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3話 オトコハコロセ。オンナハツカマエロ


「そういえば幽霊って何?」

 陽翔は近くの町を目指し、歩いている途中でレイカに質問した。

 日本で幽霊といえば死んだ人間の魂が現世に姿を現した存在だが、アーカイスの幽霊はどうなのだろうか。陽翔は疑問に思った。

「死んだけど成仏したくない人間が現世を彷徨っている存在です。自殺した人は幽霊になりません」

「へぇ~。じゃあ、幽霊って元々、生きていた人間なんだ」

「そうです」

 どうやら日本の幽霊と同じようだが、陽翔は『契約』について気になる。勇者証に『生気を与える』と書いてあったが……。



「もしかして幽霊って契約してくれる人がいないと存在できないの?」

「そうです」

 レイカは歩みを止めた。

「契約者がいないと長くても1週間で消えてしまいます。私は運よくイサブキさんが契約してくれましたけど……」

「そうなんだ」

 レイカは『自殺した人は幽霊にならない』と言った。つまり、レイカは死にたくなかったはずだ。しかし、何らかの理由で死んでしまった。死んだ理由を聞けないが、陽翔は少し悲しくなる。

「人間が幽霊と契約する理由は様々ですけど、霊魔を倒すために契約している勇者は少なくないです」

 2人は再び歩き出す。



「霊魔か……。幽霊と契約してないと攻撃がほとんど利かないって言ってたけど、どういうこと?」

「う~ん……私もよく分かりませんけど、契約してない人が霊魔を攻撃しても中々、倒せません。でも、契約していると霊的な力が宿って効果的に損傷を与えることができるみたいです」

「へぇ~。俺は簡単に倒せたけどなぁ……」

 と言いつつ陽翔は前の異世界で手に入れた聖剣の力だろうと考えた。

「不思議ですよねぇ。……幽霊って契約している人から離れると生気を吸えませんし、霊的な力も弱くなる。あの霊魔を倒した時、イサブキさんの近くに幽霊はいなかった。そして今も私以外の幽霊がいない。ということは……」

「俺の力だけで倒したことになる」

「そうですね」

 と言いながら再びレイカが歩みを止めた。




「1人で霊魔を倒せるからといって、やっぱり契約やめるって言わないでください」

 レイカが少し焦っている。レイカの話によると契約は、どちらからでも一方的に解除できるらしい。

「大丈夫だよ。記憶喪失だから誰かがいると心強い」

 あの霊魔を倒せたのは偶然かもしれない。次に霊魔が襲ってきた時に聖剣の力で倒せる確証がないため、陽翔は契約を解除するつもりはない。

「そうですか。ありがとうございます」

 レイカは笑顔でお礼を言った。









 

「町に着きました」

 陽翔達はハジマという町の入り口にたどり着いた。道中に襲ってきた凶暴な動物をあっさりと倒したせいで、「記憶喪失とは思えない動きですね」と驚かれたが、陽翔は「体にしみついているのかもしれない」とごまかした。

「これからどうするんですか?」

 この先の行動を聞かれた陽翔は黙ったまま、レイカを見つめた。

「どうしたんですか?」

「……あのさ、タメ口で話してくれないかな? なんか、むず痒い」

「分かった。そうするね」

 レイカは笑顔で答えた。



「それで、これからどうする?」

「どうしよう……」

 陽翔は悩む。日没までの時間や他の町までの距離が分からないため、無暗に行動して野宿をする羽目になるのは避けたい。本格的な行動は明日にしようと思った。ならば……。

「とりあえず寝床を確保したい。泊まれる場所はある?」

「あるよ。ついてきて」

レイカは陽翔を宿に案内した。




「いらっしゃい。2人かい?」

「はい。2部屋お願いします」

 陽翔は2つの部屋をとろうとした。お金がもったいないが仕方ない。

「別々の部屋にするの? イサブキが問題ないなら私は一緒の部屋でもいいよ。お金がもったいないじゃん」

「いいの?」

「うん。幽霊は着替えもお風呂も必要ないから大丈夫」

 着替えが必要ないなら服はどうなっているのか気になったが、考えないことにした。

「そうか。じゃ、1部屋でお願いします」

「あいよ」

 受付のおばさんからカギを貰った瞬間、陽翔の腹が何度も鳴った。

「フフ。お腹すいてるの?」

「そういえば……」

陽翔は、昼休みが始まった直後に転移させられたせいで弁当を食べ損ねたことを思い出した。

「腹減った」

「ここに食堂があるから何か食べなよ」

「そうするか」

 陽翔は、飯を食べてから今後のことを考えることにした。







「記憶喪失って言ったけど、思い出せることはある?」

 飯を食べている陽翔にレイカが質問する。

「名前以外何も思い出せない」

 陽翔はアーカイスのことを何も知らないのである意味、嘘をついていない。

「あー、大変だね……。でも勇者をやっているってことは確かだよね」

「そうだったな」

 そう言って陽翔は銀髪の女から貰った『勇者証』を取り出した。



「見せて」

 レイカは陽翔から勇者証を奪った。

「ひく……。初期の階級じゃん。しかも1度も依頼を受けてないし、って今日作ったばかりじゃん」

「階級?」

「勇者は依頼をこなすと階級があがるの。それによって受けられる依頼が増えるんだけど……」

 レイカは陽翔を見た。

「イサブキは1度も依頼を受けてない。今日作ったばかりだから当然ね」

「そうなのか」

 この世界に来たのは今日が初めてだから当然だろう、と陽翔は思う。



「あれ? 勇者証はあそこで……じゃあ、なんであの場所に……まぁ、いいか」

 レイカがゴニョゴニョと独り言を言っている。

「記憶を失う前の手がかりが掴めると思ったんだけどなぁ。仕方ないわね」

 と言ってレイカは勇者証を返した。



「勇者って依頼をこなして報酬を貰う仕事らしいけど、どうやって依頼を受けるの?」

「依頼仲介所で受けられるよ。行ってみる?」

「うん、勇者として依頼を受けてみるよ。そうしないとその内、金がなくなる。とりあえず記憶が戻るまでは勇者の仕事をするよ」

 銀髪の女が勇者証を渡したということは、アーカイスで『勇者』として行動しろということだろう。陽翔は勇者として行動することにした。

「分かった。食べ終わったら依頼仲介所に案内するね」

「おう、頼む」







「物探し、魔物退治、護衛……いろんな依頼があるんだな」

「そうだよ」

 依頼仲介所にいる陽翔は横に長く並んだ掲示板を見ている。

「それは階級10の勇者が受けられる依頼だよ。イサブキは初期の階級だから、あっちを見た方がいいかな」

 と、レイカは左端の方を指さした。どうやら勇者の階級は1~30段階まであって、陽翔が見ているのは階級が10以上ある勇者が受けられる依頼のようだ。階級によって依頼の難易度や魔物の強さも変わる。

陽翔はレイカの言う通りに左端の掲示板を見る。



「う~ん……何を受けようかな」

 なるべく面倒臭くない依頼がいい。

「ん? このワヨブリンって何?」

「人の形をした魔物だよ。子供みたいな大きさだし、そんなに強くないから安全……と言っても集団で人を襲うこともあるから厄介な魔物かな」

陽翔は、ゴブリンみたいな魔物か、と思った。

「よし! これにしよう」

 依頼は「森にいるワヨブリンを退治しろ」という内容で、依頼主は『国』だ。

 掲示板に張られている紙と身分証を受付に出して、依頼を受けるシステムらしい。陽翔は依頼を受けるための手続きをした。

 早速森に行きたいところだが、今の陽翔は食料や水などを持っていないので、森に行く前に手に入れなければならない



「行くか! と言いたいけど飲み物とかってどこで手に入るの?」 

「雑貨屋で買えるけど、そういうことも忘れちゃったんだね」

「まぁな」

 陽翔は雑貨屋のような店に行けば買えるだろうと思っていた。しかし、レイカは、陽翔が記憶を失っているせいで入手方法が分からないのだろうと勘違いをした。

「その雑貨屋っていうところに案内してくれ」

「分かった。ついてきて」

 雑貨屋で水を買った陽翔は早速、森に行った。







「あれがワヨブリンか?」

「違う。あれはミドブリン。ワヨブリンより強いよ」

7体の人の形をした魔物が焚火を囲んで肉を食べている。陽翔達はその様子を隠れるようにして見ている。

「なんか、やたらデカいのが2体いるが……?」

「あれはストブリン。結構、強いよ」

 ミドブリン達は身長が2m程でストブリン達は3m程の大きさだ。人間が素手で倒すのは難しいだろう。

「うえ……人の形をした肉を喰ってやがる」

 よく見なくてもミドブリンとストブリン達が食べている肉は人の形をしている。

「アイツらにとって男は食料、女は玩具だからね。旅人か勇者が襲われたのかも」

「マジかよ……」

 改めて自分が異世界にいるという実感をする陽翔だった。日本では絶対に見られない光景だ。



「ワヨブリンはいないわね。無視、無視」

「そうだな」

 ワヨブリンがいないため無視をして、目的の魔物を探そうとしたが……。

「ニンゲンダ」

「オトコハコロセ。オンナハツカマエロ」

「ヤバ、見つかった」

 ミドブリン達に見つかってしまった。レイカが焦るが、陽翔は口元に笑みを浮かべながら剣と盾を出現させた。

「ちっ、戦うしかねーか」

 と、戦う気満々の陽翔はミドブリン達に囲まれてしまった。レイカが慌てているが、陽翔は戸惑うことなく目の前のミドブリンに一瞬で詰め寄り、縦に切断した。さらに左右のミドブリンの首を斬り落とす。

 間髪を入れず、振り向きざまに剣を薙ぎ払った。剣の軌跡がビームとなり、2体のミドブリンを切断した。残るはストブリンが2体。腹から血を流しながら逃げようとしているが、陽翔は躊躇うことなく、ストブリンに止めをさした。



「ふぅ~」

「……戦い慣れしてる動きだね」

「あ、ああ。体が勝手に動いた」

 陽翔は嘘をついた。

「この調子で目的のワヨブリンを探そ!」

「そうだな。のんびりしてたら日が暮れちまう」

 陽翔達は目的のワヨブリン探しを再開して、30分後にワヨブリンを見つけることができた。







「あ、いた! あれがワヨブリンよ……ンッ!?」

「でか……」

 陽翔の目の前にワヨブリンと思われる魔物が5体、ミドブリンが2体、ストブリンが3体いる。そして5mの大きな魔物がいる。

「あれはスボブリン。って解説してる場合じゃない。早く逃げようよ」

 レイカが狼狽えている。相当、強い魔物なのだろう。そんなレイカを後目に陽翔は剣と盾を構えて戦おうとしている。

「ちょ、戦うの!?」

「当然だ!」

 自分が記憶喪失という設定を忘れたわけではないが、逃げるより倒した方が手っ取り早いと考えた。不審に思われたらごまかせばばいい。



 陽翔によって瞬く間にワヨブリン達が倒され、残るはスボブリン1体となった。

「あとはお前だ!」

 そう言ってスボブリンを倒そうとした時、スボブリンの前方に幾何学模様が描かれた円が出現した。



「なんだ?」

 陽翔が警戒していると、円から岩が高速で飛んできた。陽翔は避ける。

「コイツ、魔法を使うのかよ。なら、こっちも……」

 陽翔は目の前に尖った氷を大量に出現させて、スボブリンめがけて飛ばした。魔法による攻撃だ。

 続けざまに頭上から光のビームを落とした。スボブリンは膝をつく。そして、陽翔は容赦なく何度も斬ってスボブリンを殺した。

 そんな様子を見たレイカは呆気にとられている。



「魔法! 記憶が戻ったの?」

「魔法? ああ……いや、なんか咄嗟に出た。記憶は戻ってない」

 陽翔はとぼけた。

「そう……。でも、スボブリンを簡単に倒すなんてすごいね」

「コイツ、強いの?」

「うん。デカいし魔法も使うし頭もいいし、中級程度の勇者なら苦戦するんだよ」

「へぇ~」

 陽翔はスボブリンの死体を見つつ、疑問に感じたことを口にした。



「イレーストって勇者だったの?」

 レイカが魔物や勇者のシステムについて詳しそうな感じがする。レイカが勇者だったのではないかと陽翔は思った。

「そうだよ。これでも階級27だったんだから。油断して魔物に殺されちゃったけどね」

「27!? そうは見えねぇ」

「う~、失礼ねぇ」

 レイカは唸って怒る。



「はは、ごめん。思わず口に出ちまった。だけど、そんなに強い奴がいるなら安心だ。幽霊になっても戦えるの?」

最高階級が30なので27のレイカは相当、強かっただろう。もし、レイカが戦えれば心強い。

「霊魔限定だけど戦えるよ。ほら」

 レイカが右手を上に伸ばしたが何も起きない。



「あれ……? えい! ……ん? えい!」

 レイカは何度も右手を上に伸ばすが何も起きない。

「おかしいなぁ」

「どうした?」

「幽霊でも契約していればイサブキがさっき使ったような力を使えるんだけど何故か使えない」

「じゃあ、戦えないの?」

「ううん、今の私は武器があれば戦えると思う。でも詳しい説明は後。今は街に戻ろう?」

 レイカは魔法を使えないことを不思議に思いつつ、陽翔と供に町に戻った。









「幽霊って生き物とか物に触れることができないの。魔法……イサブキがスボブリンに使った力も利かない」

 依頼仲介所にいるレイカは陽翔に幽霊について説明し始めた。

「だけど霊魔に攻撃を与えることはできるから一応、戦える」

「そうか。でも魔物とは戦えないのか……」

「ううん。イサブキは希少人(きしょうびと)だから。あ、希少人っていうのは幽霊を(さわ)れる人のこと」

 そう言ってレイカは陽翔の肩を触った。



「希少人と契約してる幽霊は物を(さわ)れるから、私も武器があれば戦えるよ」

「そうか! じゃあ、もし良かったら一緒に戦ってくれ」

「いいけど武器がないよ?」

「あっ……武器ってどこで手に入るの?」

「武器屋とか雑貨屋で買えるよ」

「そうか! じゃあ、買ってやる」

「……たぶん足りないと思うけどな」

 階級が25だったレイカが一緒に戦ってくれれば心強い。幸い、銀髪の女からお金を多く貰ったので余裕があるだろうと、陽翔は考えていた。しかし、陽翔の甘い考えは打ち砕かれた。



「高い……」

 レイカが使っていた武器は弓らしい。それも剣に変形できる弓。その武器は武器屋にあったが、値段が高い。陽翔の全財産では買えない値段だ。もっとも、魔力を使う弓らしいので魔法が使えない状態では買えたとしても意味がないが。

「……ごめん。買えない」

「無理しなくていいよ」

 他の武器も買えないため、今は諦めた。



 その後、いくつか依頼をこなした陽翔は階級が3に上がった。








「はぁ~、疲れた」

 夜、陽翔は宿のベッドに仰向けに倒れた。

 宿の部屋は広くなく寝るだけの部屋といった感じだが、風呂はある。

「何か思い出せた?」

 レイカが心配そうな顔をして聞く。

「いやなにも……」



「私が思うに、イサブキは国の兵士だったんじゃないかな?」

「兵士……って何?」

 陽翔は、警察か自衛隊みたいなものかとは思ったが、レイカに自分は記憶喪失だと嘘をついているので聞いてみる。

「街の治安を守ったり、魔物を倒す仕事。明らかに素人の動きじゃない」

「それはどうだろうか……」

 陽翔は否定する。



「実は異世界から来た人間だったりしてな」

「ハハハハ。また~? 異世界なんてあるわけないじゃん。それ、変な人って思われるから他の人の前では言わない方がいいよ」

「そ、そうか。ハハ。はぁ~」

「でも、記憶喪失なのに異世界っていう単語が出るってことは、イサブキは本が好きだったのかもね」

「はは……そうかもな」

やはり異世界から来たと言っても信じれくれそうにない。しばらく記憶喪失のフリをするしかなさそうだ。

 異世界、本が好き、レイカの反応……陽翔は嫌な予感がしたが、考えても仕方ない。

 



 そんなことより陽翔はクラスメートのことが気になる。銀髪の女から貰った資金はみんな、同じ金額だろう。ということは武器を買えない。魔法を使えるようになったらしいが、武器なしでどこまで戦えるのか、陽翔は心配になる。


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