気の済むまで泣きなさい
エリザは立ち上がり
「それからマクシミリアン。ローレンス。もう下がって良いぞ。そろそろエリザベートが目覚めるからの。そなたらがおればエリザベートは不審がろう?
良き出会いであった。くれぐれも誰にも内緒たぞ?」
そしてマクシミリアンとローレンス両公爵は《白蓮の間》を退去した
エリザは元いた自分の椅子に座り
「あー時間がない!
ほれ。フォラリス。そこの豪華な椅子が空いたぞ。
我が温めておいたからの。早よ座りや!
それから余計な椅子を片付けい!
ほれ。我も椅子ごと抱えよ。
そうここじゃ。ここが良い
目覚める前の状態にするのじゃ!
我は寝たふりをする」
騎士ふたりに椅子ごと運ばれ、国王の正面に置かれた。
そして机に突っ伏した。
その間に侍女のお姉さん達は葡萄の汁やら菓子やら片付けて、紅茶セットを出したりした。
護衛の騎士は改めてスクッと背筋を伸ばして格好つける。
国王は椅子に座り直し威厳を保つ。
王妃は何事も無かったように、椅子に腰掛け注がれたばかりの紅茶をすする。
そして
んーーん?
と言いながらエリザベートが目を覚ます。
むくっと起き上がり不思議そうにぼんやりと国王を見ている
「オク……いやエリザベートよ。良く眠れたか?」
「わたくし。なぜ寝ていたのでしょう?」
国王の問いに、まだぼんやりと答えた
「ソチを依り代にテイラム家の祖エリザ姫様が降臨なされたのだ」
「エリザ様が!?ではわたくし……」
国王は頷き
「そうだ。ソチの言った通りだった。ソチは正気を失ってなぞいなかった。だから。くれぐれも王太子の婚約者をやめるなぞ言うでないぞ。
余はエリザ姫様よりソチを王妃にするよう言付かった。
余も王妃ももとよりそのつもりじゃ。
あのようなことでソチを婚約者から降ろす訳がなかろうが。余も王妃もソチよりもずっとエリザベートのことを買っておる。いきなり泣き出されても余らにはどうすることもできぬぞ。
それからひとりで思い詰めずに、少しは相談するのだぞ。いずれ余らはソチの父となり母と成るのだ。
もう少し頼るが良い」
「そうですよ。エリザベート。
あなたはまだ十歳の子供です。分からないものはわからないで良いのです。
わたくし達はいくらあなたが大人びていたとしても、やはり十歳の女の子として扱うしかないでしょう?
わたくしはあなたの母と成るのを楽しみにしているのですよ。
わたくし達の前では余り畏まらずに楽にして下さいな。特にここは【白蓮の間】。
プライベートな空間です。
家族で仲良く過ごす為のお部屋ですよ。
ここは詰問所ではないのです。
良いですねあなた!」
王妃メアリアはギリリと国王を睨んだ
「余か!余が悪いのか?」
すっとんきょうな声を上げる。
またしてもギリリと睨み
「当たり前です!それともわたくしが悪いとでも?」
「いや。余で良い」
国王は諦めた。
その様子にホッとしたエリザベートは脱力し、またテーブルに突っ伏して泣き出した。
それは先程の泣き叫ぶようなものではなくて、ただの女の子がしくしくしていた。
王妃はエリザベートの側に行き、背中を優しく撫でる
「気の済むまで泣きなさい……エリザベート」
そして[もう大丈夫です]という声とともに、またスクッと背筋を伸ばした。
国王は
「落ち着いたようだな。
いくつか聞きたいことがある。心配するな。
先程の事はもう良いが……というよりも歴史の事は余らはあまり知らんのだ。
エリザ神がソチに聞けというのだ。
知ってる限りで良い。教えてくれぬか?」
国王の要請にエリザベートは教えた。
けれど舞踏会で見たビジョンしか分からないので、その旨を添えて教えた
「両軍合わせて30万の軍勢の中で愛を確かめあったのか?いやはや流石はエリザ神スケールのデカイ事よ!
成る程の。ということはやはりエアリスはアルフレイム公の生まれ変わりという訳だな?」
「アルフレイム公とは……もしや?」
「ソチ。名前は知らなんだか?
エリザ神の愛しの君らしいの。なぜかフォラリス王国史にはテイラム公としか載っとらんのだ。
エリザ神様が教えてくれた」
「アルフレイム……さま……」
エリザベートは両手を組み、胸をぎゅっと押さえた。
感情が高ぶり、知らず知らずうちに涙がこぼれ頬をつたっていく。
そして小さく呟いた
「……コウサカジン」
第二章が終わりました。
読者の皆様。
ここまでお付き合いくださりホント有り難うございます!
感謝感謝でございます。
第2章後半は説明回のようになって、ちょっと難しかった。
でも色々伏線があって、後から
『あー成る程』
と思えることが沢山あったよ。
☆
第三章はいよいよ
オクダタエコとコウサカジンの運命の歯車が
グルグルと回り初めますよ!
そして散々勿体ぶった『あの日の言葉』が……!