18話 イーク・ジャータがなかったら、もう少しまともに戦えたんですけどねぇ
突然、現れた謎の魔物によってシズンの結界装置が破壊されたため、陽翔達は装置が直るまでシズンにいることになった。
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陽翔とレイカ、シキはあっさりと魔物を倒したが、ルテラは苦戦した。
シキは小柄で身長が160cmもない。そんな身体で大きいハンマーで戦っている。
謎の魔物と戦っている時は気にしていなかったが、改めて見ると陽翔はシキの筋力に驚かされる。
「はぁ~……イーク・ジャータがなかったら、もう少しまともに戦えたんですけどねぇ」
ルテラは空を見ながら言った。
「イークジャータ?」
「あ……」
ルテラは口を開けたまま固まった。
「何か聞こえましたか?」
「イークジャータがどうとか……」
「気にしないでください」
ルテラは作り笑顔で答えた。
「ルテラさんって、やっぱりオタクですか?」
「違います」
「じゃあ、イークジャータって何ですか?」
「忘れてください」
レイカが質問するがルテラは『イーク・ジャータ』の意味を答えなかった。そして硬い表情で空を見た。
「イサブキさん……この後、時間ありますか?」
そう聞いたのはシキ。
「あるけど……」
「それなら、オトゥーさんの家に来ていただけますか?」
「なんで?」
「町を守ってくれたお礼がしたいんです。後、いろいろ聞きたいことがあるんです」
「聞きたいこと?」
シキが聞きたいこととは何なのか? そんな疑問を抱きながら陽翔はオトゥーの家に行った。
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陽翔達はオトゥーの家に招かれて食事をご馳走になった。シキは「これくらいしかできなくてすみません」と謝ったが陽翔達は気にしなかった。
オトゥーは妻、子供1人と暮らしておりシキは居候しているが、居候している理由は話さなかった。
二人きりで話がしたいということで、ルテラとレイカは席を外した。
「半妖って知ってますか?」
シキは躊躇いながら陽翔に聞いた。
「半妖……妖魔と人間の間に生まれた子?」
「そうです。人間に近い見た目の人もいれば妖魔に近い見た目の人もいるんですよ」
「へぇ」
手引書に書いてある情報なので陽翔は知っている。
「半妖は差別の対象なんです」
「だろうな」
人間と妖魔は対立している。人間でも妖魔でもない生物はどちらからも疎まれるだろう。
陽翔はひと事のように言う。
「……実は私も半妖なんです」
ほぼ初対面の少女に打ち明けられたため、陽翔は反応に困った。このまま黙っているのも空気が重くなるので何か言わなければならない。
「だからそんな小さい体でデカい武器を振り回せるのか」
「はい。周りには魔法で筋力を強化してるって誤魔化してますけどね」
妖魔は魔力も身体能力も人間より優れている。シキは見た目が人間だが、妖魔の身体能力を受け継いだようだ。
「誤魔化せるのか?」
「何とか誤魔化せてます」
陽翔はシキがハンマーにこだわる理由が気になったが、自分には関係ないことなので理由を聞かなかった。
「あの……私のこと、怖くないですか?」
「俺が住んでる世界は妖魔も半妖もいないから怖くない」
「そうですか。よかった……」
後半の言葉は陽翔には聞こえなかった。
「それよりも人間と妖魔が恋することに驚いた」
これまで出遭った妖魔は好戦的だっただけに、陽翔は全ての妖魔は人間の敵と思っていた。しかし、半妖がいるということは人間と妖魔が恋をする場合もあるということ。陽翔は妖魔に対する認識がほんの少しだけ変わった。
「人間と妖魔は敵対してますからね。でも、私のお父さんとお母さんは凄く仲が良かったです」
「よかった……?」
陽翔は呟く。まるで今は仲がよくないかこの世にいないような言い方だ。陽翔は妖魔が「両親の仇を討つつもりか?」と言ったことを思い出した。
「妖魔を倒すために異世界から召喚されたって言ってましたよね?」
「ああ」
「ここに来るまでは妖魔を倒してたんですか?」
「いや、元の世界に帰る方法を探してた」
陽翔はシキに『異世界召喚』の意味を聞かれると思ったが、シキは『異世界召喚』の意味を知っているようだ。陽翔は話を続けた。
「どういうことですか?」
「俺達を召喚した奴によると元の世界に帰る方法がないらしい。でも信じたくないから帰る方法を探してる」
「じゃあ、妖魔と戦うつもりはないんですか?」
「ない」
「そうですか……」
シキが凄く残念そうな顔をした。
「国王が帰れる方法を知ってるかもしれないんですよね」
「そうらしい」
「早く帰れるといいですね」
「あ、ああ」
それきり、シキは何も聞かなかった。