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24話:大切なこと‐壱

サクラスが乱入してきたことによってまったくと言っていいほど隊長さんと話が出来なかった日から、もう一週間経った。

相変わらず私は転がり落ちることを続けていて、最早趣味と勘違いされても可笑しくないほどの回数を重ねている。途中で落っこちた回数を数えるのも止めた。…虚しいだけだし。

馬鹿みたいに昇っては振り落とされを繰り返しているせいか、高い所から落下することだけに関してはプロ並みになったが…あまり嬉しくも有り難くもない。これが将来役に立てば少しは報われるのだけど。

フレデリックさんは、ようやく護衛から帰ってこられたにも関わらず、やはり隊長職にいるからなのか本部にいても大変忙しい。

あの日から彼と顔を合わせる機会と言えば、待機室や廊下でちょこっと擦れ違う程度だ。

まったく話なんか出来ていない。

話少しでもいいからしてみたいなあ、なんて考えながらも…ちょっと普通の人よりも鋭い眼光を思い出すと、今でも尻込みしてしまうが、私が早くWGSFの人々の中に溶け込めたのは彼のお陰なのだ。そう思うとやっぱり、話もっとちゃんとしてみたかったな、なーんて気持ちがなきにしもあらず…でもいざとなると会話出来る気がしないし、そもそもフレデリックさんはとにかく忙しいのでそんな時間もない。

おまけに私のライダーへの道のりはほぼ進歩なし…。転げ落ちる選手権(個人戦)があったらトップ3に入る自信なら着いたけれど…そんな自信はライダーに必要ない。

ああまた行き止まってしまった、とループする負の思考に思わず肩を落とした。


「はああ…」

「凄い溜め息だな、レリア。どうした?」


落とした肩に大きな手が乗る。

そちらの方に顔を向ければ、二日前にWGSF本部に訪れていた二ロバニアさんがいた。

久しぶりに間近で見る無精ひげのおじさんの顔に、別の意味での溜め息が漏れる。


「二ロバニアさん…」

「自信喪失って顔してるぞ」

「そもそも大した自信なんか持ってませんよ」

「お前なあ……。いいか、レリア。お前はライダー候補なんだぞ、ライダー候補。栄えある《竜騎士(ドラゴンライダー)》になれる最もたる可能性を秘めてる人間だ。それだけでもう誇ってもいいことなんだ。そのくらいわかっているだろう?」

「……まあ、そうなんです、けど…」

「…駄目か」

「プレッシャー、で…ですね…」

「そんなことだと思ったよ。…よしよし」


肩に乗っていた手が頭に移動する。毎回毎回、犬の如く頭を撫でまわされて慰められるのが恒例みたいになっているが、これが結構嬉しかったりするのだ。…恥ずかしいから言えないけど。今日も例に漏れず、わしゃわしゃと撫でくり回される。

…うん、ちょっと元気出た。


「頑張れとは言うが、無理をしろとは言わないからな。あんまり考え込んでも良いことないぞ、レリア」

「はい、もちろん、で、……す」

「…どうした?」


にこやかに笑う二ロバニアさんに頷いた…その背後に人影を見付けて固まった。

見知った…とまではいかないが、それでも中途半端に顔見知り程度である彼の突然の登場に、頭の中が混乱する。

…なにを言えばいいのか。そもそも私が何か言っていいものなのか。どうしてここにいるのか。始めにそれを聞くべきなのだろうか。なにかアクションを起こすべきなのか?

合わさってしまった目を逸らすわけにもいかずに、ただ硬直してぐるぐる廻る脳内に身を任せるしかない。……え、なにこれほんとに…なに、しよう…。


「レリア?どうしたんだ?」


固まって目を回す私を不思議に思った二ロバニアさんが、私の視線の先を振り返る。

見詰め続けて僅か数秒、私と彼の間に割り込んできた二ロバニアさんの意識でその均衡が崩れる。


「なんだ、フレデリックじゃないか!」

「お久しぶりです、二ロバニアさん」


私とは正反対に、嬉々として彼の名前を呼んだ二ロバニアさんに応えて、フレデリックさんが頭を下げた。待機室の入口に凭れていた彼はソファから立ち上がって己を歓迎する二ロバニアさんに応えるため室内に足を踏み入れてくる。

楽しそうに言葉を交わすふたりを尻目に、私は緊張で固まっていた肩から力を抜いた。

ああ、緊張した…。なんとなしに視線をやったその先で、まさか鋭い眼光と出会うだなんて思っていなかったものだから自分でも引くくらい驚いてしまった。

言い訳をさせて頂けるなら、彼にはなんと言うか…理屈じゃない感じの怖さが漂っているのだ。ほんとに、単純に私がビビりだとかじゃなく、て…。こう、本能で身体が固まってしまうような…。動物的な目線と言いますか…。

あーだのこーだの自分に言い訳を繰り出す女々しい私を置いて、彼等は着々と話を進めて行く。


「相変わらず忙しそうだな、お前は。この間帰還したばかりだろう?だというのにもう次の仕事が入ってるらしいじゃないか」

「単純なるアピールのための護衛ですよ。そんなに大したものではありませんから」

「しかしなあ…。少しくらいは休まんと、いくら鍛えてるとはいえそのうち倒れるぞ?お前に倒れられたら仕事の都合上悪いのもあるが、もっと単純に心配だ」

「お心遣いありがとうございます。でも好きでやってる仕事ですから。苦ではありません。倒れるだなんて以ての外です」

「…そうか。偉いな。だがあまり無理はするなよ」

「ええ、気を付けます。それで、お取り込み中のところ悪いんですが…そいつ、借りてってもいいですか?」

「…レリアか?」

「ええ」


着々と進んでいた話が止まる。

双方から視線を感じて耽るために伏せていた顔を上げれば、案の定彼等ふたりと目が合った。うんん?なんだろう…私の名前が聞こえたような気もするけど…。

気のせいにしたくてほげ、とする私の鼻先に、二ロバニアさんの指が刺さる。


「ご指名だぞ、レリア」

「え、え、私…ですか?」

「レリア」

「っは、はいっ!!私です!」


二ロバニアさんだけではなく、フレデリックさんにまで名前を呼ばれては誤魔化しようもない。自分でもよくわからない返事をして、ガタガタッとソファから勢い良く立ち上がると、直立不動で固まった。

え、なにほんとにわたし?なんで…?

半ば呆然状態で引き攣る頬を携える私に、フレデリックさんは簡潔に用件を述べた。


「行き詰ってるんだろう?付き合ってやるよ」




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