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Lesson 2 流し目美女に贈る行進曲 その1

「行ってきます」と、屋敷から馬車で出発する私とレオを見送るお母様。


 私の病状は回復し、ついに登校することとなった。一週間ほど学校を休んでいたことになる。ついに通学することになる中等部。どうやら、前世の日本と同じようで、6歳から12歳までは初等部。12歳から15歳までが中等部。15歳から16歳までが高等部というように学校に通うらしい。私は、既に中等部の1年生ということで学校に通っているらしい。


「では、お姉様、お先に失礼します」と私の頬にキスをしてから馬車を下車するレオ。初等部から高等部まで、隣接しているが、初等部から中等部までは男女別の学校に通うこともあり、敷地が別れているので、それなりの距離がある。そのために先にレオが下車するのだ。それにしても可愛い弟だ。


 馬車に隣同士で乗って、弟の横顔をチラ見するたびに、「やばい、めっちゃコスメしたぃ……」という衝動に駆られ続けた。もし、私がこの馬車内に化粧道具を持っていたら、


「ねぇ、レオ。今から、お姉さんと良いことしましょう。大丈夫、怖がらないで……。はぁはぁ。レオは、恐かったら目を閉じていて。それだけでいいのよ。ね? お姉様に信じて……。きっと素敵なことになるわぁ。はぁはぁ」という感じに理性崩壊していたでしょう。まだ、変声期を迎えていない中性的な顔立ち。きっと、誰もがため息をつくような立派な男の娘が産まれていたでしょうに。めっちゃコスメしたかったぁ……。



 馬車が止まり、扉が開く。どうやら、中等部に到着したようだ。私は1年1組ということ。私が教室に入る。さすが、化粧のない世界。みんな美女ばかり。胸の発育が早い子やら、これからの子など様々だけど、やばい、めっちゃコスメしたぃ……。


 胸の発達が早い子は、少し大人の……紫色のアイラインなんかを引いて、背伸びしている女の子感を漂わせて、早熟を演出したい。大人の魅力を既に十分備えているのだけど、未成年保護の観点から手を出せないという禁断の熟れた果実……。


 胸の未発達な美少女達は、紫の上を見た時の光源氏のような……。将来の可能性を否応にでも感じさせるような、何色に咲くか予想も出来ない花の蕾み。ただ、綺麗、そして華麗に咲くとだけ分かった花の蕾みを、手元に置いて毎日、今か今からと花開くのを心待ちにしたくなるような演出を……。あぁ……めっちゃコスメしたぃ……。


 私は、衝動を抑えながら、私の席である一番後ろの窓際に座る。ナイス陽当たり。午前中なんか寝ていても逆光で先生から気付かれにくい位置。

 私が自分の席に着くと、数人の女性が私の元に駆け寄って来た。


「ローズマリー様。もう体調はよろしいのですか? 心配を致しましたわ」と数人の女の子が駆け寄って来る。

 彼女達は、貴族階級に属する貴族の子女。伯爵家である私よりも身分的には低い子爵家や男爵家の娘達。このクラスで階級がもっとも高いのは伯爵家の私。この国の制度で、身分に関わらず同じ学校に通うことになってはいるが、貴族は貴族、平民は平民というように、類は友を呼ぶ的な発想でグループが別れてしまう。そして、このクラスの貴族グループの頂点にいるのが、何を隠そう私という訳だ。


「ローズマリー様がお休みになっている間、平民どもが出しゃばっていたのですわ」と、明らかに教室中に聞こえるように私に告げ口をしてくる貴族の娘達。


「そうですわ。私達貴族の温情で、平民から副委員長を出してあげているのに関わらずですよ! クラス委員長であるローズマリー様がお休みなことを良いことに、平民のくせに、私達にあれこれ指図してくるのですわ!!」と、クラスの副委員長らしき人をあからさまに指を差して口撃している。


『何々、この大っぴらな身分対立は……。よくこれでクラスが纏まっていたわね……』


「あの副委員長は、ボルゴグラード伯爵家の配下の商家に雇われている家の娘ですわ。あんな躾のなっていない娘を持つなんて、父親の程も知れますわ! あの娘の父親に、暇を出されるのが良いかと思いますわ」


「その通りだわ」「それが良いわ」と騒ぎはじめる貴族のご息女様達……。副委員長らしき少女は黒板に向かって座っていて表情は見えないが、肩がわなわなと震えている。


『え? 状況が掴めないのだけど? 副委員長が私が休んでいる間に、副委員長がクラスを仕切っていたということだろうか? それはそれで良いんじゃ……。って、どうやら副委員長はお父様の息のかかった商人の下で働いているようだ。でも、遠回しに、首にしろって言っているわよね? それって、ひどくね? というか、もう授業始まってますけど……。チャイムが鳴るギリギリに登校した私も悪いんだろうけど……。先生も、授業を初めていいのかどうか困っているではありませんか……。先生ーー 学級崩壊してますよ——。なんとかしてください——』


「ローズマリー様への忠誠が足りないのではないかしら?」

「そうね。ローズマリー様の靴をもう一度舐めさせて、忠誠を確認すべきだわ」


『おいおい。『もう1度』? 1度は舐めさせたの!? 酷くない? それは私じゃ無いわよ。憑依する前のローズマリーであって、私ではないわよ!!』


「何、ぼさっと授業なんて受けているのよ! 早くこちらに来て、ローズマリー様の靴をお舐めなさい!」

「ほんとドンくさいんだから」なんて貴族女子達は副委員長を非難し始める。


『ちょっと待て! そもそも今は授業中でしょ! 授業受けているのが正しい学生の姿でしょ!! しかも、靴の裏を舐めるとか、そんなの誰得? そんなことされたくないんだけど!!』


 副委員長らしき少女は、貴族少女達の罵声に負けたのか、のろのろと立ち上がり、床を見つめながらゆっくりと私の方へと歩いてくる。


『ちょ、こっち来んな。ってか、こないでぇ〜』


「ふっ。やっとこのクラスの支配者が誰か、分かったようね」とどや顔する貴族少女達。悪役が堂に入っているというか、ナイス悪役的美少女。美女は、悪役だろうがなんだろうが華になる……。もっときつい性格である印象を与えるために、目力を強くするような尖ったアイラインを引きてぇ……。あぁ……めっちゃコスメしたぃ……。


『って、クラスの支配者って、私のこと? 魔王じゃないんだからさ!』


「今回は、さらなる忠誠の為に、靴の裏を舐めなさい」

「隅から隅までね!」なんて盛り上がる貴族少女達。もはや、鬼畜の所業……。


 そんな時、私の頭に閃いた。

『これは……。もしかしてネット小説で言うところの悪役令嬢モノ? そしてその悪役が私? いや、ちょっとタイム。もしそうであるなら、別クラスに王子様的な人とこの副委員長が恋に落ちるという設定じゃね? 悪役令嬢モノということだろうか? 恐らく、この副委員長と王子様が出会うのは、男子共学となる高等部であろう。そこで恋に落ちる的な? そして悪役である私は、王子様の婚約者的な何かを虐めたとかで、家ごと没落コース! はい、そのシナリオ・ストップ。私は、ただ、純粋にコスメしたいだけなのよ』


「お待ちなさい! 委員長不在の時、クラスを守ってくれた副委員長を咎める理由など私にはありません! もう授業は始まってます。席に着きなさい」と私は言ってみた。


『さっきまで騒いでた貴族女子達は、「ローズマリー様ご乱心」とか「は? 何言っているんだコイツ?」的な感じで口をポカンと開けながら私を見つめる。 やめて、そんな目で見ないで! 私が言ったことが正しいのか自信が無くなるじゃない……』


 クラス中がざわめいた。ってか、さっきまで無視を決め込んでいた他の女子! いまさら黒板の方からこっちを振り返って見たりしなくていいいから!! 黙り決め込むなら、最後までその意思を貫いてよ。


「では、出席をとりま〜す」って、淡淡と授業を始めようとする先生。先ほどまでの騒ぎは全スルーですかい!


「リーゼロッテ様がそういうのだから、今回のところは許してあげるわ!!」

「命拾いしたわね」とか言って、貴族女子達はなんとか体裁を整えている。


 こちらに歩いてきていた副委員長は一瞬だけ私の方を見た。私と一瞬だけ視線が交錯した。


『わおぉ。見る人を引き込むような黒い瞳に、綺麗なロングストレートの金髪。そして、睫毛が長い。天然であれだけ長い睫毛って凄いわね。あんな長い睫毛で流し目なんてされたら、大抵の男はいちころなんじゃないかしら。あぁ……めっちゃコスメしたぃ……』

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