第4話 君に決めた!
数日後、とある絶望的な午後のこと。
クスマは足を止め、顔色を青ざめさせて、粟の村のいわゆる「ランドマーク」の前に立っていた。
――もし、今にも風で崩れそうな歪んだ木造の小屋でも、ランドマークと呼べるのならの話だが。
……その今にも落ちそうな軒下には、風雨にさらされ、ほとんど外れかかった木の看板がぶら下がっていた。 そこには、狂草体とでも言うべき乱れた筆跡で、いくつかの大文字が歪んで書かれていた。
『粟のレストラン』
「うぇっ……」
クスマがドアを押すよりも早く、濃厚すぎて実体化しそうなほどの粟の匂いが、幽霊のようにドアの隙間から這い出し、彼の嗅覚神経に強烈なアッパーカットを食らわせた。
(これは香りじゃない、生物兵器だろ!)
クスマは口と鼻を押さえ、顔面蒼白になりながら、脳内で「粟粥」に関する恐怖の記憶が自動再生されるのを感じた。
(朝は粟粥、昼は粟餅、夜は粟糊……この村は粟の神に呪われてるのか!?)
彼は心の中で絶叫した。
(粟!粟!粟!滅びろ!滅びろ!滅びろ!)
「何を突っ立ってる?入るぞ」
父さんが後ろから彼を押し、その勢いであやうくドアに突っ込みそうになったことで、彼の脳内で進行中だった「粟殲滅計画」も無情に中断された。
─ (•ө•) ─
クスマがよろめきながら「ギィィ」と悲鳴を上げる木製のドアを押し開けると、店内の光景が一瞬にして目に飛び込んできた。
そこはレストランなどではなく、戦場だった!
見ると、体格が良く、羽毛の下の筋肉の隆起がクスマの太ももよりも逞しいおばさんが、彼らに背を向けてコンロの前に立っていた。
彼女は巨大な鉄のヘラを握りしめ、同じく巨大な鉄鍋と何やら死闘を繰り広げているようだった。
「ガツン!ガツン!ガツン!」
ヘラと鉄鍋がぶつかり合う音は耳をつんざくようで、轟々と燃え盛る炉の音と相まって、まるで激しいヘヴィメタル・ロックを奏でているかのようだった。
「席を見つけて座りな!先に注文だ!」
おばさんは振り向きもせず、その鐘のように太い声は全ての騒音をかき消し、クスマに足元の床板さえ震えたかのように感じさせた。
「注文しない客は相手にしないよ!」
その一喝で、クスマは鼓膜がじわじわと痛むのを感じた。
(……これのどこがおばさんだ、エプロンをつけたティラノサウルスだろ!)
クスマは怯えて首をすくめ、驚いたウズラのように、平然としている父さんの後ろに大人しくついていき、隅の席に滑り込んだ。
座るや否や、父さんは慣れた手つきでテーブルの上の油で汚れたメニューを手に取り、クスマの前に突き出した。
クスマはメニューを開き、一目見ただけで、目玉が飛び出しそうになった。
「こ……この値段、本気か?」
彼は父さんに小声で愚痴った。
「粥一杯で銅貨五十枚?強盗かよ?これじゃ『ぼったくり店』じゃないか?」
その言葉が終わった瞬間。
世界が静まり返った。
あの耳をつんざくような炒め音も、炉の音も、まるで一時停止ボタンを押されたかのように、突然消えた。
クスマは背筋が凍るのを感じ、不吉な予感がこみ上げてきた。彼はぎこちなく、コマ送りのように首を回した。
見ると、あのティラノサウルス……いや……あのおばさんが、すでにこちらを振り返っていた。
彼女の手にある、まだ青い煙を上げているヘラが、遥か彼方からクスマの鼻先を指している。その鷹のように鋭い眼光には、背後の炉の火よりも激しい殺気が燃え盛っていた。
「坊主!」
彼女の声は低く、危険で、嵐の前の静けさのようだった。
「今なんて言った?『ぼったくり店』だと?!」
(終わった!死ぬ!粟チキンとして炒められる!)
この生死存亡の瀬戸際で、クスマの生存本能が瞬時に爆発し、脳の回転速度が限界を突破した。
彼は「バネ」のように椅子から飛び上がり、両翼を頭上に掲げ、標準的な降伏のポーズを取り、顔には瞬時に極度の媚びへつらいと、少し引きつった笑みを浮かべた。
「い、いやいやいや!お姉さん、聞き間違いですよ!」
彼は大声で叫んだ。あまりの緊張に、早口言葉のような猛スピードで喋り、途中で舌を噛みそうになりながらも続けた。
「お、俺が言ったのは……お姉さんの料理の腕前は最高で!しかもこんなに美人だなんて!まるで……まるで粟の村のヴィーナスだってことです!」
(うぇっ……自分で言ってて吐きそうだ……)
おばさんはきょとんとした。
見る見るうちに、彼女の顔から殺気が……消えていった。
代わって、少し恥じらうような(?)、そして少し得意げな紅潮が、そのいかつい顔に浮かんだ。
「ふん、口は達者なようだね」
彼女はツンデレっぽく鼻を鳴らし、ついでに額の乱れた羽毛をかき上げると、ヘラを収め、背を向けて料理を再開した。
「もう!何が食べたいかさっさと注文しな!あたしの商売の邪魔をしないでおくれ!」
口ではそう言っているが、その声は明らかに猫なで声になっており、その逞しい腰をわざとらしくくねらせてさえいた。
(うぇっ……)
あの「ティラノサウルス」がようやく背を向け、耳元に再びお馴染みの、耳をつんざくような炒め音が響き渡るのを確認して……
「ふぅ……」
クスマはようやく息を吐き出すことができた。彼は泥のように椅子にへたり込み、まるで地獄の門の前でタンゴを踊ったかのような気分だった。
(あのおばさんの威圧感……あの隕石より百倍怖かったぞ!さっきの一瞬、川の向こう岸で婆ちゃんが手を振ってるのが見えた気がした!)
一方、父さんは最初から最後まで、名の知れぬ粗悪なお茶を平然と飲んでおり、その顔には「こうなると分かっていた」という諦めの笑みが浮かんでいた。明らかにこの場面には慣れっこなのだ。
「慣れればどうってことはない」
父さんは茶碗を置き、まだ震えているクスマの肩を叩いた。
「注文しろ」
クスマは深呼吸をし、再びメニューに目を向けた。
Aセット:納豆粟粥。(うぇっ……)
Bセット:パクチー粟粥。(パクチー入りだと?これは間違いなく邪道だ!!!)
Cセット:ダイエット☆長芋粟粥。(なんで粥一杯で可愛こぶってるんだよ?!星を付けたってうまくはならないぞ!)
Dセット:食欲がなくてもこれを食べれば朝から元気いっぱいになれるキノコ粟粥(•̀ᴗ•́)و̑̑
(なんでDセットは、説明文が料理名より長いんだ?!あとその顔文字は何だ?!)
「やっぱり……」
クスマは絶望的に目を閉じ、運命を受け入れたかのように、魂の底からの悲鳴を漏らした。
「……全部、粟粥じゃないか。この世界はもうおしまいだ」
だが、世界が終わろうとも、腹は満たさなければならない……
彼は目を開け、その恐ろしいメニューの上で視線を彷徨わせ、最終的に、最も奇妙な選択肢の上で止めた。
「どうせ死ぬなら、派手に死んでやる」
そんな強烈な好奇心と、ほんの少しの自暴自棄な気持ちを抱き、彼は死を覚悟したかのように、名前が一番長いDセットを指差した。
息子がようやく決めたのを見て、父さんは「さっさと決めればいいものを」という表情を浮かべ、すぐに厨房に向かって叫んだ。
「女将!息子にDセットを一つ!それから俺にCセットを二つくれ!俺はダイエット中だ!」
クスマの降ろしたばかりの手が思わず痙攣し、口元も激しく引きつった。
(……一人で二つも食べるなんて、どれだけ腹が減ってるんだ?しかもダイエットするのに二つ注文だと?一体何のダイエットになるんだよ?!)
─ (•ө•) ─
クスマが、なぜかぶくぶくと泡立っている「元気粥」と絶賛格闘中の時、分厚い羽毛に覆われた翼が、突然父さんの背中を強く叩いた。
「ドンッ!」
その一撃はあまりに強く、鈍い音を立て、父さんの顔をもう少しでテーブルにめり込ませるところだった。
「久しぶりだな!我が親友よ!」
爽やかすぎる、張りのある声が耳元で炸裂した。
見ると、体格が魁偉で、顎の羽毛が雑草のように乱れ、腹が酒樽のように丸いおじさんが、馴れ馴れしく椅子を引き、彼らの隣にどっかりと座った。
彼は遠慮なくその大きな翼を伸ばし、父さんの前からCセットの一つをひったくると、仰いで一気に飲み干し、「ズルズル」と音を立てた。
(なるほど、もう一つはこいつのか……どうりで父さんが二つ頼むわけだ、お決まりのパターンってやつか)
(それにしてもCセットを頼むとはな、この体型、やっぱり父さんと同じでダイエットが必要だな……)
このゼリガという名のおじさんは、粥を数口で飲み干すと、豪快に口を拭い、視線を隣のクスマに向けた。
彼はまず品定めするような目でクスマの貧弱な体格をじろじろと見て、それから嫌そうに首を振り、「チッ」と舌打ちをした。
「おい親友、お前の息子はどう育てたんだ?なんでこんなに栄養失調の豆もやしみたいななりをしてるんだ?」
「豆もやし」という四文字は、まさにクリティカルヒットだった――
「ぶふっ!」
クスマは飲み込んだばかりの粥を吹き出しそうになった。
「黄色くて痩せっぽちで、風が吹けば倒れそうだ。これで男と言えるのか?」
ゼリガは容赦なく追撃し、視線を上に移し、ついにクスマの頭頂部にある本物の豆もやしを目にした。
彼は固まった。
次の瞬間、彼はテーブルを叩いて、屋根を揺るがすほどの大爆笑をした。
「ハハハハ!傑作だ!共生植物まで豆もやしとは!なんて偶然だ!やっぱり俺は人を見る目があるな!」
「「ハハハハハ!」」
父さんも一緒になって笑い出し、涙が出るほど笑いながら、頷いていた。
(……何がおかしいんだ!このろくでなしども!人の傷口に塩を塗りやがって!)
クスマはスプーンを握りしめ、頭のもやしが怒りで震えているのを感じた。もし視線で人が殺せるなら、この二人のオッサンはすでに一万回は死んでいるだろう。
笑い終わった後、父さんは目尻の涙を拭き、笑顔を収めてゼリガの肩を叩き、口調を急に改まって言った。
「ゼリガ、この役立たずの息子のこと……後はよろしく頼むぞ」
この突然の「孤児の託送」に、クスマは完全に呆気にとられた。
彼は真剣な顔の父さんと、さっきまで彼を豆もやしだと笑っていた無骨なおじさんを交互に見比べ、手にしたスプーンは空中で止まったまま、下ろすのを忘れていた。
(……待て、頼む?よろしく?これは俺をこの野生のゴリラに売り渡すって意味か?!父さん、本気なのか?!)
彼が抗議する暇もなく、混乱した頭があるキーワードを捉えた。
(待てよ……この口の悪いおじさん……名前は「ゼリガ」って言うのか?)
その名前が脳裏をよぎった瞬間――
彼の脳内の青い点が、突然激しく明滅した!
熱血で、激昂したBGMを伴う記憶の断片が、稲妻のように脳裏に浮かんだ。
(これだ!)
「バンッ!」
クスマは猛然と立ち上がり、両翼でテーブルを力強く叩き、その衝撃でまだ泡立っていた元気粥がこぼれた。
父さんとゼリガの驚愕の視線の中、クスマはまるで別人のようになった。
彼はまず勿体ぶって頭の上に手を伸ばし、見えない帽子を格好良く後ろに回すような仕草をした。
続いて、彼は右翼を勢いよく振り出し、翼の先をまだ呆然としているゼリガに突きつけ、熱血沸騰するような、まるで世界大会の舞台に立っているかのようなクラシックなポーズを決めた!
「君に決めた!ゼリガ!」
彼の声は力強く、狭いレストランに響き渡り、まるで最強のパートナーを召喚しているかのようだった。
空気は一秒間、凝固した。
ゼリガは口元に粟粒を一つつけたまま、硬直していた。
続けて、クスマは再び大声で叫んだ。その口調には、拒絶を許さない命令の威厳が満ちていた。
「――あの粟粥に向かって、みずでっぽうだ!!!」
気まずい冷たい風が吹き抜けた。
「「???」」
父さんとゼリガは元の姿勢のまま、突然発作を起こした狂人を見るような目で、頭の上に巨大な疑問符を浮かべていた。




