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聖者の牢獄  作者: 桂太郎
第2章  プロメテウスの火焔
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重なる声



 アマルの身体を抱き締める。

 彼女は俺の胸板に顔を擦り付け、背中に手を回した。


「……アンディ様」


「ん、何だ?」


「私は、貴方様だけをお慕いしております」


 寂しそうに、笑うアマル。

 自身が笑っていることに、気付いていないようだった。


「許されるのなら……いいえ、許されなくとも」


 冷たい身体。

 それを暖めるように、隙間なく身体をくっつける。

 

「どうか貴方様の側に……」


 声が重なって聞こえた。

 アマルはひとりしかいないのに。重なって、という表現はおかしな表現だと自分でも思う。疲れているのだろうか。

 俺はアマルを見つめた。何故違和感を感じるのだろう。彼女の容姿はどこからどう見てもアマルだ。咲きほこる花のような、熟れた果実のような匂い。アマルの香り。安心する嗅ぎ慣れた体臭。

 漠然とした違和感。アマルなのに、アマルではない。ただ焦燥感が募る。


「アマル、お前……」


 その先に続く言葉を紡ごうとして―――


 くらり、と急に眩暈が襲った。

 視界が歪む。

 チカチカと点滅を繰り返す。

 寒気が止まらない。

 意識がどんどん薄れてくる。

 ああ、これは気を失うやつだ、と他人事のように思った。

 立っていられなくなり、アマルに寄りかかる。

 何が嬉しいのか、アマルの笑い声が闇に溶けた。

 

「……永遠の愛を誓って、貴方様に従い、貴方様を守ります」


 暗闇の中、その声だけがはっきりと聞こえた。  


 

 

 ***




 「ここは……」


 意識が覚醒する。

 あたりを見渡すと、見慣れた部屋にいた。俺の自室だ。

 隣にはアマルが俺の腕を抱くように眠っている。

 

 ……あれは夢だったのだろうか。


 アマルの手を優しくほどいて、ゆっくり起き上がる。

 ため息を吐いて、自分を落ち着かせた。

 頬を伝う汗を服で拭う。拭ってから、あれ? と疑問に思った。


(……俺、服着てる?)


 そうだ。

 あれが夢なら、俺は裸のはずだ。昨晩アマルを抱いて、俺は裸のまま寝入った。であるならば、服を着ている時点で矛盾が生じる。やはり俺はここを抜け出す際、服を着た。そう考える他ない。


(……じゃあ、あれは現実に起こったことなのか?)


 アマルを見る。

 彼女は気持ち良さそうに寝息を漏らして眠っている。回廊で感じた違和感は感じない。いつものアマルだ。

 かけ布団を捲ると、透き通る白い裸体が姿を現した。豊かな乳房がまず目に入る。引き締まったウェストがそれをより強調していた。


 アマルは気を失った俺を背負ってここまで連れてきた? でも、こんな細腕でそれができるとは到底思えない。

 人を呼んで運んで貰った。普通に考えるとそうなるだろうが、誓約によって修道院の者はアマルと会話することができない。


(なら、どうやって……)


 暫くアマルの様子を眺めていた。それから、少ししてアマルは目を覚ました。


「ん、ふわぁ……あん、でぃさま」


「ああ、おはよう」


「ひゃん、おはよーございます」


 もぞもぞと、身動ぐ。

 それに合わせて、胸がたわんだ。二つの桃色がはっきりと目にはいる。勿論、上と下も何も身に付けていない。


 ……エロっ!


 考えていたことが、一気に飛んだ。自分でも単純だと思う。


「ふふっ、あんでぃさま」


「ん、どうした?」


「まいあさ……はじめにみるおかたがあんでぃさまで、あまるはしあわせです」

  

 ふにゃりと微笑む。朝から、好き好きオーラ全開だ。俺は頬を掻いて、なんとも言えない顔をしてしまう。


「あー、そうか。うん、ありがとな」


「はい、すき。だいすき。おしたいしています。あんでぃさまぁ、んっ」

 

 目を瞑って、唇を差し出してくる。キスしろと、無言の催促。

 顎に手を添えて上向きにすると、そっと唇を重ねた。そうするとアマルは嬉しそうに、唇を擦り付け食んでくる。


 あー、ダメだ。可愛い。


 俺はちらりと窓を見た。まだ薄暗く本格的な夜明けは訪れていない。時間は充分ある。俺は即座に欲望に負けることにした。そう決めると、身体もその気になる。もどかしく急いで服を脱いでいく。それから、アマルの頬を撫でて懇願する。


「……なあ、いいか? 朝から悪いが、もう我慢できそうにない」


 それを聞いて、アマルはしっとりと微笑んだ。

 俺の首に手を回して、鼻に軽く唇を落とした。ちゅっ、とリップ音が聞こえる。それから、全てを受け入れる笑みを浮かべた。


「ええ、どうぞ。私は貴方様の女(もの)ですから。いつでも、どこでも満足行くまで、ご賞味ください」


 堪らず、勢いを付けて覆い被さる。昨晩のアマルを振りきるように、ただ今のアマルを焼き付ける。現実逃避も甚だしい。それでもそうしざるを得なかった。


 少女の艶やかな声が、部屋に響いた。

 



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