79:エピローグ
リーネル国に属することをやめて3年後。
私とノアは、とある国の森の中の一軒家で、ひっそりと暮らしていた。
あれから私は無事に超神聖賢者になって、普通の光の翼を生やすことが出来るようになった。
洗礼を受けさせてくれる女神が、魔物の血が混じった私が来たことに初めはすごく困惑していた。
けれど、条件を全て満たしていたから、しぶしぶ了承していた感があった。
翼は日常生活では邪魔なので、だいたいは聖属性の魔石を外して大聖者の状態で過ごしている。
特大魔法をぶっ放す時や、特殊魔法が必要な時、私が人目を憚らずに泣いてしまった時なんかに超神聖賢者になるぐらいかな。
……役職名がダサいから、自己紹介する時に笑ってしまうのが困りものだけど。
リーネル国は聖女セシリアが王太子妃になり、あれからは安定しているようだった。
私たちもたまに、レナルド王子を訪ねたりしている。
ダライアス様は体調を崩すことも多いが、まだまだ教え子たちに魔法を教える場を提供していた。
「こんにちは」
私たちの家の扉が、外から誰かに開かれた。
「フラン! また1人で来たの?」
家の中で用事をしていた私は、玄関にいるフランを見て驚いた表情を浮かべた。
「えへへ。転移魔法で来ちゃった」
5歳になった弟のフランは、よく私たちの家に遊びに来ていた。
ノアが、ブランジェ家とこの一軒家に転移魔法のゲートを作り、繋いでくれていたからだった。
ブランジェ家のみんなは元気だった。
体が弱いお父様だけど、3年前と変わらず穏やかに過ごしていた。
そのそばには、いつもお母様が寄り添っていた。
フランがキョロキョロしだした。
「ノアはどこ?」
「2階の書斎かな? 頼まれた仕事をしていると思うから、邪魔しないでね」
私は人差し指をじぶんの唇に当てながら言った。
『静かにしてね』のジェスチャーだ。
フランは頷いてから2階に駆けて行った。
悔しいことに、弟は私ではなくノアに懐いていた。
2人は赤い瞳が同じだし、私より兄弟感を感じる時もある。
……まぁいいけどね!
「あ、キャロルから電話だ」
私は魔石を組み込んで作った、なんちゃって携帯電話を取り出した。
私とノアは、リーネル国を飛び出してからは、片時も離れずずっと一緒だ。
だから、光の伝達魔法を使う機会も無くなった。
その代わり、ヴィンセントから抜け落ちたウロコを勝手にとり、けっきょく大賢者になったキャロルと、伝達魔法でやり取りをすることが多くなった。
けれど、たくさんの内容を伝達出来ないので、まどろっこしくなっていった。
そこで、前にキャロルとも言っていたように、転移魔法を応用し、音声をやり取り出来る魔法の携帯を開発した。
そのうち映像とかも、やり取り出来るようになりたいな。
「うん。元気だし、順調だよ。ありがとう。……え? うんうん。あはははは!」
私の笑い声が家の中に響いた。
キャロルは、ヴィンセントがジュカル学園で審判しなければいけない時期だけ、ルミネージュ国に滞在していた。
その期間は、学園の臨時の講師を彼女は引き受けていた。
その他の期間は、世界中をヴィンセントと飛び回って、彼女らしく溌剌に生きていた。
私たちもここで落ち着くまでは、いろいろな国を訪ね、いろいろな人たちに出会った。
他の国も超神聖賢者になった私たちを欲しがった。
そのため、また思惑にはめられそうになったり、うっかり特大魔法で壊滅させそうになったことがあった。
どれもノアと一緒だった大切な思い出たちだ。
だから、私とノアにしては、珍しく穏やかな日々を過ごしていた。
**===========**
日が沈みかけたころ、フランがブランジェ家に帰っていった。
ノアも1階に降りてきて、2人でリビングのソファに座ってまったりする。
「フランがお仕事の邪魔してない?」
私は隣のノアを見つめた。
彼は3年前と変わらず、相変わらずかっこいい。
自慢の夫だ。
「してないよ。仕事の内容や魔法関係について、目をキラキラさせて聞いてくる。ラズにそっくりだな」
ノアが優しく笑いながら、私の肩を抱いた。
そして眉をひそめて心配そうに聞く。
「体調は?」
「大丈夫だよ。今日キャロルにも聞かれたよ」
私はフフッと笑いながら、ノアの腰に腕を回してギュウッと抱きついた。
「無理するなよ」
ノアがそう言って私のおでこにキスをした。
「うん!」
私は幸せすぎてニコニコ笑った。
私のお腹には小さな命が宿っていた。
落ち着いて育めるように、しばらくこの土地で暮らすことにした。
「でも私のこのピンクの瞳が、遺伝してしまったらどうしよう……」
私は下を向き、そっとお腹を撫でた。
泣いてしまうと魅了魔法をかけてしまう瞳。
正直子供には遺伝して欲しくない。
「……大丈夫。俺たちで守ろう。それに俺の1番好きな綺麗な瞳の色だよ」
ノアは、お腹を撫でていた私の手の上に、自分の手を重ねた。
私は顔をあげてノアを見つめた。
ノアも私を安心させるかのように、優しく見つめ返してくれている。
しばらくすると、ノアが頬を染めてフイッと顔をそむけた。
「……魅了魔法が効かなくても、ラズの瞳にずっと恋してるよ」
照れている時の昔からの仕草をしながら、ノアが告げてくれた。
私は微笑みながらノアの首の後ろに腕を回し、引き寄せて唇にキスをした。
「ありがとう。私もノアにずっと恋してるよ」
気持ちを伝え合った私たちは、若い頃のような初々しさに照れて苦笑しながらも、いつまでも目が離せないでいた。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
この物語が、あなたに届いたことを嬉しく思います。




