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聖者の牢獄  作者: 桂太郎
第3章 救いは蠢く闇に
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聖なる者の声





 巡礼の旅は長く、過酷だ。

 だからこそ、神への信仰を深めることができる。

 苦しみ、痛み、悲しみ、その中にこそ真の救いはあるのだ。


 そのためには、旅を続けなければならない。しかし、所詮女ひとりの旅路だ。外は危険に溢れ、常に死がこちらを見詰めている。私はどこまでこの道を歩んで行けるのだろうか……。

 




 ある村に訪れた際に村人から、森の奥深くにある修道院の話を聞いた。


 曰く、祖父の祖父、そのまた祖父が子どもだった頃、その森には悪竜が住みついていた。その竜は地を這い、毒を吐き、森に入る人々を悉く闇へと引きずり込んだという。

 これに困り果てた人々は、竜に許しを求めると竜はこう言ったそうだ。


 「命が欲しくば、穢れなきものを我に捧げよ」


 それを聞き人々は清らかな乙女を竜の巫女として差し出した。

 ある聖人がその話を聞いて、竜を退治しようとこの地にやって来た。聖人は神に祈りを捧げ、天の助けを借りて竜を討ち滅ぼした。


 私はその話を聞き、好奇心からストーンハースト修道院を訪れることにした。


 ストーンハーストへと続く昼でも暗く淀んだ森へと足を踏み入れたのはいいが、直ぐに道を見失ってしまった。どれくらいの時間を歩いたのか分からない。数時間なのか、あるいは数日なのか。疲労と空腹で意識が混濁しながらも、私はひたすら森の中をさ迷い歩いた。


 幸い道中で力尽きる前に、私はこのストーンハースト修道院にたどり着くことができた。これも神与えた試練なのだろう。




 気づけば、ここで暮らし始めて、数週間が過ぎた。

 このストーンハーストは、今まで見てきた修道院とどこか違うように思えた。何故だかは、分からない。ただ、言うなれば違和感……そう、漠然とした違和感を感じるのだ。


 ここは、本当に聖人が悪竜を神の威光により滅ぼした地なのだろうか。


 


 ***




 夜。


 微かな音がして、目が覚めた。

 巡礼棟には、私しか居ないため背筋が凍る。もしかして、慮外者が忍んで来たのかもしれない。このようなことは、何度も経験している。枕元に置いた護身用の短刀を掴む。

 

 息を止めて、じっと扉を睨み付けた。

 

 一瞬、強い風が吹き思わず目を瞑る。

 再び目を開けると、何かがそこにいた。

 


「……えっ?」


 笑い声が聞こえた。

 軽やかな、そして透き通るよう声音。

 その声は、男の声ではない。むしろ、少女のそれだった。


「あ、あなたは誰なの!?」


 クスクス。

 笑う声。嗤う声。

 囁くように、叫ぶように。


 ズルズルと、引きずる音がする。

 いや、これは這いずる音だ。


 こちらにゆっくりと、向かってくる。


「来ないで、近づかないでっ!」


 止まらない。

 ゆらゆらと、曖昧な影。

 ズルズルと、生々しい音。


 甲高い耳鳴りがしたかと思うと、影はピタリと止まった。

 

 ―――貴方は、神を信じますか?


 何を聞かれたのか分からなかった。

 一拍おいて、私はすがり付くように祈りを捧げた。


「ああ、主よ。どうか我らを罪から救い給え。どうか我らを悪から救い給え!」


 ―――そう、でも神は貴方を信じているでしょうか?


 何故か、私はそれにすぐ答えることができなかった。

 

 意識が遠くなる。

 床に崩れ落ち、動けない。

 ソレは直ぐ側までやって来て、私を見下ろしているようだった。

 視界がぼやける。



 ―――最後に見た記憶は、深紅に輝く瞳だった。




 ***

 


 

 目が覚める。

 全身ぐっしょりと寝汗で濡れている。

 あれは夢だったのだろうか。


 私はベッドから抜け出して、深いため息をつく。

 顔を洗って、気持ちを切り替えよう。

 そう思って、一歩踏み出す。そこで、私は目を見開いた。


 何故なら、床に這いずった跡がくっきりと残されていたからだ。

 声にならない悲鳴を上げ、その場にへたり込んでしまった。



 これは神からの試練か。

 それとも悪魔からの誘惑か。



 私は、ソフィア・ロメは一体なにを見たのだろうか。

 



 

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イヤぁやばいっすね絶対希望ちゃんじゃん
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