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1話:日常風景

「レリア・シュープリー!」

「はいっ?」


バンッ、という盛大に机を叩く音と共に厳しい声で自分の名前を呼ばれ、あらぬところに飛んでいた思考が引き戻される。何事だとぱちぱちと瞬きを繰り返しながら辺りを見回すと、またか、と呆れ気味な表情でこちらを見ているたくさんのクラスメートたちと、檀上で眼尻を吊り上げて声同様厳しい顔をしている我等が担任と目が合った。


「レリア・シュープリー。あなたはまたうたた寝ですか?わたしの授業がそんなにつまらないと?」

「………」


担任のその皮肉たっぷりな言葉に思わずはいそうです、と頷きそうになってしまう。


「どうして授業中にあなたは眠れるのですか?可笑しいでしょう。普通の人なら寝ませんよ、普通の人なら」


…そんなに普通普通言わなくたって聞こえてるよ。

目が合った瞬間にはじまった担任のネチネチ説教攻撃に私は人知れず溜息を吐く。

私が反省した素振りを見せるまでこの説教は終わらない。いつものことだ。しかしこの人も毎回毎回よく飽きないな、と場違いなことを考えつつ、私はいかにも反省してます、というような雰囲気を漂わせて項垂れた。もちろん、反省しているフリである。

言い訳をさせてもらうと、いくら私が日当たりの良い窓際の席という誘惑に負けて少し眠ってしまったからって、毎回毎回毎回毎回、そんなにネチネチネチネチ説教することないと思う。

いくら私が悪かったとしても、担任の授業中にうたた寝するのが今回がはじめてじゃないとしても、だ。

私だって少しも反省してない訳じゃない。ただ、そんなんだからあなたはいつまで経っても落ちこぼれなんですよ、とか少しは周りを見習って努力しなさい、とか、明らかに説教ではない、嫌味、もしくは八つ当たりに似た説教紛いのことをされても反省だなんてできるはずがない。

こんな大きなマンモス校の教師となるとかかるストレスだって半端なものではないと思うが、それを生徒、しかも私に当てないでもらいたい。

私はあんたの八つ当たりのために学校来てるんじゃないっての。説教紛いの八つ当たりを受けるたびにそう叫びたくなるが、そんなことをしたら停学になるかもしれないと思うと

もちろんできなかった。

……そもそも寝る私がいけないのもあるわけだし。我慢だ、我慢。女は忍耐力が必要なのよ。

そんな想いを胸に白い机とホログラム式の教科書だけを視界に入れて精一杯反省してますアピールをする私に説教を浴びせ続けていた担任は、しかしそれだけでは飽き足らなかったのか、突然「ドラゴンライダーが使役する竜について説明しなさい」と言い出した。


「…は?」


突然のことに驚いて伏せていた顔を上げると、ニヤニヤと人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべている担任が視界に入る。

落ちこぼれのあなたに説明なんかできないでしょう、と腹の立つ表情で語る担任に、もはや怒りを通り越して呆れの感情しか抱かなかった。


「…………分かりました」


この陰険教師め生徒を体の良い八つ当たりに使いやがって職権乱用でクビになれ、と呪いの如く思いながら、表だけはいい返事を返しておいた。しかし返事をした以上答えないわけにもいくまい。渋々ながらホログラム式の教科書を捲っていく。

少しページを捲っていくと、生物学の一番始めの項に2頭の竜の全体図とその竜についての説明が載っているページを見付けた。

政府直下の特殊戦闘部隊、通称WGSFに所属している異種族(フリーク)を思いのままに操ることのできる精鋭《支配者(ルーター)》たちのことを人々は《竜騎士(ドラゴンライダー)》と呼ぶ。その名の通り竜に乗り国のためにだけに粉骨砕身する者たちのことを指すのだが、先生はそのドラゴンライダーが騎乗する竜の種類や生態諸々について説明しろと言っているらしい。

なんだかなあ、と煮え切らない思いのまま、私は陰険な担任と早いとここんな説教終わらせてくれと訴えてくる周りのクラスメートたちの視線に急かされるようにして口を開いた。


「ドラゴンライダーが騎乗する竜の種類は主に2種類。ギドアと呼ばれる飛竜の中でも代表的な竜と、ガイアスと呼ばれる、こちらも飛竜の中で代表的な竜の2種類です。前者のギドアの生物学上のカテゴリは鱗板目中型飛竜科の爬虫類で、飛竜にしては小型な竜として知られています。このギドアはとても知能が高く、人の言葉や気持ちを的確に理解する能力がずば抜けいています。それからギドアの特性のひとつとして主人と認めた人間には生涯付き従う習性を持つために、軍にとても重宝されています。しかしその反面、酷く好戦的な面もあり、誰彼構わず突っ込んで行くことがあるので主人となるドラゴンライダーは注意が必要です。後者のガイアスの生物学上のカテゴリは鱗板目大型飛竜科の爬虫類です。こちらは大型にしては小型な方ですが、それでもギドアより3倍近くの大きさがあります。性格はとにかく狂暴で人に懐くことが滅多にない種類なので、経験豊富なドラゴンライダーでも乗りこなすのは難しいとされています。しかし前者のギドアよりパワーやスピード、知能等の様々な面が上回ることから、こちらも軍に重宝されている竜の一種です」


…と、まあ。

突き詰めればもっと長ったらしい上に小難しくなるのだが、この2種類の竜の説明はこのくらいで充分だろう。担任曰く落ちこぼれである私ですら朗々と説明出来るほど、この竜たちの説明は基礎中の基礎である。大体、この世界に生まれ育った人間なら誰だって知っているようなことを説明しろ、だなんて私を馬鹿にしてるにも程がある。

案の定、陰険教師は私がすらすらとなんの落ち度もなく説明を終えたことが甚くお気に召さなかったらしい。隠しもせずに盛大な舌打ちをすると「まあいいでしょう」と偉そうに言い放った。


「…………」


こんな奴に今更かもしれないが、生徒がちゃんと答えられたのに舌打ちする教師がどこにいるよ、と憤慨しそうになる。

……生徒が、というか私限定か。


「それでは教科書の39ページを開いて―――」


機嫌が急降下してゆく私を余所に、担任はやっと授業を再開させる気になったらしく文字が浮き出てくる黒板に指で字を書きだした。今まで担任の説教に付き合いきれないといった顔をしていた周りの生徒は指示通りに教科書を開いたり、メモを取ったりとやっと再開された授業を受ける気でいるみたいだったが、もちろん私は受けるつもりなどない。

また説教を受けるなんてことにならないために一応メモを取っているフリはするが、担任の講義など右耳から左耳に抜けてゆく。


「この国、キルザイアが大国として栄えるきっかけとなったのは今から――――」


授業が終わるまで後35分強。

担任の甲高い声でされる国の生い立ちとやらを聞き流しながら、私は周りに見付からないように欠伸を漏らした。





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