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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第2章 頂点を取りに
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第41話 風紀委員の仕事

「あ、おはようクレイ君」


「おはようございます」


 知り合いになると目につきやすくなるものだ。朝、学園の門に立っているサラフ先輩を発見した。今までも毎日立っていたのだろうが、見知らぬ女子生徒が立っていても気にしたりはしないからな。偶然目につくことはあっても、毎日いたのかどうかは分からない。


「本当に毎日立っているんですね」


「うん。こうしていると、みんながどんな子たちなのか分かって面白いよ。欠かさず挨拶してくれる子、挨拶したら返してくれる子、無視する子、こちらをチラッと見る子。日によって明らかにテンションが違う子もいるし、立ってるだけでも全然飽きないわ」


「今日の当番は2年生の2人ではありませんでしたか?」


「クロ君はあそこにいるよ」


 指さす方向、建物の入り口を見ると、確かにクロンス先輩が立っている。門と玄関で分かれて立っているのか。


「ウェルちゃんは……」


「遅くなりましたーー!!」


「来たみたい」


 ウェルシー先輩が慌てた様子で息を切らして走ってきた。寮からここまで全力疾走したとしても、俺でもこれほど息は上がらない。恐らく自室で準備をするところから大慌てでこなしてきたのだろう。つまり、


「また寝坊ね?」


「ごめんなさーい!」


「もう。ちゃんと起きなきゃダメよ? そろそろ始業時間ね。教室に行きましょうか。今日も遅刻者はなし。みんな優秀で偉いわ」


「遅刻者がいないことが分かるんですか?」


「うん。もうみんな中に入ったからね。今日は欠席者もいないみたい。みんなが元気で嬉しいわ」


 まさか、生徒全てを記憶しているのか? その上、誰が門を通ったのかも把握出来ている。俺も名簿でも見れば全生徒の把握くらいは出来るが、誰が門を通ったかの把握をしようと思うとなかなか大変だ。不可能ではないが、やろうとは思わない。それを当たり前のようにこなしているとは。


「もしかしてこの仕事って、先輩の記憶頼りなんですか?」


 教室に向かいながら確認してみる。どうやって遅刻者や門限破りの確認をするのかは気になっていた。特に説明されなかったから、当番当日にサラフ先輩に聞こうと思っていたことだ。


「本当は門に立つのは活動しているっていうアピールのためなの。遅刻者は後で警備員さんや先生から聞いて確認するのよ。でも今はわたしが確認してるから、わざわざ聞かなくても大丈夫」


「スゴイよねー。あたしも真似したいんだけど、ぜんぜん覚えれないよー」


「ウェルちゃんはまず寝坊しないことから始めましょうね」


「はーい」


 風紀委員は、ほとんど1人いれば良い状態のようだ。サラフ先輩が卒業したら仕事が増えそうだな。


「では、俺はこっちなので」


「うん。お勉強頑張ってね」


「じゃねー!」


 微笑んで小さく手を振るサラフ先輩と、笑顔でブンブンと大げさに手を振るウェルシー先輩に背を向けて教室へ向かう。




「遅いぞクレイ! 昨日のテストの採点をしてもらおうと思っていたのに!」


「ああ、昼にでもやるよ。とりあえず用紙をくれ」


 昨日カレンに渡したテストは算術だ。恐らく今までで最も良い点数のはず。


「言っておくが、このテストの点が良かったからと言って模擬戦には参加させないからな」


「なにぃ!?」


 当たり前だ。算術はもともとカレンの得意科目。これで良い点が取れたとしても、他の科目は駄目でした、では意味がない。


「と言っても、明日はどうせ時間がない。風紀委員の当番があるからな。今日はテストは休みにするか。流石に毎日休みなくテストでは疲れるだろう」


「で、では模擬戦はっ!?」


「仕方がない、今日だけだぞ」


「ぃやったー!!」


「カレンさーん、静かに。席についてー」





 模擬戦に快勝し、教室へ戻る。


「いやー、やはり模擬戦は良い! 普段のトレーニングでは得られない緊張感や達成感が素晴らしいな!」


「鬱憤を晴らすかのように暴れていたわね」


「わたしの出番がほとんどありませんでしたよ」


「ちょっと怖いくらいでしたね……」


 2階に上がり、廊下を歩いていると、前方から1人の女子生徒が走ってくる。


「む、廊下は走ってはいかんぞ」


 カレンが注意するが、聞こえなかったのかそのまま走り去る女子生徒。今のは王子の班の水魔法使い、ルー・ミラーロだな。

 身長155センチほど。水色の長髪で眼鏡をかけている、大人しい女子だ。一応クラスメイトだから名前は把握しているが、話したことはない。


「無視? 何か感じ悪いわね」


「聞こえなかったのかもしれません」


 風紀委員としては注意しておくべきなのかもしれないが、流石にわざわざ追いかけるほどではないだろう。もしまた走っているところを見かけるようなら今度こそしっかり注意すれば良い。

 教室で荷物を回収、そのまま寮へ帰った。





 翌日。今日は風紀委員の当番の日だ。普段より早めに起き、準備を整える。


「おはよう。じゃ、朝食に行きましょ」


 何故か部屋の前でアイリスが待っていた。特に約束はしていなかったはずだが。


「何故待っているんだ?」


「別に良いじゃない。どうせ食堂で一緒になるわよ」


 まあこの時間に食堂に入れば恐らく合流するだろうというのはその通りなんだが。何でも良いか。食堂へ行こう。


「あ、クレイ君、アイリスちゃん、おはよう」


 そして当たり前のようにサラフ先輩も食堂にいた。本日の朝食は目玉焼き、パン、サラダのセットか、大きめのパンのみかの2種類のようだ。サラフ先輩はセットを食べている。たくさん食べたい人用の別メニューもあるが、俺は大きめのパンだけで充分だ。カウンターで受け取って先輩の正面の席に座る。アイリスは先輩と同じセットを受け取って俺の隣に座った。


「一緒に食べる人がいて嬉しいよ」


「いつもは1人なんですか?」


「うん。ウェルちゃんはお寝坊さんだし、クロ君は自分の部屋で朝食を済ませちゃうみたい。ディアン君も朝は大体寝てるから、みんな一緒に食べてくれないんだ」


「それは何とも……風紀委員なのに自由ね。それに文句はないの?」


「うーん、別に文句とかはないかなー。一緒に食べてくれた方が嬉しいけどね。ディアン君はいい加減なようで、締めるところはしっかり締めてくれるから」


 仕事をサボっている時点で締めるべきところを締められていないのでは? とも思うが、まあ被害に遭っている本人が良いと言っているのだから、良いとしておくか。

 さっさと朝食を済ませ、3人で学園へ向かう。




「おはよう」


 学園の門に立ってから少し、まだ大分早い時間だが、もう最初の生徒が来た。3人の女子生徒、確か王子の班の足を引っ張っている奴らだ。

 俺たちの挨拶に少し視線を向けてくるが、挨拶を返すこともなく門を通っていく。


「あの子たち、昨日も早かったんだよね。前は普通の時間に登校してたんだけど。何かあったのかな」


 昨日もこんな時間に登校していたのか。早く来て勉強するような真面目な連中ではないと思うんだが、何をしているのか。気にすることではないか。何をやっていようと俺には関係ないことだ。


「見覚えがある気がするわね」


「王子の班の連中だからな」


「ああ、レオンの足を引っ張ってた。それで見覚えがあるのね。こんな早くに何をしているのかしら」


「気になるなら見てくればどうだ? あいつらは俺や王子と同じ3組だ。恐らく教室へ行けば見つかるだろう」


 王子の班は競争率が高かったが、同じクラスの方が有利だったのだろう、1人を除き全員が3組だ。他クラスから来た女子が、既に枠が埋まっていると知ってトボトボと帰っていくのを何度も見た。


「仕事を放りだすほど気になる訳じゃないわよ。どうでも良いわ」


 そんなくだらない雑談をしながら仕事をこなし、始業前ギリギリに教室に入った。






 その日の放課後。今日は風紀委員室に集まる日なので、アイリスと合流して5階の部屋へ。


「じゃ、何か気になることがある奴ー」


 やる気なさそうにディアン先輩が呼びかける。特に風紀委員として行動しなければならないような案件に心当たりはない。俺だけではなく、誰からも議題は出てこないようだ。


「何もねぇか? んじゃ、今日は解散ってことで」


「あ、何もないなら少し良いかしら? 何か問題が起きた訳ではないんだけど」


 サラフ先輩から待ったがかかる。もしかして今朝の件か? あんな小さいことでも報告するのか。かなり緩いと思っていたが、意外と厳しく活動しているのかもしれない。


「普段は普通の時間、むしろ少し遅いくらいに登校してくる子たちだから、2日連続で一番早く来たのがちょっと気になってね」


 そう言ってサラフ先輩が3人の顔が分かる資料を並べる。わざわざ資料の作成までしていたのか。


「ああ? そんなこともあるんじゃねぇか? 気にすることでもねぇだろっていや待て。こいつらは……」


「委員長? 何か心当たりがあるんですか?」


 問いかけたのはクロンス先輩だが、全員の視線がディアン先輩に集まる。資料に目を落としていたディアン先輩は、しばらく何か考え込んだ後、顔を上げる。



「こりゃあ、真面目に対処する必要があるかもな」



 そう宣言したディアン先輩は、重苦しい雰囲気を纏っている。これほど真剣にならざるを得ない何かがこいつらにはあるのか。


「さて、どこから話したもんかな。とりあえず、このリーナテイスっつう都市は一見めちゃくちゃ治安が良いように見える。それは実際間違っちゃいねぇ。他の都市じゃあ、モンスターの存在に絶望した人間が無差別に暴れ出したり、頭のイカれた狂人がイカれた実験で街をぶっ壊したりなんざしょっちゅう聞く話だ。だがな、じゃあこの都市が完全に平和かっつうとそうでもねぇ」


 ここを含む戦闘能力を育成する学園の設立も、そうした犯罪者やモンスターに対処することが目的だ。ディアン先輩が言ったような事件は世界中で常に起こっている。この都市は治安が良いとはいえ、全く犯罪者がいないというのは確かにありえないのかもしれない。

 以前武装集団が侵入していたように、この都市の警備も完璧とは言い難い。そこを突いて犯罪者が侵入している可能性は、否定できない。


「しかし、この都市内での犯罪などほとんど聞きませんよ?」


「そりゃあ、学園や国が生徒の耳に入らないように消してるからな。警備隊が捕まえた犯罪者がどうなってるのかは知らねぇが、まあロクな目には遭ってねぇだろう」


 以前の武装組織の事件。幹部がいつの間にか殺されていたことで情報を得られなかったと理事長は言った。元々信憑性は半々だと思っていた話ではあったが……もしかしたら、捕らえた幹部を消したのは学園自身の可能性もある、か。


「それで? この3人とその話に何の関係があるのよ」


「俺はな、いつも街を見回ってんだ。夜にな。これは門限を破って遊びまわる馬鹿がいねぇかを見て回るのが目的なんだが、この3人を見たんだよ。門限を過ぎた夜、日付が変わる2時間前くらいか。一昨日のことだ」


 3人が早く登校してきたのが昨日、今日。そして、一昨日の夜に街中で目撃されていた。何をしているのかは不明だが、怪しいな。


「さっさと寮に帰れっつったら素直に従った。だが、何をしていたのかって聞いたら、夜の散歩がしたくなった、だとよ。絶対にないとは言えねぇが、なかなか信じ難い。本当は何をしていたのか」


「なるほど。つまり委員長は、彼女らが何らかの犯罪者と接触している可能性を疑っている訳ですね」


「ああ、そういうことだ。この学園は真面目なお坊ちゃん、お嬢ちゃんが多い。そんな奴らをちょっとそそのかして悪いことさせようってな連中は意外といるんだ。急に朝早く登校するようになったのも、人が少ない学園で何かやらかしてやがる可能性がある」


「ううーん、つまりこの子たちに話を聞けば良いのかな?」


「直接聞いたって誤魔化されるだけだ。ちっとばかし、夜の見回り強化期間といきますかね」

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