Who is in control1 コントロールしているのは誰1
「兄さん」
ヒューマノイドが唐突にそう呼びかける。
さきほどまでのドロシーのふりをした口調とはちがう。発音や微妙な抑揚は、あきらかにドロシー本人のものだ。
脳内のプログラムが変わったのか。
この短時間にAIが学習したのか。
しかし徹底して正体をかくすステルスオフィサーの口調など、そこらのAIに学習できるわけが。
アンブローズは目をすがめた。
より巧妙にこちらを騙す手にでたと解釈するほうが無難か。
ハシゴを回収する隙をうかがい、ジリジリと足先を動かす。
ヒューマノイドが、天井に向けてスッと銃をかまえた。
破壊予定のカメラを一つずつ撃ちぬく。
カシャン、カシャンと音を立てて床に落ちたカメラを、アンブローズは横目で追った。
「……えっと、どういうこと」
柱のかげに貼りついたジーンが問う。
「知らん」
アンブローズは答えた。
ヒューマノイドが、ふたたびこちらに銃を向ける。
「国体護持のさまたげになる人物および国家転覆をくわだてる個人や団体等に所属する人物、それらにつらなる思想をもつ人物による大逆罪が女王陛下にたいする重大な背信行為を内容とする犯罪であるという法はすでに時代にそぐわない。これらは法の解釈の問題どころか――」
またいつもの法令文の読み上げかと思いきや、ところどころが違うことに気づいた。
「どういうことですか? お兄さん」
ジーンが小声で尋ねる。
「俺に聞くな。想定外の事態により各自の判断を許可する、なお、お兄さん言うな」
アンブローズは早口で告げた。
「ヒューマノイドの “兄さん” の口調変わったけど、あれドロシーちゃんの口調だったりする?」
ジーンの問いに、アンブローズは無言で応じた。
「ギリギリの線でなにか伝えてきたとか? ――いまのカメラ破壊は、あのヒューマノイドをドロシーちゃんが乗っとったという証明だとして、“法が時代にそぐわない、法の解釈の問題どころか……” なに言いたいんだろ」
「考えんのは無事帰還したあとでも……」
ヒューマノイドが、両手で銃をかまえる。
正面から発砲した。
轟音に心臓が跳ね上がる。
撃たれたと一瞬思ったが、弾は背後の議事堂のドアノブを撃ち抜いた。
議事堂の扉がゆっくりと開く。
アンブローズはそちらを横目で見た。




