第19話 基本方針
初の実技授業の翌日。今日も実技はあったが、内容は武器を使った模擬戦を行い、改善点を指摘し合うというものだったので、体力的にはまだ余裕がある。
班トレーニングを毎日軽くする訳にもいかない。という訳で、放課後に教室に集まった。
「今日は訓練場を使って軽く連携の確認でもするか」
「模擬戦登録はしないのか? 模擬戦するのも良いと思わないか? 実戦経験も大切だぞ? どうだ?」
「模擬戦がしたいのは分かったから落ち着け。まだ連携練習がほとんど出来てないだろうが。まずは一通りの確認をしてからだ」
それに、本当はあまり模擬戦をしたくない。やればやるほど情報を他班に与えてしまうからな。この班はカレンを除いて意外性が武器と言っても良い部分がある。出来るだけ見せたくないのが本音だ。
ティールと2人の時はそんなことよりもティールに経験を積ませるのが重要だった。だが、カレンという正統に強力な人員が入ったとなると、経験を積むより意外性で押し切った方が有利な場面も多くなるだろう。
「訓練場行く?」
「訓練場ですかー。初日以来ですね」
初日以来か。そういえばそうだな。あの日はティールの力を証明するために鉄人形を破壊したら、ハンマーや床まで砕けて……。
ティールの力は容易く施設を破壊する。フォンの魔法もきっと建物に被害が出るだろう。カレンは恐らく自分の力の制御くらいは出来ていると思うが、やろうと思えば訓練場くらいは易々と破壊出来そうだ。
「……やっぱり外にするか」
「え? 訓練場は止めですか? 分かりました」
「フォンの魔法も理解出来てきたからな。もう少し詰めて……」
「模擬戦か!?」
「……そうだな。明日か明後日は模擬戦登録するか」
「良し! ならば今日はミッチリやろう!」
一度模擬戦で試し、後はトレーニングしながら本番に備えるか。
翌日の放課後。久々の模擬戦登録を行い、作戦が成り立つことの最終確認をする。これが出来るなら、基本方針は固まったも同然だ。後は各々のスキルアップに時間を使いつつ、残りの2枠を埋める仲間を探すことにしよう。
「行けるな?」
「もちろんだ!」
「た、多分、大丈夫です。が、頑張ります!」
「うん」
相手は6人フルだ。こちらは魔法が1発しか使えない魔法使い、正面から戦えない前衛と司令塔、脳筋猪突娘の4人。まともにやれば勝ち目はないだろう。カレンが全員を吹き飛ばしてくれるならどうにかなるが、相手だってこの学園の生徒。雑魚ではない。流石のカレンも、良くて3人を抑えられるかといったところだと思う。
「じゃあ行くか」
模擬戦用野外フィールドに足を踏み入れた。
「試合開始!」
教師の合図が森に響き渡る。それと同時に4人バラバラに行動を開始した。まず必要なのは高所を取ることだ。相手も高所に向かっていた場合、途中で鉢合わせて正面からぶつかるはめになる。
だからまずは、時間を稼ぐ。
「剛剣・竜牙炎!!」
カレンが上空に炎を撃ち出し、大爆発を起こす。音だけで木を薙ぎ倒しそうな爆音が響き渡る。これで少しでも警戒して足が遅くなれば良し。そうでなくとも、カレンに背を向けるなど恐ろしくて出来ないだろう。これで相手が高所に向かうのを防ぐ。
「せいやぁっ!!」
カレンとは別の場所でティールがハンマーを地面に叩き付ける。こちらも爆音を響かせ、更に相手が高所に向かいにくくする。現在こちらは相手がどこにいるのか分からないが、相手はカレンとティールの場所を把握しただろう。通常は一方的に居場所がばれるなど不利にしかならないが、今回はこれで良い。
「見えた」
この隙に高所に着いたフォンが双眼鏡で相手の場所を発見。通信装置で班全体に共有する。さあ、ここからだ。
「はわっ!? あわわわわっ!!」
「見つけた! 待てっ!」
ティールが相手に発見される。そして慌てて逃げ出す。ただ逃げるだけでは、罠だと疑われて迂闊に追いかけてなど来ないのだが、ティールの場合は別だ。何せ明らかにビビっている。そんな奴が慌てて逃げ出せば、相手はミスで見つかってしまったのだと思って疑わない。
「焦焔・破断剣!」
「散開っ!」
カレンと合流。その剣から放たれる炎を、しかし鮮やかに散らばって回避される。不意を突いたと思ったが、良い反応だな。
「相手は2人だ! 数で押すぞ!」
カレン、ティールが相手6人と正面からぶつかる。ように見せかけて、
「やあっ!!」
「くっ!? このっ!」
ティールは地面を叩いて揺らしたり、地面を割ったり、石つぶてを飛ばして邪魔したりするだけ。正面から戦うのはカレンの仕事だ。
「さあ、自信のある者からかかってくるが良い!!」
炎を噴き上げ自信満々なカレンの威圧感と、明らかに異常な力を発揮しているティールを警戒し、一瞬場が静かになる。そこへ
「大雪崩」
カレンもティールもいる。だというのにお構いなしで、高所から大量の雪が流れ込む。
「ば、馬鹿な!? 仲間ごとやる気か!?」
「わたしは、これくらいでやられたりはせん!!」
「はあああぁぁぁぁっ!!」
炎を噴き上げ雪を弾くカレン。その怪力によって叩き付けたハンマーで雪を吹き飛ばすティール。2人を避け、雪は相手のみを飲み込もうとする。
「このっ! 炎壁!」
相手の1人が炎の壁を作り雪崩を防ぐ。
「予想通りだ」
炎の壁を作り雪崩に耐えるために足が止まったところを、すかさず駆け寄り首を刈る。もちろん当てるだけだが。これで1人死亡判定。そして全速力で退避する。
「チッ、一旦退くぞ!」
雪崩が迫る。魔法で守る仲間もやられた。相手が集合している。となれば一度退くしかない。雪崩から逃げるように走り出す。それしかないのだから。
魔法使いをやった忌々しい敵リーダーである俺が逃げている方向に逃げれば、ついでに孤立している俺を狩ることが出来る。雪崩からも逃げ切れて一石二鳥。
「それも、予想通りだ」
慌てて逃げている相手は気づけない。その思考が俺に誘導された物だということも、目の前の地面に魔法陣が描かれていることも。
魔法陣に魔力を飛ばして起動。発動するのは、簡単な風魔法。近くの相手を転ばせる程度の効果しかない魔法だ。
それで充分。
「終わりだな」
「えっと、すいません」
既に追って来ていたカレンが瞬時に転んでいる相手を2人狩る。そしてティールがこちらも転んでいる相手の班長にハンマーを突き付ける。
その隙に相手の残り2人は立ち上がっているが、そちらはカレンが牽制。俺も合流する。
「潔く負けを認めるのなら良し。諦めず戦うというのなら相手になろう。どちらも変わらぬ勇気だ」
カレンの言葉に数秒考えた班長が、
「降参だ」
そう宣言したことで、俺たちの勝利となった。
模擬戦を終え、学園を出る。ささやかではあるが祝勝会ということで、学園近くのスイーツ店に来た。ずいぶん可愛らしい雰囲気の店だ。
「ここが噂のスイーツの店か。初めて来たな」
「ここ、噂になってるんですか? じゃあ美味しいんですねー。楽しみです!」
「ソルカフィーは学園の女子生徒に大人気。一時、食べ過ぎで太る学生が続出して注意喚起がされたほど」
そんなにか。店内を見れば、確かに女子生徒が多いな。学生ではないと思われる客も女性ばかりだ。一人では絶対に入れないな。
「これから楽しもうという時にそんな情報を出さないでくれ……。何故そんなところに連れて来たんだ」
「祝勝会に良い場所はないかと聞かれたから」
「わたしのせいか……」
「大丈夫です! 毎日いっぱい練習で動いてますから!」
「良いこと言った! そうだな! 食べた分動けばいくらでも食べられる!」
太ったという学園生徒もきっと体を動かすくらいしていたはずだが、まあ野暮は言うまい。今日は楽しもうと思って来たのだから。
席に案内され、メニューを開く。
「おお、キラキラしたメニューがいっぱいだな。どれも美味しそうだ」
「迷っちゃいますねー」
「わたしはもう決まってる」
「早いな。ここの常連なのか?」
「常連というほどじゃない。基本的に同じ物を頼むだけ」
「ふむ、まあそれも一つの楽しみ方か。クレイどうした、ずっと黙って。お前も好きな物を頼めよ」
「いや、何となく場違い感がな」
俺はこういう男性が居づらい空間みたいな物はあまり気にしない方だが、全く気にしないというほど達観は出来ない。流石に多少居づらく感じはする。
「ふっ、お前でもそんなことを気にするのだな。意外と可愛いところがあるではないか」
「クレイさん、じゃああたしがホールケーキ頼みますから、一緒に食べましょう!」
「プリンこそ至高。クレイも試してみると良い」
「ではわたしはパフェにしようか。この様々な果物が乗った豪華なやつにしよう。欲しいならクレイにも少し分けてやるぞ?」
「あー、じゃあ俺はコーヒーで。あとは小さめのプリンでも頼むか」
「そうか飲み物も頼まないとな。こっちも種類が豊富だな」
ワイワイと各々選び、注文した。
「よし揃ったな。ではリーダー、一言頼む」
「俺がやるのか」
「当たり前だろう、リーダー。ほら、ティールが今にもよだれを垂らしそうだ。急げ急げ」
そのよだれを垂らしそうなティールは、俺の一言なんて聞いてなさそうだが……まあ良いか。
「今日の模擬戦は綺麗に作戦がはまったな。これは全員が自分の役割を果たし、活躍した結果だ。これからも頑張っていこう。ということで、」
「乾杯!」
全員で軽く飲み物のグラスをぶつけて、待ってましたと言わんばかりにティールが目の前のチョコレートケーキを食べ始める。
「んー! おいひいれすぅー!」
「これはどこから食べれば良いんだ……?」
「とろける」
確かに美味いな。人気になるのも頷ける。とはいえ、やはり俺一人で来るのは難しいと言わざるを得ない。こうしてたまに祝いで班員と来るくらいになるだろうな。
小さいプリン一つではすぐになくなってしまう。後はコーヒーをちびちび飲みながら、女子3人が食べているのを眺めることしか出来ない。俺ももう少し量がある物を頼むべきだったか。甘い物は特別好きという訳でもなかったんだが、こうして祝いで食べると何となくいつもより美味しく感じるものだな。
「あ、クレイさん、これあげますね」
ティールが小皿に切り分けたケーキを差し出してくる。
「いや、いい。自分で食べな」
「大丈夫です! みんなで食べた方がおいしいですから!」
そう言って笑顔で更に差し出してくる。そう言われると断れないな。
「ほら、果物を少し分けてやろう」
ティールから受け取った小皿に、カレンが果物を載せてくる。
「じゃあわたしはクリームあげる」
更にフォンからクリームが載せられ、もう一つ注文したのと変わらない状態になってしまった。
「やけに豪華な物を追加注文してしまったな。ありがたくいただくとするか」
何となく、班の結束も強くなったような気がする。対抗戦は来月半ばだ。あと約一月、更に強化していかないとな。




