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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第1章 班結成
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第18話 実技授業

 更に一日休みを挟んで、学園が再開した。山から帰ってきた2、3年生も含めて、全生徒がドームに集められ、中央に一人の男子生徒が進み出てくる。

 180近い長身で、白色の短い髪をピシッとまとめ、鋭い瞳で周囲を見回しているその生徒は、この学園の生徒会長だ。2年生にして生徒会長を務めることからも分かる通り、その実力は圧倒的と言われる。


「皆さん、おはようございます。生徒会長のダイム・レスドガルンです。まずは謝罪をさせてください。わたしが課外授業で出ている間に、重大な事件が発生したことは聞いています。これに1年生の皆さんが巻き込まれたことも。生徒会長として、生徒を助けるために動くことが出来なかった。申し訳ありません」


 そう言って頭を下げる生徒会長。どうやら責任感が強い人らしい。現場に立ち会うことが出来なかったのも、1年生が巻き込まれたのも、会長のせいではない。それでも本気で申し訳ないと思っているのが伝わってくる。


「また、巻き込まれた1年生の活躍により、事件解決へ至ったとも聞いています。これは素晴らしいことです。生徒会長として、誇りに思います。おかげで生徒から死者も出なかったそうです。再び無事にこうして集まることが出来る、その何でもない日常に感謝しなければなりません」


 連中、学生を傷つけるつもりはないなどと言っていたが、本当だったのか。あの状況で生徒に死者がいないとは。取り調べはどうなっただろう。有益な情報を吐かせることが出来ていると良いが。


「この学園では、戦闘能力の育成が行われています。これは、まさに今回の事件のような状況に対応し、適切に動くためのもの。ただ戦うだけではなく、状況に応じてどう動くべきかを模索し、最善を掴み取ること。それを日々の授業から学ぶようにしましょう。1年生の皆さんは、本日から実技授業が始まります。更なる成長を目指し、同じディルガドールの学生として、共に頑張りましょう」


 一礼し下がっていく会長に拍手をする。入れ替わりに出てきた教師の話を聞き、解散となった。





「なあ、例の事件を解決したのがお前ってホントか?」


「いや、俺というよりはカレンじゃないか?」


 ハイラスと話しながら教室へ向かう。何で俺が関わったことを知っているんだろうな、こいつは。


「だからあれはお前がいなければ出来なかったことだと何度言えば分かるんだ」


「カレン、いたのか」


「あたしもいますよ!」


「それは知ってる」


「くっそー、仲良さそうにしちゃってさ! 俺は先に教室行ってるからな!」


 わざとらしく悔しそうな雰囲気を出しながら走っていくハイラス。あんなことを言うということは、まだ可愛い子の班に入れていないらしい。


「ハイラス・ダートンか。普段は意外と普通の雰囲気なんだな」


「普段は? 違う雰囲気だったことがあるのか?」


「わたしの班に入れてくれと言いに来たときはな。何というか……いや、止めておこう。陰口のようであまり良い気分はしない」


 ああ、なるほど。きっと女子に言い寄る気持ち悪い感じの奴だったんだろう。もしかして未だに班に入れていないのはそれが原因なのでは? 顔は悪くないのに、残念な奴だ。


「面白い人ですよね」


「まあ面白くはあるかもな」


 本当に、残念な奴だ。





「1年生諸君。俺が実技をメインで担当するフィガル・レイザーだ。まあよろしく」


 午後、平原型の野外フィールドに1年生全員が集まっている。今日は初の実技授業だ。

 前に立っているのは、灰髪を刈り上げた2メートルくらいありそうな大男。肩にハンマーを担いでいる。他の教師たちも周囲にいるが、主に進行するのはこのフィガル先生となるらしい。


「今日は初回だし、まだ班を組んでない奴もそれなりにいるだろうし、ランニングから始めるか。何事も体力が肝心だからな」


 ランニングか。体力にはあまり自信がないが、一対一で模擬戦しろと言われるよりはまだマシ……



「じゃあこのフィールドの外周を3周! 20分以内な」



 ……ではなかった。待ってくれ。このフィールドの外周って3キロと少しあったはず。つまり3周で約10キロだ。これを20分で走り切る場合、平均時速に換算すると時速30キロだ。


「20分以内に走り切れなかった者は、体力増強のために追加で2周走るか。終わった者から次のメニューの筋トレに入る。今日はとことん基礎トレーニングだ」


 地獄の実技授業が始まった。



「先に行くぞ、クレイ!」


「あたしも先に行きますね。クレイさん、頑張ってください!」


 カレンはともかく、ティールもか。そういえば嬉々としてカレンと一緒に素振りしてたな。体力はあるらしい。あのペースを最後まで維持出来るなら、あの2人は20分以内に完走出来るだろう。

 俺は全力でやっても20分で10キロは無理だ。16、7キロ走るつもりでペース配分を考えなければ。


 体力がある奴とない奴でどんどん差が開いていく。俺はもちろん後ろの方なんだが、ちらほら俺より後ろの奴がいる。その中でも最も後ろで、まだ1周も走ってないのにヘロヘロになっている奴には非常に見覚えがある。


「はぁ……はぁ……マラソンなんて、いらない……」


 今にも死にそうな様子で走っているのは、フォン・リークライト。確かに体力があるようには見えなかったが、まさか2キロも走れないほどとは。

 そういえばフォンの実技は570点だったな。1発だけとはいえあれほどの魔法が使えるのにやけに低いと思っていたが、物理方面が壊滅的だったらしい。

 逆にティールは魔力がないとまで言われたのに入試に合格している訳だから、力だけでなく持久力や瞬発力にも優れているんだろうな。


「よし、1位レオン・ヴォルスグラン、2位カレン・ファレイオルだ。タイムは14分56秒でほぼ同時だな。良いタイムだ」


 俺はまだ2周目の半分を過ぎたところだというのに、もうゴールしている奴がいるな。2人だけ異常に速かったからな。流石にまだ3位はゴールしていないようだ。

 ここからではどっちが勝ったのかは見えないが、王子はカレンと並ぶほど速いのか。能力がかなり高いらしいのは知っていたが、トップレベルだったんだな。


「あああぁぁぁ! 負けたああぁぁぁ!!」


 ……カレンが負けたようだ。ここまで聞こえてくるぞ。どれだけ大声で悔しがっているんだ。




「はぁ…………はぁ………もう、無理……」


 3周目に入ってすぐ、フォンを抜いた。俺に周回遅れにされるって、遅いというレベルの話ではないが、大丈夫か?


「クレイ……助けて……」


「20分だ! まだ3周終わってない奴は2周追加! もっと体力つけろ!」


 そして3周目に入ってほどなく20分が知らされる。フォンの目が完全に死んでいる。


「が、頑張れ」


 それしか言えない。流石に助けてやれないからな……。




「時間か。今日はここまでだな。当然内容は違うが、これから毎日午後は実技になるからな。基礎は大事だぞ。授業ではなくても、ちゃんと鍛えろよ!」


 流石ディルガドールだ。基礎練も内容が濃いな。疲れた。しばらく動きたくない。


「おーい、フォン。無事か?」


「………………」


 返事がない。まるで死体のようだ。


「どうしたお前たち。これくらいでへばっているようでは戦いにはついて行けんぞ」


「いや、今お前に構ってやれる元気はない。余計に疲れる。あっち行ってろ体力バカ」


「なにおうっ!?」


 どうしてこいつはこんなに元気なんだ。もしかして冗談ではなく、種族が違うのではなかろうか。


「フォンさん、水持ってきましたよ」


「…………ありがと」


 倒れたまま水を吸い込んでいくフォン。そんな体勢で飲んでいると変なところに入って


「ごふっ!? こほっこほっ」


 やっぱり、むせた。


「だ、大丈夫ですか!?」


「こほっ……大丈夫、じゃないかも……」


「フォンさあぁぁぁん!!」


 完全に倒れ伏し、ピクリとも動かなくなったフォン。俺たちよりも1年多く鍛えているはずなんだがな。これでよく1年間この学園で過ごせたものだ。俺も疲れているし、今日は放課後の班トレーニングは軽めにした方が良いかもな。

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