こんにちは戦国時代
俺は今、人生最大の混乱を経験していた。
目を覚ますと、うっすら見える天井は木組み、見回すと壁は全面襖で、床はどうやら黒塗りの板張り。
知らない天井―――――? 周囲に人がいる?
自室で寝ていたはずなのに、いつの間にか和室らしき見知らぬ部屋に移動していた・・・・見知らぬ部屋の中、寝る前と違い木綿の布のようなものにくるまれ、なにか着物のようなものを布団のようにかけられているのはわかった。
そして起き上がろうとしたがなぜか体が動かない。
声も「あー」とか「うー」しか出せない・・・?え??
焦りと混乱の中で自分の手を見る――― 手が小さい?! 赤ん坊かよ?!
これはいったいどうしたことだ・・・・夢か?
だが夢にしては五感に現実感があり過ぎて、あまりにもリアル・・・。
だんだん視界がはっきりとしてきた。
横を見ると顔に布を掛けられて寝かされている女性らしき人が見える・・・・亡くなっている?
周囲には、巨大な人間たちがいて――時代劇で見たような着物姿の女性がすすり泣く声と裃を着た侍が控え、髷を結った男が何か言葉を交わしている。
いったいどういう事なのか???
「〇▽×◎□・・・」ふいに髷を結った男に抱き上げられ、混乱しているところに急でびっくりしたが、何となく安心感があって落ち着いた。
訳がわからない・・・・。
彼らの話す言葉は最初は全く理解できなかったが、だんだん聞き分ける事が出来るようになってきた。
ところどころよくわからない言い回しや発音、古めかしい単語があるものの何とか聞き取りができた彼らの会話を聞くうちに、わかったこの赤ん坊(俺)の名は――「みんぶまる」。
赤ん坊の俺を抱いている侍らしき男はどうやら赤ん坊(俺)の父親で「としたね」というらしい。
そして横に寝かされている亡くなった女性は母親みたいだ。
周囲の話しぶりだと父親の、妾もしくは側室という存在?
うーむ・・・これはいわゆる逆行転生というものか?何時代??
見るものすべてが古めかしくも、おちついた佇まいだったので、もっと見回してみたかったのだが、まだ首もすわっていない赤ん坊にはそれは無理で、かろうじて頭の向いている方向を見る事しかできなかった。
そのうちだんだんと周囲の音も耳に入るようになって来た。
だが、目の前の大きな父の顔を見ると何とも言えない悲しげな表情をしていて、不本意ながらも我慢が出来ず泣き出してしまった。
泣き声が自分でも驚くほどの大きな声だった。
感情が赤ん坊の体に影響を受けているのだろうか?
ようやく落ち着きかけたが、息継ぎをする間に側仕えの女たちのすすり泣く声が聞こえて、それがまた悲しさを増幅させて泣き続けてしまった。
やがて、泣き疲れて寝てしまったのか、気づいたらまた寝具にくるまって寝かされていた。
目が覚めたので、ここらでこれまでの事を整理して考えた。
・・・ちょっとまて。みんぶまる?としたね?・・・・・・戦国時代かよ!!
歴史好きだった俺はすぐに気づいてしまったのだ。
みんぶまるは、民部丸。下総千葉家第25代当主、千葉利胤公の嫡男もしくは弟であり、後の千葉親胤。
「としたね」とは利胤の事だ。
民部丸こと千葉親胤は1541年に生まれ、1547年に利胤の死を受けて若干六歳で第26代当主となり家督を継ぐも、家臣であるはずの原胤清・胤貞父子の傀儡とされ、わずか十六歳で暗殺される悲劇の当主だ(と伝わっていた)。
利胤の実弟説、嫡男説と諸説あったが、このぶんだと親胤は利胤の実弟ではなく、嫡男だったようだ。
というより、戦国時代!!
しかも後半だし日本史屈指の修羅の時代じゃないか・・・。
これは良く考えて行動しないと、とんでも無いことになるな。
腹を切るとか、痛そうだし、それは嫌だ。
それよりも史実通りなら民部丸(親胤)である、この俺は16年後には死ぬ運命だ……。
それは嫌だ!俺は諦めたくない。せっかく前世?の知識をそのままに赤ん坊に生まれ変わったのだから、その近代知識と歴史の記憶を武器に運命を変えてやりたいと思う。
傀儡ではなく真の当主として生き抜き、領地を守り、広げる――。
言うは易し、行うは難し・・・だけどな。
それはそうと、前世?の記憶がそのまま残って生まれ変わるとはどういう原理なのだろうか?
しかも時間を遡ったみたいだが、それもよくわからん・・・。
定年して再雇用前の長期休暇初日だったはずなのだが・・・・向こうの俺はどうなったのだろう?死んだのかな?そういえば心臓がやや不整脈なので再検査をするように言われていたな・・・。
夢?じゃない、どうやっても現実にしか思えないこの感覚。
死んだと仮定して、死ぬと皆そうなるのかな?そうすると結構な割合で同じような人がいそうだが、どうなのだろう。
これはおいおい調べていく必要がありそうだ。
なにせ自分に足りない知識や経験を持った人間が他にも生まれ変わってきている可能性があるからな。
でも、敵対勢力の親玉がそういう人間だったら厄介だな・・・。
相手次第だが、この戦国の世ならば共生するよりかは相手を滅ぼして天下を狙う可能性の方が高そうに思う。
転生したのが農民だったら、現代人の感覚だと生き残るのは大変だろうけど。
よほど精神力が強くないと厳しいだろうな・・・・。
自分が未来人の転生者だなんて触れ回ったら、狐憑き扱いされて悪くすれば殺されるだろうし。
見つけたら積極的に保護していくべきか?
・・・・いや、まずは相手を見極めて損得勘定がきちんと出来る人間を抱えていくようにした方がわかりやすいかも知れないな。
まだどうなるかはわからないので、今は頭の片隅に想定しておこう。
この時期の周囲の状況は、俺の知る限りの歴史では、確か1541年――正史では中国地方において毛利元就が吉田郡山城の戦いで尼子氏に勝利し、のちに続く毛利家本拠地を得たという出来事があったはずだ。
また甲斐の国では武田晴信(信玄)が父、武田信虎を駿河へ追放した年だったか。
そして関東では後北条氏2代当主の北条氏綱が死去し3代目として氏康が家督を継いでいるはず。
関東管領上杉氏の弱体化に伴い後北条氏は武蔵の国へその触手を伸ばし、絶賛勢力拡大中と思われる。
対して、事あるごとに後北条とぶつかってきた関東管領・上杉憲政や古河公方・足利晴氏は、氏康を攻撃するために反北条同盟を組んでいるはずで、その対立構造は関東全域に影響を及ぼしていると思われる。
房総では下総を支配する親北条派の千葉氏に対して安房、上総を支配し下総をも狙っていた里見氏は反北条であったこともあり常に千葉氏と対立、抗争を繰り広げている最中だ。
千葉氏が一息つくためにはまず、里見氏をなんとかする必要があるだろうな。
そのため民部丸の父、利胤は父・昌胤の代からの路線を引き継ぎ、後北条氏と関係を結ぶなどして連携を深めていただろう。
これは周辺の反北条勢力に対抗するための戦略でもあったと思う。
民部丸、つまり俺はこれらの状況をうまく利用していかなければならないのだ。
この時代にはかなり弱体化しているとは言え、古河公方や両上杉氏もまだ健在だし、20年後にはあの毘沙門天(上杉謙信)が襲来してくる!
それまでに里見を食い、北条を取り込むか手懐けるかして、関東諸国をその支配下におさめ、その日に備える。
それを当面の目標とするか。
俺にそんな大それた事が出来るのか??
どのみち安定的に生き残るには、今後この領地の安定の基盤を整える必要があり、それにはまず重商主義と富国強兵政策が必要だ。
経済力の大幅UPと常備兵力の増強、近代兵器の開発・配備とやるべき事は盛りだくさん。
だがそうするには今世に生を受けたばかりの俺、民部丸は未だ当主ではなく、しかも幼すぎて前途困難であることは明白だ。
知識はある。
大学の経済学部を卒業後、総合商社に入社して38年。
様々な部署を経験し、最後は統括部長の地位を得て定年を迎えた・・はず。
前世では総合商社に勤めて輸入食品部門にはじまり、農業製品部門、建材部門、工業製品部門、マーケティング部門を渡り歩き、一通りの基礎知識は持っているという自負がある。
この時代で出来る事・・・・まずは定番とも言える米の塩水選、正条植え、近代農具の開発・普及を進めて米の収穫量の増加を目指す。
それと並行してシイタケなどの高価値商品作物の栽培と清酒づくり、石鹸作りなども行って高価値商品による資金調達も行えば・・・。
そしてこの時代における新兵器――火縄銃をはじめとした火薬兵器の導入などもどんどん進めて軍制改革も行いたい。
テンプレのような展開の想定だが、これがうまく行くとこの時代なら間違いなく一歩リード出来る筈だ。
・・・・だが、はたして俺が色々と歴史に無い動きをすると、いわゆるバタフライエフェクトが起こったりするのだろうか?わからんな。
ただ、歴史にとっての不純物がこの時代に来てしまった事で、俺が未来にいた世界の正史とは既に違う歴史を歩んでいる可能性があって元の世界の歴史は役に立たない可能性もあるのか?・・・これは慎重に答え合わせをしながら様子を見ていかないといけないな。
よし、明日から生存戦略をがんばろう!
お読み下さり有難うございます。
初投稿の素人ですので、稚拙な個所や至らぬ点が多々あるかと思います。
生暖かい目で見てくださると幸いでございます。




