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最終章 バッドエンドに花束を

私は、草陰で縮こまっていた。


カマキリの姿のまま、カマを抱きしめて、ブルブルと震えていた。


「虫も嫌いだけど、虫になった自分がもっと嫌い……」


振り返れば、食べたハエの残骸。

脳裏によぎる、あの寄生虫のねばついた体。

そして……交尾の最中に“いただかれた”彼氏(?)。


生きることは、“殺す”ことと“喰う”ことと“繁殖”でできている。


そう思い知らされたこの虫地獄で、

私は何を失い、何を得たんだろう。


いや、得てない。何も得てない。


「だいたいなんで……! 私が……! カマキリなんかに……!」


思い出してもみろ。


OLだった。

仕事もそれなり。友達もいた。ちょっと合わない上司もいたけど、

それなりに楽しくやってたんだ。


なのに、虫が嫌すぎて逃げたキャンプで、崖から転落して。


気づいたらカマキリになってた。


そして、今。


誰にも気づかれず、草むらの中で、カマキリとして人生を終えようとしている。


「…………。」


私、泣いてたのかもしれない。


涙じゃなく、目から分泌液がにじんでいたのかもしれない。


見上げると、遠くで蝶が舞っていた。

優雅なその羽ばたきに、なぜか少しだけ、救われた気がした。


「……せめて、来世は花にでもなりたい……」


そう呟いたそのときだった。


ガサッ――


風に揺れる草むら。視線を移すと、そこにまた……

ぎょろっとした、別のカマキリが。


「げ、まだ来んの!?」


彼はゆっくりと、求愛ダンスを始めた。


足をクロス、手をスッ、背筋をシャキ――

「アピールポイントはカマです!」みたいな顔で、こちらを見てる。


私はもう無理だった。


「無理無理無理ぃぃぃぃっ!! 虫も!恋も!繁殖も!全部無理ぃぃぃぃ!!」


そう叫びながら、私はカマを振り回して逃げ出した。


地獄のような虫世界を、もはやどうでもよくなって、

草をなぎ払い、茂みを蹴散らして、ただただ、全力で――


逃げた。


でも、どこへ行っても虫ばかり。


木の枝に芋虫。

地面にアリ。

空には羽虫。

葉っぱには卵。


「……世界、虫だらけじゃねーか!!!!!」


そう叫んだ私は、気づくとまた崖の縁にいた。


風が吹く。羽が揺れる。


「……ここから落ちたら、人間に戻れるかなぁ……」


そう考えた瞬間、足がもつれた。


――ふわっ。


落ちた。


空に放り出されたカマキリの私が、ふと思った。


「ああ……やっぱ……カマキリ無理ーーー!!!!!」


──そして、暗転。


草むらにひっそりと咲く、小さな白い花。

その花びらに、カマの破片が落ちていた。


おしまい。


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