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Lesson 4 流し目美女の回想録

 中等部に入学して、私は副委員長に任命された。副委員長は、貴族以外から選ぶのが学校の規則だ。だけど、副委員長なんてものをやりたがる人なんて誰もいない。私も断りたかった……。

 委員長となった貴族様に言いようにコキ使われるだけの役職。クラスの委員長を補佐するのが副委員長の役割ということだけど、実質はただの使いっ走りにされるだけ。そんなの平民の中では常識だ。


 貴族様達が帰ったあと、残ったクラスで話し合いが行われる。立候補形式をとっても、当然だれも立候補する人なんていない。そして、他薦という名の押し付け合いが始める。


「私はメーテルさんを推薦したいわ」とクラスの誰かが言った。まだ、中等部に入って初日。初等部でも見たこともないような子だった。


「それがいいわ」

「賛成!」


 私に他薦の票が集まってくる。私のことを知らない子からの他薦……。


 断りたい。でも、断れない。


 どうして私に他薦が集まるのか……。そう、その答えは分かっている。


 私は、気弱な外見をしている。長い睫毛に隠れた瞳。他の人のようにくっきりとした二重、大きな瞳では無い。くっきりした瞳の人と見つめ合っても、私は視線を反らしてしまう。


 だからきっとみんな、私の事を見て、「この人になら押しつけられる」と思ってしまうのだろう……。


 お母様譲りの長い睫毛。お母様はとても穏やかで、お父様には厳しいけれど、村の人達からは「優しそうね。羨ましいわ」なんて言われるけれど、私はずっと、溌剌はつらつと輝く瞳が羨ましかった……。


 私は、結局断ることは出来ず、副委員長を引き受けることになった。このクラスで身分の最も高いローズマリー様がクラスの委員長になった……。どんな無茶振りを強いられるのかとドキドキしていたけれど、どうやら私達平民にはご興味が無い様子で、いつも貴族の方達同士でだけ会話をされていらっしゃった。


 副委員長としての仕事は無く、穏やかな日々が過ぎていった。


 しかし…… 悪夢は突然にやって来た。


 なんと、いつも元気そうで風邪などと無縁そうなローズマリー様が学校を休まれたのだ……。


 悪夢だった……。


 普段は、ローズマリー様が授業中はお休みになっているので、それを妨げまいと、私語を慎んでいる他の貴族達が、授業中にも関わらずおしゃべりを始めたのだ。


 貴族のご息女だけに、先生も注意は出来ない。肝心のクラス委員長であるローズマリー様も不在……。


 クラスの他の人、そして先生からも、『副委員長が注意しろ』というような容赦ない視線が降り注ぐ。すぐにローズマリー様のご病気は回復されるだろうと初日はやり過ごした。しかし、次の日もローズマリー様は休まれた。

『お前が何とかしろよ』という視線はさらに苛烈を極めた……。平民は、身分もお金も無い。身を立てるには、学問が必要だ。貴族様達はそんなことお構いなしに私語を止めない……。


 私は勇気を振り絞った。


「授業中は私語を慎みましょう」と私は言った。体の中の勇気を全部振り絞って言った。


「はあ? 平民風情は私達に指図する気?」と貴族の一人が言った。


「ローズマリー様がご病気だからって、何を偉そうに」

 偉そうになんかしてないのに……。私は注意しただけなのに……。


 だが、他の人達も貴族達を批判的な目で見つめている。先生も……。多勢に無勢。不利を悟ったのか、貴族様達は温和しくなった。


「きっと、ローズマリー様はもうすぐお元気になられるわ! その時は、憶えておきなさいよ! 副委員長!!」と、何故か私は名指しで因縁を付けられる……。授業中に私語を慎んで欲しいのは、クラスのほとんどの人の総意のはずなのに……。


 貴族様達は授業中静かになったが、代わりに私は、ローズマリー様が学校に来られる日が恐くなった。なんて言われるか……。


 ……。


 そして、その日はやって来た。ローズマリー様のご病気が回復され、学校に登校されてきたのだ。貴族様達は、案の定、私を糾弾し始めた。


「ローズマリー様がお休みになっている間、平民どもが出しゃばっていたのですわ」と、ローズマリー様に告げ口をする貴族様。


 そして、「そうですわ。私達貴族の温情で、平民から副委員長を出してあげているのに関わらずですよ! クラス委員長であるローズマリー様がお休みなことを良いことに、平民のくせに、私達にあれこれ指図してくるのですわ!!」と私への攻撃が始まる。


 「あの副委員長は、ボルゴグラード伯爵家の配下の商家に雇われている家の娘ですわ。あんな躾のなっていない娘を持つなんて、父親の程も知れますわ! あの娘の父親に、暇を出されるのが良いかと思いますわ」


 その言葉に私は背筋が寒くなった。私の父は、商会で働いているということは知っていたが、まさかローズマリー様の、ボルゴグラード伯爵家に属する商会だったなんて!!


「ローズマリー様への忠誠が足りないのではないかしら?」

「そうね。ローズマリー様の靴をもう一度舐めさせて、忠誠を確認すべきだわ」


 追い打ちをかけるように貴族様達は言い放つ。


 私が諦めて席を立ってローズマリー様の元へと向かう……。私に対しての罵声は止まないが、突然、「お待ちなさい! 委員長不在の時、クラスを守ってくれた副委員長を咎める理由など私にはありません! もう授業は始まってます。席に着きなさい」という声が教室に響く。ローズマリー様の声だ。その声を受けて、他の貴族様は静まりかえる……。


 事なきを得た……かのように思えた。しかし、それは甘かった…… それは昼休みになってから分かった。いつもは一緒に昼ご飯を食べている友人達も、私を避けるようにしてそさくさと教室から出て行く。私が、ローズマリー様からどんな仕打ちを受けるか分からない以上、関わらないほうがいい、と皆考えたようだ。だが、私が同じ立場だったら、同じ事をしただろう。所詮私達は、貴族様達の顔色を伺いながら生きていくだけの存在なのだから……。


 何処へ行っても、誰も私を昼食の輪の中に入れてはくれないだろう……。私は、諦めて教室で食事をすることにした。


 しかし、何故か、教室にローズマリー様も残られた。後ろから、荒い吐息が聞こえた……。ローズマリー様は非常に起こっていらっしゃるのだろう。今更、教室から逃げ出すことも出来ない。私は、平静を装いながら弁当を食べる。しかし、まったく味がしない。


「ごきげんよう。私は、ローズマリー・フォン・ボルゴグラードよ」とローズマリー様は私の席の前に座る。私を逃がさないおつもりのようだ。それに、いまさら、名前を名乗られなくても……。このクラスにいる限り、嫌でもそのお名前は知ってしまいます……。


「ご、ごきげんよう。ローズマリー・フォン・ボルゴグラード様」と私は答えた。


 そこから、恐怖だった。はっきりと憶えていない。ローズマリー様と会話をしている最中に食事をしようとスプーンを握っていたからでしょうか……。なぜか私のスプーンを取り上げて退出なさるローズマリー様。しかも、ローズと呼び捨てにしろなどと、冗談にしては笑えないことを……。


 そして、スプーンを私の目に押しつけ……。


 ローズマリー様は仰った。「何をしたか? それは、鏡で自分の目で見て確かめて」と。私は、教室から走り出す。恐かった……。貴族に逆らった平民が、真っ赤に熱した焼きごてを皮膚に押しつけられるなんて話は良く聞く話だ。


 私は、洗面台の前の鏡の前に立つ。


 私は驚いた……。


 え? これが私? みんなのように、はっきとした二重が見える! 今までの気弱そうな私じゃ無い! これなら、ちゃんと相手の目を見て、物怖じせずに言いたいことを言える! さっきの気弱そうな私じゃ無い! さようなら、昨日までの弱虫な私!!!

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