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聖者の牢獄  作者: 桂太郎
第4章罪深い愛の歌
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沈黙の回廊




 アマルに言われた通りに礼拝堂を出て、右手に足を進める。

 廊下も窓はなく、薄暗い。壁に等間隔で設置された燭台、その蝋燭の頼りない灯火が辛うじて視界を広げてくれた。


 特徴的なアーチ状の高い天井。壁や柱には彫刻された人体像に見つめられているような錯覚に陥る。何だか見張られてるみたいだ。兎に角、居心地が悪い。

 

(……詳しくは分からないけど、これゴシック調建築ってやつだよな。おどろおどろしいっていうか、何というか。下手なお化け屋敷より、怖い)


 早くここから抜け出したくて、足を早める。しかし、出口はまだ見えない。この修道院はかなり大きな建物なのだろう。


(……ほんと、どうして俺はこんなところに居るんだろうな?)


 コツコツと、自身の足音を聞きながら、答えがでない何度目かの問答を繰り返す。なにも生まれやしない非生産的思考。それでも、何故と思わずにはいられない。その考え振り切るように、眉間を揉む。

 

 暫く歩くと大きな門が見えてきた。


 俺にはそれが地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸のように思えた。

 駆け出す。ここは息ができない。早く出たい。その気持ちだけが頭を支配する。


 門にぶつかる勢いでしがみつく。手探りで取手を持って、無我夢中で引く。重たい。開け放たれることを拒むように、重厚な扉。俺は体重をかけ、更に力を入れて引っ張る。


 ぎいいぃぃ、と唸るような音を立てゆっくりと開かれていく。そうすると、隙間から甲高い風の音が聞こえた。

 扉の音、そして風の音。その不協和音が耳をなぞる。ゾクゾクする吐き気を覚えながら、俺やっとの思いで身体を外へと滑り込ました。


 

 始めに目に入ったのは、光。

 外は眩しいくらいの光に満ち溢れていた。暗い場所に居たからだろう。目が慣れるまで少し時間がかかった。


 辺りを見回す。


「……ここが回廊、か?」


 視線の先には大きな中庭があった。地面を覆う芝生は几帳面に整えられ、それとは対照的に青々と繁る木々。ひどく穏やかな場所。木の隙間から木漏れ日が淡く輝く。空を見上げると、太陽が柔らかい光を放っていた。


 先程までの重々しさとはうって変わった雰囲気。ほっと、胸を撫で下ろした。大きく息を吸ってから、一歩踏み出す。何故だかその一歩が、自分にとって大きな意味を持つように思えた。


「えっと……次は左手に曲がる、だったよな」


 アマルの言葉を思い出しながら歩く。

 木々がざわめく音が心地よい。その穏やかな微睡みを忘れないように、目に焼き付ける。優しい日だまりの中に足音が響き渡る。それが何より心を慰め落ち着かせた。


「……この扉だな」


 目の前に木製の古びた扉がそびえ立っていた。取り敢えず取手を握って押してみる。驚くほど簡単に開けた。さっきの扉は開けるのにも一苦労だったため拍子抜けしてしまう。


 中を伺う。

 礼拝堂の道とは違い窓がある。薄暗さはあるものの気にする程ではない。安堵の気持ちを隠さずにため息をひとつ。


 扉をゆっくりと閉めて、歩き出す。

 少し歩くと右手に道が見えた。ここを曲がるのだろう。そして、黙々と足を進める。目指す司祭室は、突き当たりにあるはずだ。途中に曲がり道や多くの扉があった。この修道院はまるで迷宮のように入りくんでいる。


(……アマルに道を聞かなかったら絶対に迷ってたぞ、これ。ほんとアマルに感謝だ)


 アマルの幻想的な姿を思い出す。


(……にしても、ほんと綺麗だったな。静代も美人だったが、まだ人間らしさがあった。でも、彼女は違う。そう……例えるなら人離れした女神様みたいな美しさだ)


 暖かみを感じさせない冷涼とした美貌。だからこそ、そう思った。


(……でも、笑うとすごく可愛かった。もっと笑えば良いのに、もったいない。まぁ、初対面の男に対して警戒していたんだろなぁ。うん、当然だ。だって俺、どこをどう見ても不審者だもの)


 そうこう考えていると、突き当たりの部屋に到着した。

 荘厳に細工された扉。脈打つ心臓を手で押さえつける。落ち着け。息を吸って吐く。それを数回繰り返す。そして、覚悟を決めた。


 扉をノックする。


 待つこと数秒。遅れて、「どうぞ」と男性の声が聞こえた。





修道院の描写は書いていてとても楽しいです。一番好きかもしれない。

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