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魔法少女ミヤビを探しています  作者: 雨宮 叶月


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8/16

ある精神科のカルテより引用

『 3日前、変な人に会ったんです。時間を戻す方法を必死に探している人。馬鹿みたいですよね。馬鹿です。そんなことできるはずないのに。時間を戻す方法を知ってますか?って聞かれて、知ってるはずないじゃないですか馬鹿なんですかって言ったら泣き出しちゃって。不審者ですね。あと心が弱い。時間を戻すか、今自分が死ぬかどちらかの選択しか、自分には残されていないって言ってましたけどね。借金でもあったのか、受験に失敗したのか、会社で大きな間違いをしたとか、まあ辛いことでもあったんでしょうね。気持ちは分かりますよ。私は教師をやっているはずなのですが、だいぶ前に人生最大の過ちをして、怒鳴られて、泣きながら帰ってました。時間を戻せたら、そう考えたことは何度もあります。でも無理です。私たち人間には到底不可能なことだって、子供だって分かります。でも本当に辛くて、だからこそその人にきつい言葉投げかけちゃったんですよね。私、可哀そうですねって言ったんです。その人も、そして私も可哀そうだと思って。失敗したあと変な人に絡まれちゃったなって。そしたらその人、なんて言ったと思います?私の目をじっと見つめて、一緒に時間を戻す方法を探しませんか、って。何度も言いますが馬鹿です。それでも私はなぜか、その誘いに乗ってしまった。本当になんでそんなことをしたのかは覚えていません。だいぶ前のことなので。

 連絡先を交換したわけじゃないからもう会うことはないだろうと思ったんです。たとえ会っても別人のふりをすればなんとかなると。でも、あの日同じ場所で、また出会ってしまった。その人は私のことをはっきりと認識していました。別人のふりをしても、迷惑だと言っても、無駄でした。でも、ひとつ気がかりなことがあるんです。私が本気で拒否すれば、その人は私に声をかけるのをやめたでしょう。なのに諦めなかったのは、私がその提案に魅力を感じているのだと、気付いていたからなのかもしれません。

 話が逸れましたね。その人は、時間を戻せるようになった、と嬉々とした表情で言っていました。今回だけでいいからついてきてくれないかと。初めてのはずなのに、慣れてる感じがしたのが不思議です。

 結論から言いますね。時間を戻す方法は、実際にあったんです!

 私はその人と一緒に過去に戻りました。中学三年生くらいまで戻れたので、私は高校受験で進学校を受験し、良い大学に行って、教師にはならないことが目標でした。

 その人はですね、大切な人が死なない未来をつくりたいっていうんです。

 なんて純粋なんだろう。なんて、美しい夢なんだろう。自分のことしか考えてない私と、こんなにもまっすぐな人では、あまりにも釣り合わない。

 私は、時間を戻す価値があるくらい、私を素晴らしい人間にしたかった。だから、その人に協力しようと思ったんです。

 私、何回も死にました!

 あるときは怪人に襲われ、あるときは車に轢かれ、あるときは実験体にされた。これは運命なんです。その人が気付いて私を過去に戻らせるたび、私はちがう死に方をする。

 分かります?老衰とかじゃない死の感覚。わからないでしょうね。いいんです。わからなくていいです。あの苦しみは誰も感じるべきじゃない。

 ……え?精神科医さんも的外れなこと言うんですね。じゃあ言ってやりますよ。脳味噌が飛び散って肋骨も折れて脳味噌が心臓の一部になったみたいで、腸は真っ赤に潰れて、子供のパズルみたいに骨が別の場所にあって、そうなったら私は私と言えるんですか?指がなくても?皮膚が赤くても?世界中の人の悲鳴を集めたって、あの苦しみには何百倍も及びません。生前の……ああ間違えました、私の人生でいちばんの過ちだと思っていたものは、なんてことないささいなことだったんです。

 もちろん辛いのは辛いです。そりゃあそうですよ、頑張ってるのに怖いんですから。誰も自分を認めてくれないんですから。この状況からはどうあがいたって抜け出せないんですから。頑張ったね、って誰も言ってくれないんです。

 でも、ぐちゃぐちゃになるよりはマシです。ぐちゃぐちゃになって、まだ意識があって、……すみません、思い出しちゃいました。この話は終わります。

 私、五回くらい死んで耐えられなかった。限界で、心が壊れたんです。その人は、ごめんなさいごめんなさいこんなつもりじゃなかった、巻き込んでごめんなさい。そう言って元の世界、つまり今に戻してくれたんです。

 記憶に靄がかかっています。とてつもない経験をしたのは分かるのに、どこか他人事で、それでもこんなに吐き気がするんですから相当苦しかったはずです。私の人生最大の過ちは、時間を戻そうという誘いに乗ってしまったことです。それでも仕事は嫌ですけどね。やめるかどうか検討中です。多分やめませんけど。

 でも、でも! もっと大切なことがあるんです。

 その人は、誰なんですか。男なのか女なのか、年上なのかだいぶ年下なのか、忘れてしまったんです。戻されたからしょうがないじゃなくて、防犯カメラにも映っていません。とても大切で純粋な人だったのに、私は忘れてしまった。

 でも、映ってなかったってことは、その人はつくりたい未来を実現することができたのでしょうね。大切な人が死なない、幸せに生きてくれる、これって大事ですからね。その人は自分を犠牲にしたわけですけれども。いや、そんなこと分かりませんよ。ただ、彼はとてつもなく大きい感情と時間をかけたってことです。

 なんで精神科になんか来たんだろう。すみません、お時間いただいてしまって。一度心が壊れたから? それとも知ってほしかったから? うーん……。まあ、いいです。今すごく幸せな気持ちなんです。明日も仕事頑張りますね。今度は間違えないようにします。』

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