廃人と俺
一日の授業が終わり、その日の授業内容を全て復習し、授業中に取ったノートを自分なりにわかりやすく清書していく。そうすることで教わった内容をちゃんと理解し、自分の知識として脳内に効率よくインプットできるからだ。
毎日3時間ほどかけてこの作業を行い、飯を食って風呂に入って・・・一時間だけ自由時間を作っている。勉強だけで根詰めるとどんどん病んでいくからだ。(実体験済み)
一時間の自由時間で何をするかというと・・・。端的にいうとゲームだ。
部屋の電気を消し、ゲームを起動する。すると部屋中に小さな光点が現れる。この光点は全てモーションセンサーだ。
ヘッドセットを頭につけ、専用の手袋を装着し、俺はいつものあの世界に入る。
VR機器から流れ込んでくる起動音と、真っ白な画面。数秒すると目の前に中世ヨーロッパ風の街並みが広がる。
俺のやっているげーむ。MMORPG「Lost World」通称LW。俺の拠点にしている、いつもの町の風景が目に入る。
俺はこのLWのβ版から遊んでるいわゆる古参プレイヤーだ。とは言ってもまだ始まって2年程度しかたっていないのだが・・・。
LWはオンラインのロールプレイングゲームなのだが・・・自由度が高すぎて玄人向けのゲームとして有名だ。
RPGなのだから最初に自分の役割・・・職を決めるのが普通だと思うが、このゲームは最初、ただの一般人から始まる。最初の雑魚敵のスライム相手に、木の棒を持って泥仕合をする。レベルアップしても全体的な数値が上がるのではなく、ポイントを与えられ、自分の好きなように割り振っていく。そうして割り振ったポイントを自分で判断し、職を名乗るのだ。
防御値が○○で体力を多めに振っているから俺がタンクをやる。とか神聖魔法を習得したからヒーラーをやるとかそんなかんじだ。
一応ステータスが一定値になると職業を選べたりもするのだが、魔法職以外は割とフリーランスで何でも屋になる人が多い。魔法だけは職を得ないと覚えられない。
職を得ると今まで自分の考えで振っていたステ値が、自動でその職の適正ステ値に代わってしまう。まんべんなくやりたい人や、極振りしたい人は職に就くのを嫌がるのだ。
別に職に就いたからと言っても、圧倒的に強くなるわけでもない。特定の動きに応じてシステム補助が付くようになる程度だからだ。盾を強く握ると自動でガードしてくれたり、剣速が少し早くなったりする。現実世界で運動神経のいい人なら別にいらないかな?そんな程度の物だ。
「お?いつも時間どおりのインやな~セイ」
「ジュン・・・お前はいつも暇なのか?」
「暇っちゃ暇やな。魔法職がいないと行けないダンジョン消化できへんしな~・・・どこかに都合のいい魔法職がいればいいんやけど・・・チラッチラッ・・・古参で安定してクリアできそうな魔法職がいればな~」
「・・・俺より装備強いやつもいっぱいいるだろうに・・・誘われて助かるけどな」
「よし!決まりやなー。このゲームは装備よりスキルやで~そんな事百も承知やろ?メンバーはうちのギルドでもう集めてるから、さっさと行くで~!」
ジュンはこのLWでも装備、プレイヤースキルで上位五本指に入るほどのプレイヤーだ。とはいえPVE専門の為、エンドコンテンツのPVPには参加しない。ギルドに誘われるのがめんどい、という理由で適当なPVEギルドを作ったそうだ。そのギルメンたちもだいぶ廃人思考なのだが・・・。
俺がなぜ魔法職を選んだかというと、この職業は圧倒的気に人気がないからだ。
人気がない理由としては、長い魔法発動の為の詠唱を覚えないといけなかったり、属性や効果に応じてまったく違った詠唱をしないといけなかったり、ソロだとレベリングが厳しすぎる(長ったらしい詠唱をしてる間に敵に倒される)、せっかく育てたステータス値が無駄になるなどなど。デメリットが多すぎる。
しかし魔法職がいないとクリアできないダンジョンとかもあるので、どこのギルドも魔法職を一人か二人は確保しているわけだ。
プレイ時間が限られている俺からすれば、詠唱などはゲーム時間外に覚えればいいし、インしてすぐにダンジョン攻略パーティーに入れるから効率よくゲームできるわけだ。
物理の火力職とかだと、なかなかダンジョン回れなかったりするからな‥。
しかし一年ほど前にジュンと出会い、大体一緒に回ることが多い。いろいろと話してると気が合って、いつの間にかフレンドになっていた感じだ。
ジュンは火力盾とかいう意味のわかんない職を自称している。ステータスをスピードと力に特化してあげてるらしく、誰よりも火力(DPS)を出して敵のターゲットを自分に固定し、全ての攻撃を躱すという意味の分かんないスタイルだ。ホント訳が分からん・・・なんだこいつ・・・。
防御力が初期値のままなので、このレベルのダンジョンだと雑魚敵の一撃でも即死なのだが・・・。本人曰く、当たらんかったらええだけやろ?だそうだ。ホントに一撃も食らわないのがすごいとこだ。
流石廃人ギルドと言ったところだろうか、通常ならダンジョンを攻略するのに40分ほどかかるところなのだが、20分ほどで踏破して割と時間が余ってしまう。戦利品を分配し、消耗品などを補充、倉庫整理などを終らせ、少しだらだらとジュンと雑談をするのが日課になりつつある。
「で?ギルド加入の件考えてくれた?」
「ジュンのお誘いは嬉しいけどさ・・・俺そんなに時間取れないし、足手まといにはなりたくないんだよ」
「んー・・・そんなことないんやけどな~装備なんて誰でもいつかは手に入れられるし、PSもやってれば勝手に身につくもんやし。そんなもんより、性格とか、相性の方が大事やん?仲間の輪乱すような馬鹿はどんなに上手かろうが嫌やからな~」
「お前がPVPやらないのもその辺が理由だっけ?」
「せやな~。全員がそうじゃないにしろ、あの界隈って人を蹴り落として優越感に浸る感じやろ?あんま関わりたないな~」
罵詈雑言が飛び交う戦場を見てれば、まあ御察しって感じか。
「ゲームの楽しみ方なんて人それぞれやし、ワイはPVPでは楽しめそうにないってだけやな。ギルドは入りたくなったらいつでも来てええからな。ギルメンにはすでに話通してるし、無理強いはせんよ」
「ジュンのギルメンさんにはお世話になってるし、なにか俺如きが役に立つことがあれば、なんでもさせていただきますよっと」
「充分役に立ってるって・・・まあええわ。そろそろ落ちるんやろ?ほなまた明日な相棒」
「おう。んじゃあお先~」
そう言って俺はゲームからログアウトした。
ジュンは知り合って一年ほどだが・・・間違いなく俺の唯一の親友だと思う。リアルで会った事はないが・・・。そんなこと思ってるのは俺だけなのかもしれないけどな。




