11.エピローグ
チオダ8世は退位した後、まず国内外で経緯の説明と謝罪を行った。
評議会では第二皇子と侯爵令嬢および取り巻き達に対する容赦のない贖罪の人生計画を策定し、強制的に償いの人生を送らせるために隷属の魔術を施した。
世界中を旅して回る劇団を創設し、演劇『恩寵の姫』を世界中で無料上演して回る。
トーマスと名を変えたミヒャエルは団長兼謝罪特使として劇団を引率している。
劇団員は全てトキオ帝国以外の人員で構成され、上演後はトキオ帝国の特使である団長に対して観客から容赦ない罵声が浴びせられる。
飢えと戦う農村、魔獣に家族を殺された者達、長年の病が悪化して苦しむ者達の怨嗟の声を受け止め、死ぬまでひたすらお詫びを繰り返すことになる。
見下していた平民達に生卵や泥団子を投げつけられ、とっくの昔に自尊心など崩壊しているが、隷属の魔術によって死ぬこともできず屈辱と羞恥の人生が続く。
いっそのこと自分がミヒャエルであると公言して誰かに殺されるのも良いかと思ったが、各国で付けられる監視役がそれを許さない。
宰相の息子ラファエルや他の取り巻き達も別の劇団の団長として各国でお詫び行脚を行っている。
マリアーネは結界魔術の装置に組み込まれ、エルフの秘術によって半永久的に生きさせられ魔力を提供させられる刑罰を受けている。
魔力ポーションを絶えず点滴で摂取して、魔法陣の要求のままに魔力を供給する。
魔獣が結界に接触した時などは魔力の需要が跳ね上がり、魔力枯渇からの生命エネルギーを強制的に吸い出される感覚に悶絶している。
刑期はミヒャエルが死ぬまで。
貴族どころか人間としての尊厳を踏みにじる過酷な刑だが、世界中に対する誠意として評議会で決まった。
自ら望んで聖女になりかわろうとしたのだから当然と、全会一致で採決されたという。
マリアーネが収監された魔術牢獄からは常にマリアーネの呻き声が聞こえており、帝国の怪談として語り継がれている。
悲劇の聖女セレナは世界中で同情され、なぜか元皇帝チオダ8世も人気だという。
セレナはエイダリアのひ孫ヨハンと共に世界中を見て回っており、各地で自分が『悲劇の聖女』として崇められているのを見てこっそり世界中のために祈る日々を送っている。
帝国のために祈ることはない、とは言ったものの、世界中のために祈るならいいよねということで、せめて民衆が健やかであるようにと祈っている。
精霊達はまだヒト族を許すつもりはないようで、セレナの祈りを聞いてくれているんだかいないんだか、セレナにもいまいち良くわかってないという。
愚かな第二皇子の愚かな婚約破棄によって失われたのは精霊の恩寵と、国を守る聖女の存在、そして各国からの尊敬と信頼。
もはや大国として誇れるものは領土の広さくらいなものだ。
600年の帝国の歴史でかつてないほどの低迷と混乱を招いたこの騒動は、やがてゆっくりと帝国の国土を削り、三世代を経てトキオ帝国は解体されトキオ連邦となってチオダ王朝は消滅することになる。
チオダ王朝の消滅と同時期にエルフ国でも代替わりが起こり、先代女王エイダリアの取りなしによってヒト族へも精霊の恩寵が与えられることになるのだが、それはまた別の話。
お読みいただきありがとうございました。
とりあえず本作はこれで終了です。
セレナがエルフの王子様に甘やかされつつ世界を巡ったり、バカ皇子や偽聖女のざまぁ後のお気持ち表明だったり、その後の世界が少しだけ平和になったりする後日談を書くかも。
その後の世界に関しては別作品かな。
よければブクマ&高評価よろしくお願いします。
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