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18/22

18:神通力と魔法と魔術


 村長さん家の前に出来上がっていた長蛇の列を横目に自宅へ。

 今日から五日間は缶詰やカップ麺だけど、村長さんが干し野菜をたくさんくれたから栄養バランスは取れるだろう。


 早速とばかりに、お湯で戻した干し野菜をカップ麺に放り込んで食べてます。

 塩と胡椒くらい持って来るべきだった。


「何かお手伝いできることないかな?」

「お手伝いじゃなく、冬支度を教えてもらわないといけませんね」

「実家では冬支度してたけど、物と道具が違うもんなあ」

「ご実家はどちらですか?」

「岡山の山の中。鳥取との県境のすぐ近く。島根寄りね」

「というと、大山国立公園の方でしょうか」

「そうそう。大山行ったことあるんだ?」


 就職の内定を早めにもらえたから、折角だと思ってバイトでお金貯めてからバイク旅行をした。

 九州と東北は行ったことがあったので、行ったことがない場所へと考え、鳥取と島根を旅した。

 大山方面へも行ってみたけど、まだ雪が残っていたから遠目に眺めただけだ。


(コンビニがないっていう話を納得できる場所だ)


「皆さんコンロ列作ってましたし、ディアリィさんのとこ行きません?」

「何するの?」

「神通力の訓練法を知ってるんじゃないかと」

「行く行く! 私このままだと役立たずだし」

「そんなことないです。速水さんは存在してるだけで十分です」

「そうかな(照れ)(うぅ、恥ずかしいけど嬉しい…)」


 ということで、やって来ました大森林。防寒もばっちり。


 とはいえ、方向もうろ覚えだし森蛇に襲われたくないので、速水さんを背負って走りまくるしかない。


「お姫様抱っこ?」

「え?」

「お姫様抱っこ?」

「なるほど、喜んで承りますとも!」

「きゃっ♪ うわー速い速いー♪」

「舌噛まないでくださいね!」

「はーい♪」


 この跳ぶように走れる爽快感と疾走感は癖になる。

 しかも、速水さんが抱きついてくれる幸福感がたまらない!


 一頻り走ったところで黒鉄木の親木を見つけ、そっちへ向かって走ると巨岩が見えてきた。

 ディアリィさんは俺が来たことを判ってたらしく、巨岩から降りてこちらに目を向けている。灰色オオカミたちも寝そべったまま首だけ向けている。


『ヒナタ、よく来ましたわ』

「こんにちはディアリィさん」

(私の方が近くにいるんだけど無視なんだ…)

『木を伐りに来ましたの?』

「いいえ、神通力の訓練方法をご存じなら教えて頂きたいと思いまして」

『構いませんわよ。でも、先に教示すべき事がありますわね。わたくしの背に跳び乗るといいですわ』


 言われたとおり速水さんを抱いたまま跳び乗ると、ディアリィさんの背中はフカフカだ。お稲荷さんの尻尾に包まれた時のことを思い出した。


『少し走りますわよ。二人とも座って鬣を掴むと良いですわ』


 ディアリィさんが大森林の奥へ向かって駆け出した。

 俺の比じゃないくらい速く、俺が跳ぶなら、ディアリィさんは飛ぶように走って行く。なのに上下の衝撃を全く感じない。

 快適すぎると気を緩めたその時、ディアリィさんが沈み込むように着地した。

 そこには…


シャアアアアアアァァーーーッ!


 ディアリィさんの背に乗っていて尚、見上げる程に高く蜷局を巻いて首を擡げる森蛇がいた。

 前に座る速水さんは体を硬直させ、余りの大きさに俺も思考が働かず愕然と見上げるしかない。ジェリドさんから聞いた大きさなんて比較にならない…


『彼我の格が判らぬほど老いたか下郎。我が背に乗る者に手出しをすれば、貴様の眷属諸共根絶やしにしてくれる。我は神蛇とて事を構えるに些かの躊躇もないが、さて何とする』


 すると巨大な森蛇が俺たちをギョロリと見た後、擡げていた首を地に伏せた。

 まるで慈悲を乞うかのように。


『フン、此度は見逃してやる。眷属等にもよくよく命じておくがよい』


 告げて森蛇を一瞥したディアリィさんは、何事もなかったかのように再び走り出した。


 程なくして辿り着いたのは、石碑がある洞穴より何倍も大きな洞窟。

 ディアリィさんが軽く首を振ると光の球が浮かび上がり、中を煌煌と照らす。

 洞窟は昨日今日で描いたような、極彩色の壁画で埋め尽くされていた。


 速水さんは『綺麗…』と声を漏らし見惚れているけど、俺はさっきの森蛇が気になって仕方ない。

 正確には森蛇じゃなく、口を閉じたままなのに聞こえる、お稲荷さんやディアリィさん声についてだ。


「お稲荷さんとディアリィさんはどうやって喋ってるんです?」

『思念ですわね。自我に直接語りかけてますの』

「ああ、だから森蛇も理解できるんですね」

『どれもこれもではありませんわ』


 ディアリィさんが引き連れている灰色オオカミもだが、動物として生まれたオオカミやヘビは、思念を受け取れるほど自我が発達してないそうだ。

 さっきの巨大な森蛇は、神蛇ウロヌスが暇潰しがてら太古の森蛇に産ませた個体らしく、神蛇の血の影響で自我が発達していると。


「でも、ディアリィさんは眷属に命じておけって言いましたよね? あの森蛇はどうやって他の森蛇に伝えるんです?」

『もちろん蛇言語ですわ』


 うっとりと壁画を見ていた速水さんがピクンと反応した。


「私が神通力を使えるようになれば、動物や魔物の言葉を聞き取れる?」

『九尾様から享けた力は何ですの?』

天耳通(てんにつう)という力」

『こちらで言う使役関連の魔法ですわね。九尾様は、アイルのことも気に入られた様子ですわ。生意気ですの』

「あはは(当たりが厳しいですの…)」


 魔法…神通力は魔法なのか。


「ディアリィさん、漠然とした質問ですけど、魔法って何なんですか?」

『一言で表すなら、神格の恩寵ですわ』


 人知人力を超越した、神格という存在の権能に通ずる力。

 努力や才能で得られる道理はなく、この世界でも極めて珍しい。

 お稲荷さんは九つの尾に九つの権能を得て、神格としての位階を上げたという。


 速水さんの天耳通(てんにつう)は相手の言語を聞き取り、相手と意思を疎通して使役契約を結べるそうだ。

 使役契約は一方的な隷属を求めても成立せず、融和を以てのみ成約する。

 速水さんにぴったりな気がするし、かなり凄いんじゃないだろうか。


『端的に、魔術とは全く異なる神秘ですわ』

「魔術もあるんですか?」

『神々の眷属たる、わたくしたち神獣や精霊が成す神秘の模倣が魔術ですの』


 模倣をしたのは人類。こっちでは人族と言い、色んな種類の人族が存在する。

 異世界ファンタジーの定番だからさらっと流しておこう。でも楽しみだ。


 太古の人類は、神獣や精霊の神秘を見聞きして模倣を始めた。

 幾星霜を経て模倣は魔術と呼ばれるようになった。

 現在の人族社会では学問になっているのかも、とディアリィさんは言う。

 長い年月を経て体系化されたのだろう。


「深く考えても分かるとは思えませんね」

「そうだね。習うより慣れろ?」

「いいですね、それで行きましょう」


 そんなことを話していると、ディアリィさんは光の球をぽんぽん浮かべていく。

 洞窟の中がより一層明るく照らされ、壁画がずっと奥まで続いていると判る。


「この壁画は誰が描いたんです?」

『過去に神格の恩寵を享けた者たちですわ。こちらでは使徒と呼ばれますの』

「へぇ~、なぜここに?」

『ここだけではありませんわよ。嘗て七柱の神々が降臨した、七つの地に同じものがありますの。壁画を描くのは使徒の義務とされていましたわ』


 ディアリィさんの話を聞きながら壁画を見ていてピンときた。


「速水さん、この壁画、魔法の教本みたいなものじゃありません?」

「そうなの?」

『ヒナタは賢いですわね』

「当たりですか?」

『当たりですわよ』

「ひなたくんすごーい!」

「凄くはないですよ。これ見てください」


 壁画だから文字なんてないけど、まるで図解の取扱説明書みたいに描いてある。

 目の前には、身体強化のやり方に違いない画が並んでいる。


「あのお腹にある黄色い玉と、そこから伸びる線はなにかな?」

「俺の経験からして、十中八九は魔力とその流れです」

『二人しておかしなことを話してますわね?』


 ん? それって…


「もしかして、速水さんの体にも魔力が流れてます?」

『それは当然…もしや異界では魔力を使いませんの?』

「空想上の不思議な力としては有名ですけど、実在しないとされてます」


 ディアリィさんが驚いている。面白くなりそうだ。ワクワクする!


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