↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖者の牢獄  作者: 桂太郎
第4章罪深い愛の歌
86/161

その想いの果て




 まだ会って1時間程度しかたっていないのに、何故だか俺はこの少女に入れ込み始めている。

 

 一目惚れなどではない、と思う。


 確かに絶世と言っても過言ではない美貌を持つアマルだが、それだけでは片付けられない感情を俺は彼女に抱いている。そこにあるのは恋慕や憧憬の念ではなく、長く会えなかった人に突然会ったような懐かしさとでも表現するべき感情だ。何故俺はそのような思いを彼女に抱いているのだろうか。


「……アンディ様?」


 名前を呼ばれ、慌てて顔を上げる。


「ああ、ごめん。考え事をしていた」


「いえ……」


 アマルは小さく首を振って目を伏せた。先程までの笑みは消え、人形のような無表情。どこか冷涼とした雰囲気に押されてしまう。


 どうしていいか分からず、頭をかく。


「その、悪い。戻ってくるって約束とはいえ、祈りの邪魔しちゃったよな」


「……いいえ」


「そっか」


 会話が続かない。


 とても気まずい。沈黙が痛い。

 今までのやりとりで、少しは気を許してくれたと思ったんだけど勘違いだったのだろうか。でも……俺の言葉が彼女の琴線に触れたのは間違いないと思う。ただその根本的な理由が分からない。


 アマルはふと視線を外した。石像の前に置かれた長椅子を見ているようだった。数秒して、再び俺に視線を戻す。


「……お荷物」


「え?」


「アンディ様の、お荷物」


 アマルはそう言って、長椅子にむかい俺のリュックサックを危なげに持ち上げた。ぐっと歯を食い縛って、フラフラと俺のリュックを運ぼうとしている。


 リュックには山奥にある両胡村に向かうため、念には念を入れて水や携帯食等々をこれでもかというくらい詰め込んでいる。つまり、かなり重い。


 アマルのような小柄な少女には、持つのも精一杯だろう。すぐアマルの側に駆け寄り、リュックサックを受け取った。


「……良かったリュックは無事だったんだな」


 ほっと安心して笑みが漏れた。正直突然よく分からない場所に放り投げられて、不安だった。これだけでも、心強くなる。

 アマルはそんな俺の姿を静かに見詰めていた。


「アマル、リュックを取って置いてくれてありがとう。ほんと助かった。でも、あんまり長居しちゃ悪いよな。……俺そろそろ行くよ」


「あっ……」


 俺がそう断りを入れると、彼女は乞うように右手を差し伸べた。それも一瞬のことで、すぐにだらりと手を落とす。アマルの不自然な行為に思わず頭を傾ける。


「……アマル、どうかしたのか?」


 俺の言葉に反応せず、彼女は自身の手を呆然と眺めていた。それから、行動を咎めるように右腕を強く押さえつけた。


「……なんでも、ありません」


「そうか?」


「はい」


 彼女は小さく頷く。

 何かありそうな様子だが、あまり突っ込んで聞くことも憚られた。


「じゃあ」


 手を振る。

 アマルは肩を震わせて、そっと目を伏せた。


「また後で」


「……えっ?」


 彼女はぱっと顔を上げ、信じられないと言った顔で俺を見詰める。


「ごめん、言ってなかったな。ベネディクト修道司祭と話して、帰る方法が分かるまで、ここに滞在させて貰えるようになったんだ。だから、ここに居る間仲良くしてくれると嬉しい」


「……はい。はいっ!」


 アマルは食い気味に何度も頷いた。ここまで、心配してくれてるなんて思ってなかったので嬉しい。思わず笑みが漏れる。


「ありがとう。何分、いきなりこんなところに来て右も左も分からない状態だからな。本当にアマルが居てくれて良かった」


「居て、良かった」


 そっと俺の言葉をなぞる。そして、眩しげに鮮やかな紅の瞳を瞬かせた。

 

「ああ、とても心強いよ」


「私……アマルにアンディ様はそう言って下さるのですね」


「ん? 当たり前だろ。よろしく頼むよ」


「はい。アンディ様。また、アマルに会いに来て下さい。どうか、お願い致します」


「勿論だ。むしろ、俺の方からお願いする。これから色々教えてくれ」


「アマルにできることなら、何でもお申し付け下さい。全てお望み通りに致します」


 アマルは胸の前で手を握り合わせた。俺を見詰めて、力強く頷いてくれた。困っている人を見捨てない修道女の(シスター)鏡だな。たいへん頼もしい。


「アマルは本当に良い子だなぁ。迷惑かけると思うけど、よろしく頼む。アマルこそ俺にできることがあれば言ってくれよ」

 

 鮮紅の瞳を輝かせ、アマルは深々と頭を下げた。俺も頭を下げておく。数秒そうして、俺は踵を返し扉まで歩く。そして、背中にアマルの強い視線を感じながら、薄暗い廊下へと足を踏み出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アンディの一言一言がアマルに最適で芯に響くものばかりで......笑 さらなるアンディの天然堕としが楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。