07 パテギア・トルクメニアン 王女の憂鬱②
そこからの私は心此処にあらず。どこかの教会の司祭との謁見。お昼のお祈りコーナー。お昼休みにフィーネ達と行う花のお手入れでは、明日ハルキ様へ届けるお花が何がいいかを考えておりましたわ。
そして、午後は騎士団の訓練風景の見学。どうやら王女の私が時々見に来る事で、騎士団の方々の士気があがるとか。うーん。騎士団って、そんなものなのでしょうか?
「おーい、お前等ーー、パテギア王女様が直々に駆けつけて下さったぞ! もっと気合を入れろーー!」
少し伸びた後ろ髪を束ねた黒髪の騎士団長アルクが団員達へ声をかけています。お母様はどうしてアルクがいいんでしょう? 確かに彼はトルクメニアンの貴族出身だし、若くして騎士団長まで駆け上がった実力の持ち主だけど。
「王女様。ようこそお越し下さいました。王子は訓練を終え、先程入れ違いで戻って行きましたよ」
「ええ、チャーリーお兄様は訓練熱心ですものね。私なら絶対ついていけませんわ」
騎士団長アルクの訓練は、過酷な事で有名です。それもその筈、何せ彼の師匠は元騎士団長のスミスなんだもの。スミスの訓練に比べたら、彼の訓練なんて、月とスッポン。パンケーキかパン屑ね。
「た、たいちょ~~。もう無理っす。限界っすーー!」
「こら、バックス! これくらいで根をあげていては、国家に危機が訪れた際、対処出来んぞ!」
野外訓練場の地面へ大の字となる犬耳族のバックス。他、何名かの団員達が根をあげ、座り込んでいます。
「王女様、お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ない」
「いえ、いいのですよ。アルクはスミスの訓練を受けて来てますし、皆がついていけないのは仕方がない事です。それに、そろそろ休憩しませんか? フィーネ達とサンドイッチを作ったんです。皆さん、よかったら食べて下さい」
私の合図にフィーネ達、王宮侍女と執事達がお水とサンドイッチを持って来る。騎士団のメンバーから歓声があがり、アルクも渋々了承するのでした。
「王女様さすがっす! おいら王女様へ一生ついて行くっす!」
「ひゅーー、パテギア王女様、女神様だぜ!」
「嬉しいです、王女様、結婚してください!」
各々サンドイッチに舌鼓を打ち、束の間の休息を喜んでいます。モーニングバードの卵サンドに、女王印のエリスポークのカツサンドにみんな元気を出してくれた。
「ねぇ、アルク。アルクはどうしていつも真剣なの?」
「王女様どうしたのですか、改まって」
卵サンドをひと口食べつつ、私がふと疑問を口にします。
「いえ、私だったらこんな毎日訓練ばかりじゃ飽きちゃうなって」
「王女様らしいですね。私が騎士団へ入った理由、お話した事なかったですかね?」
彼は私が幼い頃から王宮へよく訪れていましたが、そう言えば騎士団へ入った理由は聞いた事がなかった気がします。彼は私の反応を確認した上、続けます。
「私が幼い頃、この国が危機に瀕した事があったのです。まだ王女様は産まれる前ですね。その時、私は母を失ったのです」
そうか、彼の母親は私が産まれる前に亡くなったと聞いた事がありました。
「貴族の中でも私の家は大貴族ではない。私は当時何も出来ない自分を悔やんだ。守る力を身に付けたい、そう思うようになった頃、師匠に出逢ったんですよ」
彼が言う師匠とはスミスの事です。スミスに戦う術だけでなく、心の在り方、強さとは何か、様々なものを学んだそう。
「アルクにもアルクの信念があって、今団長をやっているのね」
「私はまだまだ師匠にも及びません。でも、この力で国を、王女様を守れるのなら……そう思い、こうやって僭越ながら団長という役目を務めているのです」
アルクへ対する考えが少し変わった気がします。騎士団の中にはただ戦いが好きみたいな人も居るんじゃないかと思っていました。
「ごめんなさい、アルク。あなたを誤解していたわ」
「え? 王女様?」
突然謝る私へ驚く騎士団長。
「だって私、あなたがただの戦闘狂と思っていたもの。戦いの際のアルクって、目がギラギラしているから」
「ふふ……あはは……まさか王女様からそんな風に思われていたとは……心外だなぁーー王女様」
アルクから笑みが零れます。そんな私とアルクの様子を見て、団員達が近寄って来ます。
「なぁーーに王女様とイイ感じになってんすか、団長」
「そこの席変わって下さいよぉ~~」
「王女様……結婚してください」
「そんなんじゃねーーよ! お前等、食べ終わったら訓練再開するぞ!」
団員達に揶揄われ、アルクが団員達を嗾けます。
「ねぇアルク、たまには休んだらどうなの?」
「そうはいかないさ。いつ国家に危機が訪れるか分からないからな」
至ってアルクは真面目らしい。勿体ないなぁーー。ハルキ様みたいに女の子とのデートプランを夜中寝ずに一生懸命考えたり、食事を愉しむ余裕があった方が、女の子にはモテると思うんだけどなぁ。
「フォーーフォッフォッフォ! そうじゃのぅ、たまには心に余裕を持った方がいいものじゃぞ、アルク」
「し、師匠!」
いつの間にか眼前に登場した最強執事に驚くアルク。団員達も元騎士団長の登場に驚きを隠せません。
「先日国へ迫っていた悪意も退けた。アルク、お主はサウスドリームのカジノにでも行って休んだらどうじゃ?」
「カ、カジノですか!?」
スミスのカジノ発言に目を丸くするアルクと、目を輝かせる私。
「ど、どうしてカ、カ、カジノなのですか、師匠」
「サウスドリームはこの国の観光業を支える地域のひとつであるぞ、アルク。騎士団長ともあろう者が、国の産業のひとつがどんなものか知らなくてどうする?」
「し、しかし……」
「女王様も、たまには余暇を取ってもいいのですよ、と言っておる。アルク、たまには羽根を伸ばすといい」
最強執事であり、元騎士団長スミスからのまさかの提案に腕を組んで唸るアルク。
「アルク、行って来たら? ほら、団員達も賛成みたいよ?」
私が促すと、団員達も笑顔で頷いている。
「国の警備はこいつらに任せるっす。おいらは団長と一心同体っすから一緒に行くっすよ!」
「ずるいぞ、バックス」
「王女様……女神です……」
『お前等は訓練しないで済むから嬉しいだけだろうが……』そう呟きつつも、アルクは決心がついたようで。
「まぁ、女王様直々の御言葉なら受け容れるしかないな。じゃあ、今度数日余暇を貰う事にするよ」
「明日、エルフの国より悪意を退けた者から報告が入る。それを持ってアルクには数日の余暇を与える。女王様より伝言じゃ!」
話は決まったようです。アルクと数名の団員がサウスドリームへ。交代で警備の者を残した上で、それぞれ休みが貰える事になったみたい。一応、サウスドリームへの訪問は、国の観光業の視察も兼ねてという名目にはなるらしい。それにしても……カジノって……素敵な響き♡
「スミス、視察も兼ねて、私もサウスドリ――」
「なりませぬ」
途端に、口を尖らせる私。
「待ってスミス、まだ最後まで言ってないわよ?」
「カジノはならず者や冒険者もたくさん利用しておる。それに一国の第一王女様がそんな場所に行ったなら街がパニックになりますぞ?」
そうやっていつも私は宝石箱入り王女様扱い。いいもん。いざと言う時はパフェ自慢の変装で抜け出すから。
この後、侍女のフィーネとスミスへ言い包められ、私の一緒にサウスドリームへ行こう大作戦は計画段階で未遂に終わってしまう。でも、諦めたらそこで試合終了ですものね。私はそう簡単に終わりませんよ?




