」
「蘭子。あたし」
「一緒にいるから。私達、ずっと一緒だから。三人で一緒に帰ろ」
蘭子は、莉子達を慰めながら、自分もこらえきれず涙が出てきた。
すると莉子が震える手を延ばし、南の手を握った。
南が泣いた顔を上げた。
「……うん。そうだね蘭子。蘭子と、莉子と、皆と一緒に帰りたい。三人で一緒に帰ろう」
「ね、ずっと一緒よ。私も、帰ってお母さんに会いたいわ。皆で帰ろう」
「ママ……。ぐすん、痛い、そうよね。ママの作ったご飯、食べたいな。帰ろうよ、一緒に」
蘭子たちは互いに話しながら、山道を下った。三人で泣きながら、三人で手を繋いで、森の中を進んでいった。
やがて森を抜けた。
蘭子達のすぐ目の前に、村が広がっていた。
「……着いたの?」
目指していた廃村である。
ただ、人の気配は無かったが、魔族の姿もない。
少し前まで人類軍が進駐していた形跡があった。壊れた馬車が横倒しになり、捨てられていた。
すでに撤退してしまった後のようだった。
ここにたどり着くのがもう少し早ければ、合流できたかも知れないのに……。
「そんな。どうしよう。このままじゃ莉子の怪我が」
南が落胆した顔を見せた。
蘭子も、ずんと足が重くなるような気がした。だが、無理やり心を奮い立たせる。
諦めない、決めたのだから。まだ諦めるわけにはいかない、いかないよ。
蘭子は臆病な自分の中に、こんなにも腹の座った自分がいた事に驚いていた。
「……探そうよ。まだ仲間がいるかも。いなくても、薬や包帯が残ってるかも知れないから」
痛む足をひきずって、三人は暗い村の中を進んだ。
村の中央には、教会があった。石作りの頑丈な建物には、中にちらちらと灯りが灯っているのが見えた。
「! 誰かいるわ!」
蘭子達は莉子を担ぎ、門をくぐって中へ入った。
果たして教会の中には、十人ほど見知った人間――はぐれたクラスメイト達の姿が認められた。
礼拝堂の一番奥には、この村にあった古い信仰だろうか、翼を広げた男性の天使の彫像が置かれていた。
「みんな!」
蘭子の声にクラスメイト達が振り返った。そして傷ついた莉子を見て、数人が駆け寄ってくる。
「よかった……。大変、莉子ちゃんが怪我して」
「蘭子ちゃん!」
すぐに莉子の体がクラスメイトに運ばれ、長椅子の上に寝かされる。
この場に全員はいないが、クラスの生徒の一部はやはりこの村に辿り着いていたのだ。
「椎名さんに手当てを。和原さん、柄野さんも座ってくれ」
「ありがとう。ふう」
蘭子は疲れ果てたとばかりに、椅子に座りこんだ。
周囲を見ると、重傷軽傷問わず傷を負い、装備をなくした者ばかりだ。
莉子と同じように長椅子に寝かされたクラスの仲間が、痛々しく傷を押さえてうめいていた。皆、満身創痍で、疲れ切っていた。
特に男子達の傷がひどい。全身のやけどを包帯で巻かれて寝かされた男子の横で、女子の一人が、嗚咽を漏らして泣いていた。
「少し前にここに着いたんだ。運悪く置いていかれたらしい。重傷人も多くて、これ以上動かせない」
「治癒魔法を使える人はいないの? 誰か」
「残念だけど……。俺達も、治癒ができる『ジョブ』持ちを待っていたんだ。クラス委員長もいない」
頭に包帯を巻き、両手と右足を怪我して横になった男子が首を振った。見回せば、ここにいるクラスメイトは、戦闘職や技術職のジョブの生徒ばかりだった。
『僧侶』や『神官』など……、《治癒》の呪文が使用できる職業は一人もいないらしい。
「せめて『賢者』の委員長がいればな。途中で見失っちまった……。あんな状況じゃ、一人も死なずにというのは、難しいかも知れない」
「そんな……」
「包帯と《聖水》を教会の奥で見つけたんだ。ひとまず応急処置だけはできるけど、それ以上の治療ができなくて」
《聖水》とは、この異世界における魔法アイテムだ。
効能は、つまり消毒である。便利な事に止血効果もある。だが、それだけだ。
長椅子に寝かされた莉子を前に、蘭子と南はうなだれた。
このままではいけない。莉子の傷は、腹部だ。今は手当てされ出血は止まっているが、外科的治療もなしに放置すればどうなるのか、火を見るより明らかな事だ。
他の重傷者達も一夜を明かすだけの体力すら残っているかどうか……。
蘭子は静かに、決意を湛えて立ち上がった。
「私。外に出て、誰か探してくる。このままじゃ莉子ちゃんや皆が死んじゃう。先に撤退した部隊を走って追いかければ、まだ追いつけるかも知れないわ」
「えっ!? で、でも蘭子。外は魔族がいるよ。今は無理だよ!」
「行かなきゃ。私」
軍が残していた足跡は新しかった。今から追えば、追いつける可能性はある。
しかしその道を行けば、途中で魔族兵に見つかるリスクが高かった。夜で道を誤る危険だってある。
自分の安全率だけ考えるなら、ここで身を潜めて追っ手をやり過ごし、体力や魔力が少しでも回復してから集団で行動した方が安全だろう。
だが蘭子は、自分の心が今、莉子を助けるためだけに立っている事に気づいていた。
もしそれを諦めれば、心が走るのを止めたら……その瞬間、臆病な自分はもう、一歩もここから動けなくなってしまうだろうと。
「だめだよ蘭子。せめて、私が行くから!」
「急がなきゃ莉子ちゃんが危険だわ。南ちゃんより、今は私の方がいいよ。南ちゃんは剣もなくなっちゃったんだから。私はまだ魔法が撃てるから」
「だが。和原さん」
嘘だ。蘭子の魔力は、もうほとんど残っていない。
魔法の杖もない。
しかし南は、蘭子以上に疲れているはずだった。逃走の最中、南は殿を守り続けたのだ。
近接戦闘職である南が体を張って足止めしたおかげで、一時的に敵を撒き、ここまで逃げ延びられた。
莉子を背負うのも手伝い、本当はもう立ち上がれないほどの疲労のはずだ。南には行かせられなかった。
蘭子は友達に、これ以上危険で怖い思いをさせたくもない。
「他の男子も皆、戦って怪我して動けないわ。南ちゃんは、ここに隠れて莉子ちゃんと皆を守っていて。
門を締めれば安全だし、上手くすれば一晩くらいなら気づかれないわ。私はきっと戻るから。お願い」
「でも蘭子。だめだよ。そんなの」
「私を信じて。約束したよ? 三人一緒に帰るって」
蘭子は微笑んだ。ぎこちなくなってしまったが、それでも笑おうとした。
椅子に横たわる莉子の顔が、かすかに動いた。
「蘭子……」呟いた莉子の手を、蘭子は優しく握った。必ず戻ってくると、助けを連れて来ると、心の声を込めて。
蘭子は背を向け、歩き出そうとした。
――その時。
恐ろしげな咆哮が響き、教会の建物が震動した。
――ゥギィャアアアアアアーーッ!!――
「きゃあっ!?」
ドゴオオッ
教会の天井がすさまじい衝撃と共になぎ払われて吹き飛び、瓦礫が落ちてくる。
「! 危ない、ぐあっ!」
「蘭子っ!」
南が、蘭子の体を引いて床に押し倒し、蘭子と莉子の上に覆いかぶさって庇った。
石壁が崩れ落ち、あたりが粉塵に包まれる。
煙が晴れると、そこには……黒々とした体躯のドラゴンと、魔族の兵が壊された教会の入り口の前にいた。
『――ふふふ。みーつけたぁ』
この異世界独特の紅い月が、夜空に昇っていた。
角を生やした女悪魔の一人が月を背に、酷薄な笑みを浮かべて立っていた。
「……うそ」
蘭子は信じられないものを見る心地がした。
見上げるほどに巨大なドラゴン、その太い二股の尻尾が見えた。あの尻尾の一振りが、頑丈な教会を易々と粉砕したのだ。
やはり敵は追ってきていた。蘭子達は、見つかってしまった。
『しぶとい子達だったわね。でも、もうおしまい。死になさい』
魔族がじわりと包囲を狭めてくる。女子生徒の怯えた悲鳴が上がった。
蘭子は立ち上がり、身を挺して皆を守ろうと立ちはだかった。しかしドラゴンの巨大な瞳が彼方から、じろりと蘭子を睨みつけた。
「ひっ……!?」
無理だ。敵うわけない。
足の震えが、止まらない。やっぱり臆病な自分では戦えない。
皆で逃げるんだ。逃げ道、逃げ道を探して……。
あたりには無数の松明の火。魔族兵の部隊が、破壊され丸裸になった教会の周囲を完全に包囲し取り巻いていた。
だめだ。全て塞がれている。
絶望的、だった。
「あ、ああ。ああ……!」
生徒達は怪我人を連れて奥へ退く。蘭子は南と、莉子の体を引きずって、礼拝堂の奥へ下がった。
女魔族はゆったりとした足取りで距離を詰めてくる。女魔族が、嗤っていた。
ついに、奥の突き当たりまで来てしまった。そこには、三対六翼の翼を持つ大天使の彫像があった。
天使の彫像は、大きく翼を広げ、片腕を、遍く弱者を救うかのように優しく差し延べ、もう片腕はあらゆる悪を討ち払わんが如く、石剣が強く掲げられていた。
だがその石の像が、蘭子達を助けようと動く事はない……。
『逃がさないわよぉ。ウフフ』
もうだめだ。私達は、逃げられない。家にも帰れない。
ここで殺される――。
その事実を前にして、蘭子は怖くて悔しくて、涙が溢れた。南も莉子も怯えて泣いていた。心は、折れてしまった。
美しい天使の像の真下で、三人は身を寄せ合って震え絶望した。
女魔族が腰から剣を引き抜く。
「来ないで……!」
確実な死が、蘭子の前に迫ってくる。
友達を守りたかった、守れなかった。蘭子は罪悪感に心まで暗く押し潰されていく。
ああ、それでも、なんてことだろう。結局は自分が死にたくない、そういう心ばかりが一番強くなってくる。
蘭子は、せめて最後は友人達を守ろうと、敢然と敵の前に立ちはだかった心はとうに霧散してしまっていた。
あんなに格好つけて、命をかけて友達を守りたいと思ったくせに。蘭子はそんな自分がどこまでも情けなく、悲しかった。
やはり自分は臆病者で、大事な友達の事より今から味わう苦痛に怯えているだけの、何もできない弱い奴なのだと。
自分の無様さを証明され、言い訳もできず、自分は心まで殺されてしまうんだと。蘭子はそう思った。
ごめんなさい莉子ちゃん。ごめんなさい南ちゃん。守ってあげられなくて、助けてあげられなくて、ごめんなさい。
ごめんなさい……!
女悪魔が、剣を振り上げた。
「いやぁーーーーっ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『――神を』
『汝。神を信じるか?』
えっ?
気がつけば蘭子の目の前が、真っ白になっていた。
何もない。何も見えない。
眩い光の中に包まれているような――
誰かの声が聞こえてくる。男性的な低く太い声だった。
『答えよ、汝。神を信じるか?』
え? 誰? 知らない声。
ここはどこ? 私は……死んだの? そんな。
え、神を信じるって、何の事!? えっと?
『落ち着け。まだ死んではいない』
『だが、時間はあまりない。答えよ。汝は神を信じるか?』
『信じれば、救われん』
……? わ、分からない。ぜんぜん分かんないよ。
でも。救われる?
信じれば。私達は、救われるの……?
『然り。信ずれば、救われる』
『それはあらゆる救いである。例えば、今、目の前の危機でも……だ』
『もう一度だけ問おう。汝、神を信じるか? 信じれば救われん』
……。
じゃ、じゃあ。じゃあ信じる!
私、信じるよ。何でも信じるから。分からないけれど、救ってくれるって言うなら信じるから。
だから、助けて!
お願いだから、私と私の友達を、助けてっ!!
『よかろう――』
『契約は為された』
『迷える子羊よ、信じよ。さすれば救われん――』
『ほい、契約成立だ。おい、転送門を開け。特定した』
『……あ? 壊れてるって。今時間止めてんだぞ? どうすんだよ……え、今から直すのか?』
えっ?
なに。変なのが混じったような……?
『マジで言ってるのか? つーかなんで急にそんな事になったんだ。さっきまでは問題なく稼動して――お茶をこぼした? ……バカか、お前!!
それ幾らすると思ってんだ? 近くで飲むなってあれだけ言ったろ、くそじじい!!』
『ああ、ああ。『イールスェト』の世界だ。間違いない。現在はカプリカ大陸にいる――北極だよ! 超寒いっての』
『顧客から直線距離で6000km以上って、どんだけ暴投してんだよ? こんな場所に俺を出現させて、どうする気だ?
歩いて行けるわけないだろ。俺は、かまくら作って通信してるんだぞ。アホかって、俺をむちゃくちゃなとこに飛ばしたお前の凡ミスのせいだろーが! 殴るぞハゲ!』
……。な、なんだか喧嘩してる……?
誰かと電話? してる? こ、怖い。なんで?
『とにかく再設定はこっちでも遠隔で手伝う。今すぐなんとかしろ。待たせてんだから……ん? あ、やべっ電源』
がしゃがしゃ、と何かをあわてて片づけるような音が聞こえてきた。
謎の声が、私に問いかけてくる。
『……聞こえたか? 今の』
え。
き、聞こえちゃいましたけど。
『そうか。聞こえちゃいましたか。気にするな、大したことではない。怖がらせるつもりはなかった』
『信じよ。さすれば救われん』
『心を安らかにせよ。既に契約は為されたのだ――』
そ、そう言われても。
急に厳かに話されても、困るんですけど……。
なんですか? あなたは誰なんです? というか、ここは一体?
莉子ちゃんと南ちゃんは? どうなったの!?
『……はあ、もうだめだなこりゃ。ぐだぐだだ』
『仕方ない。君の心配事は平気だから、落ち着け』
でも。
『しかしそのなんだ、すまん。助けはもうちょっとだけ待ってくれ。信者よ』
『ウェイトアモーメント』
『うちのじじいがぶっ壊しやがった。修理に二時間くらいかかるらしいから。今から作業して直すから』
え、ええ?
『つっても、時間圧縮するから、そっちの体感じゃ一瞬だけどな』
『ぶっちゃけて言うと、時間は余裕であるから。止めちまったからな。契約取るために急がせてみただけだから、安心して待機しててくれ。ではオーバー……ザザッ』
ええー……?
『――おし、出来たぞ。寒。北極さむっ』
あ、もう……お、お疲れさまです?
『ありがとう。じゃあ、早速迎えに行くんでな』
『それからうちは、思いっきり現世利益タイプだから、来世の保障とかは全くない。現世で手助けして、代わりに対価を貰うだけだ。俗っぽいのは納得してくれよ』
『まあ、転生だのトリップだの、いまさら現世も来世もねえと思うんだがなぁ』
……。あのー。
えと、その、あなたは。
信者とか、救うとか言っているし。きっと神さま的なもの、なんですか?
『いや? 全然』
『俺は別に、神様では全然ないぞ。期待させて悪いが』
『ただの日本人だからな』
ええー……。
えっ? に、日本? 今、日本人って……!?
『積もる話は、仕事を済ませてからにしよう』
『新たな入信者ランコ・カズハラさん――いや、和原蘭子よ。我が神の名と、汝の信仰において、保障しよう』
『汝は救われた』
『友人と共に、生きて、家に帰れるだろう』
帰れる。家に帰れるの? 私は。
あなたは――。
『我は、天使』
『太陽神の第一の使徒。《曙光》を司る光の天使なり』
『――我こそは大天使。我が名は大天使ウルシハラ・ヨシオである!!』




