第20話 班員探し
「あなたは無理に力を入れ過ぎね。速さが武器なのは分かっているでしょう? 自分の力不足を補うために無理に力を入れて速さを失っては、せっかくの長所が無駄になってしまうわ。より長所を活かすように鍛えるべきね」
「あなたは魔法の精度が甘過ぎるわ。いざという時に狙いを外す武器なんて切り札にはなり得ない。威力は充分だから、狙いの正確さに気を遣うようにしましょう」
「わたし、見た目ですり寄ってくる輩が嫌いなの。二度と話しかけないでくれる?」
「アイリス様、そろそろ班を決めませんと……」
「分かっているわ。でも、上を目指せる班員を探さないといけないの。陛下が、お父様が何を考えているのかは分からないけれど、きっとわたしたちをこの学園に入れたのには意味があるはずだから」
お兄様が何故戦場に出るはめになっているのか、王であるお父様が理解していないはずがない。だというのに、わたしもレオンもこの学園に入れるということは、きっとこの学園で鍛えることがこれからの人生において必要不可欠だと、そう考えているのだと思う。
上を目指せる仲間が必要だ。出来るだけやれれば良いなんて、そんな甘い考えでは駄目。絶対に最優秀評価を勝ち取る。それくらいの気概で臨まなければならない。だから、相応の仲間を集めなくては。
「レオン様と組んではいけないのですか?」
「レオンは鈍いから、お父様には考えがあるはずなんて思ってもいないでしょうし、集まってくる女子がどんな考えでいるのかも全く想像出来ていないはずよ。あいつの班、酷いことになっているんだけれど、知ってる?」
「とても優秀な方のはずですが、そのようなことが……」
「学力は良いわ。多分1位でしょう。実技評価も多分1位ね。でもそれと、本当に頭が良いことは別なのよ。クル、あなたももう少し頭を使えるようになりたいわね」
「申し訳ありません」
「謝ることはないわ。あなたについてはわたしが補ってあげるから大丈夫よ。でもレオンみたいな学力だけは良い馬鹿にはなっては駄目よ」
入試成績は確か、
レオン・ヴォルスグラン
学科 970/1000
実技 970/1000
計 1940/2000
順位 1位/322人
アイリス・ヴォルスグラン
学科 900/1000
実技 840/1000
計 1740/2000
順位 49位/322人
クル・サーヴ
学科 700/1000
実技 700/1000
計 1400/2000
順位 160位/322人
だったわね。
レオンの成績は正直化け物としか言い様がない。試験官に評価される形での点数では絶対に勝てない。何度か模擬戦をしたこともあるけれど、一対一での戦いでは歯が立たない。魔法だけならギリギリ互角といったところ。でも身体能力で圧倒的に上を行かれているから、近接戦闘が入ればその瞬間に負ける。
クルのこの成績は実戦ではまるで当てにならないから気にする必要はない、と言いたいけれど、行事だけでなく普段の点数も成績に反映されるのだから、もう少し高い点数を取らせたいところ。
そんなことを考えている余裕はないのだけれど。早く班員を集めないと。
「レオン並なんて贅沢は言わないから、せめてわたし並の班員が欲しいわね。それくらいでなければトップは目指せない」
「それは……難しいのでは?」
分かっている。自分の実力に自信がある上位の人間は、自分が班長になろうとするから。
「例えば、成績は上位ではなくても、上位の人間に匹敵するような何らかの武器を持っている人間とか、いないかしら。クル、心当たりはない?」
「申し訳ありません、ほとんどの時間をアイリス様のお側に控えるようにしておりますので」
「そうよね。わたしが知らない人間をあなたが知っている訳ないわよね」
クルのことを考えると班長はわたしがやるべきだし、難しい。
「最悪、最初の対抗戦は捨てる必要があるかもしれないわね。そこで活躍した人間を取りに行く。大丈夫よ、それで上級生相手に勝ち抜いて優勝して見せれば、少しの遅れくらい取り戻せるはず」
それに捨てるとは言っても参加はする。わたしとクルなら2人でもそれなりに戦えるはず。その分も加味すれば、何の問題もない。問題ないはずなんだから。
アイリス様は大丈夫と仰っていたけど、とてもそうは見えなかった。むしろ自分に言い聞かせているようにしか聞こえない。もうずいぶん長い付き合いになる。それくらいは読み取れる。
必要なのは優秀な人材、もしくは尖った特技を持った人材。それを見出すためには、実際に戦っているところを見なければならない。実技授業か、放課後の模擬戦か、それくらいだろうか。
今までアイリス様にはお世話になってきた。ずっと迷惑をかけてきた。少しでも恩返しが出来るなら、いくらでも時間をかける価値はある。
そう思って模擬戦の見学に来た初日。いきなり、見つけた。
「何という鮮やかな……」
カレン・ファレイオルは純粋に強い。6人を相手にわずかとはいえ時間を稼いで見せ、転んでいるとはいえ2人を一瞬の間に処理。もしかしたらレオン様に匹敵するのではないか、そう思えるほどに強い。
ティール・ロウリューゼは異常なほどに力が強い。あんな威力で殴られたら、そう思うと、怯んでしまう相手班の気持ちも分かる。ただ、よく見ると一度も攻撃を当てていない。あれは作戦だろうか? もしかして狙いをつけてハンマーを振るうのが苦手なのかもしれない。
フォン・リークライトの魔法は恐ろしく規模が大きい。高所から下にいる人間全てを押し流すほどの雪崩を発生させるなんて、これも異常だ。しかし、外から見ていると分かるが、その一発の魔法で魔力が切れていたようだ。あれほどの規模の魔法だ、仕方がないだろう。
クレイ・ティクライズは特に異常な能力を発揮してはいなかったようだが、恐らく補助役だろう。上手く魔法陣を使って場を整え、他の強力なメンバーを活かす役割だと思う。そういう意味ではきちんと仕事をしていた。
レオン様並の戦力、尖った特技を持った強い人材、そして4人という人数。まるでわたしたちのためにあるかのような班だ。これはアイリス様に報告しなくては。
寮に帰り、早速アイリス様の部屋を訪ねる。
「アイリス様、クルです。少々お時間よろしいでしょうか」
勢いよく扉が開き、部屋の中から伸びてきた手に引っ張り込まれる。
「クル! もう、どこに行っていたの? 外出するのは構わないけれど、一言くらいわたしにあっても良かったんじゃない?」
「も、申し訳ありません」
「良いのよ、怒っている訳ではないわ。あなたが勝手に外出するほど自主性が出てきてくれて、とても嬉しい。でもそれはそれとして、心配するから一声かけてから外出して?」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあお茶でも飲みましょうか。この前買った良い茶葉があったでしょう。待ってて、今淹れてあげる」
「お茶ならわたしが……」
「わたしが淹れたいのよ。座ってゆっくりしていて」
さっさと準備を始めてしまうアイリス様。奪い取る訳にもいかないので、言われた通りに大人しく座っていることにする。
「という訳で、彼女らが我々の班に入ってくれれば、全て解決するのではないかと思うのです」
お茶を飲んで一息ついて、先ほど見た模擬戦について報告する。それを聞いたアイリス様は、目を瞑りしばらく何か考えた後、目を開く。
「クレイ・ティクライズ。噂では落ちこぼれだという話だったけれど……」
「クレイ・ティクライズは大した活躍はしていませんでしたし、間違ってはいないのでは?」
「いえ、彼は確か班長だったはず。つまりあなたが見た模擬戦の作戦立案はきっと彼ね。聞いた話では、小さい女の子を良いようにこき使う鬼畜野郎だなんてのもあったわね」
「小さい女の子……ティール・ロウリューゼのことでしょうか」
彼女は確かに小さかった。自分より小さい同年代なんて初めて見た。良いようにこき使うとは言い方が悪いが、クレイ・ティクライズの作戦でティール・ロウリューゼが動いているなら、確かに間違ってはいないのだろう。
「やはり噂なんて当てにならないわね。実際に目で見て判断しなければ何も分からない。せっかくクルが見つけてきてくれたんだし、一度会ってみましょうか」
良かった、これでアイリス様の目的も達成出来るはずだ。少しはお役に立てただろうか。




