05 メイ・ペリドッド 定期巡回④★
「あなたのその言葉を私が易々と信じると思う? クレイこそ、その私へ向けた指先を下ろしてくれるかしら?」
銃を構えるポーズを崩さす私へ指先を向けるクレイ。すると、クレイと私の間にトルマリンが割って入り、彼へ向け雷を纏わせた腕を向ける。
「クレイ、姫へ危害を加えたなら、我はお前の首を刈るぞ。メイ。お前も今は裁きの時ではないと分かっている筈だ」
「トルマリン。悪と疑わしきを放置する程、私は甘くはないわよ?」
アメジストは上級悪魔。ただし、それだけならば私は彼女を裁かない。但し、無実の国民を貶めた悪事にもし彼女が加担しているのならば、それは裁くに値する。ライトグリーンの双眸を光らせ、水瓶座の守護者を睨みつける。彼女の頭で蠢く水銀蛇が私を威嚇しようと牙を向ける。
「まぁ、疑われても仕方ないわよね。裁きたければ裁けばいいわ。ただし、あなたが幾ら解析しようとも、最近のオパールやルルーシュと私の繋がりは出て来なくってよ、メイちゃん」
「メイ、ルーインフォールトの五魔星はかつて極創星世界の存亡をかけた星戦の際、戦いに敗れ、解散した。アメジストを含め、オパールに至っても、此処最近まで目立った動きはなかったのが事実だ」
トルマリンがアメジストを庇う理由が分からなかったが、今はその時ではないと言いたいのだろう。
「それに、今此処で争ってしまっては、こちらへ向かって来ている子供達が犠牲になってしまうわ……」
水瓶座の守護者――アメジストが頬に手を当て哀しそうな表情をしたかと思うと、上級悪魔からシスターの姿へと変化し、白銀蛇の頭は紫髪に、褐色肌はミルク色の肌へと変化していく。修道女のヴェールに髪が納まったところで、談話室の扉がノックされた。
「失礼します。シスタージス、メイ様ーー。こちらでしょうか? 先程のジャン君の手続きが終わりましたよ~~?」
「メイ姉ちゃん。俺、今度妹と弟たち連れて来る事にしたよ!」
先程私が教会へと連れて来たジャンと、シスターセピアが談話室へと入室する。私は漆黒の鎌を消失させ、トルマリンは黒猫姿となって私の肩へちょこんと乗っている。子供達を盾にするアメジストは狡いけれど、この状況、暫くは静観するしかなさそうね。
「あら、よかったわねジャン。すっかりシスター達が気に入ったみたいね」
「べ、べつにそんなんじゃねーーしっ!」
頬を真っ赤にして抵抗するジャンがちょっぴり可愛く見える。すると露出度の高いバニー修道女――ナナコが部屋へと飛び込んで来る。
「ジャンくぅ~~ん? よかったわねぇ~~。司祭が教会への紹介状を書いてくれるって! これでうまくいけば教会での生活も出来るかもよ~~」
「ちょっ……な……あ……むね……ああああ……」
口を金魚のようにパクパクさせているジャン。それもその筈、背後から覆いかぶさる形で、修道服から強調されたナナコの豊満な果実がジャンの頭上に二つ乗っかっているのだ。
「あら~~、その子純朴ね~~♡」
「ちょっとナナコさん! お胸、お胸乗っかっていますから!」
アメジストが楽しそうに笑い、シスターセピアがナナコへ向かって叫ぶ。確信犯のナナコは『あ、イッケな~~い♡ ごめんねぇ~~ジャン君~~』と言いつつ、ぴょんっとジャンから離れる。
「で、紹介状という事は、このエロガキを受け容れて貰えるという事なのかしら?」
「エロガキは余計だ!」
ジャンの抵抗は無視して話を進めようとする私。そう簡単に受け容れて貰えるとも思っていなかったのだけれど。
「ええ、先日のアルシューン公国で起きていた異変はメイ様もご存じでしょうか? あの事件を教訓に、此処ラピス教会にも、ちょうどスラム街の治安回復へ向けた協力要請が国から来ていたところだったのです」
そう報告するはシスターセピア。ちょうどサンストーンからスピカ警備隊が忙しく動いていると報告を受けていたけれど、ラピス教会も然りという訳ね。彼女は続ける。
「当然身寄りのない子供達全員を受け容れる事は出来ません。当面は各支部からのサポート、労働場所の提供等が主となりますが、条件を満たした子供は随時受け容れる事になるかと思います」
「で、さっきシスターのみんなでお話してぇ、早速~~、この子が住んでいる地区で露店を開く事になったわ~~♡」
どうやら国公認でスラムのど真ん中で露店を開き、一部の子供達には働いてもらって労働力を提供、食事にありつけない子供や大人へ安く食事や普段食べる事の出来ないスイーツを提供したいという話だそう。まずは月に一度。うまくいけばもっと習慣的に行いたいという計画らしい。それは面白そうね。
「じゃあ僕はホットドックの店でもプロデュースするからさ、メイちゃんスイーツの店でもプロデュースしなよ」
「ちょっとクレイ! 何を言って!?」
クレイがとんでもない事を言い出すものだから、思わず声をあげる私。
「クレイ様それナイスアイデア~~! メイ様のウエイトレス姿ぁ~♡みたくてウズウズしちゃうわ~~♡」
「ちょっとナナコクネクネしすぎ!」
発情修道兎がお尻をクネクネして私へ近づいて来る。どうして露店からそんな話になっちゃう訳?
「でも、スラムの子達が食べるスイーツなんだし、此処はスイーツに詳しい人が監修した方が、子供達も喜ぶと思うわよねぇ~~みんな」
アメジストのひと声を皮切りに、羨望の眼差しで私を見つめる一同。
「ですね!」
「メイ様~~♡」
「メイちゃん」
「メイ姉ちゃん」
キラキラした目で皆が見つめる中、溜息をつく私。なぜかジャンまで眼差しに加わっている始末。
「……今回、一度だけですからね!」
この瞬間、皆から歓声があがったのは言うまでもない。
一週間後、〝ラピス教会公認バザー〟と銘打って、スラム街の通りにその日限定の露店がオープンした。
〝シスターのパン屋さん〟に〝ナナコのミルクショップ〟。〝アメジストのシチュー〟と〝クレイホットドック〟。どれも銅貨一枚の格安販売。しかも、お店を手伝ってくれた子供達には一時間で銅貨三枚と手伝ったお店の食べ物が貰えるというおまけつき。
今回は初出店という事で、スピカ警備隊の警備もついており、防犯面もバッチリだ。
え? 私? 私の事はどうでもいいわよね? え、そうもいかないですって?
私はというと、サンストーンに手伝ってもらい、〝サン&メイのクレープ屋〟をオープンしたわ。
「ど、どうして私がこんな格好しなくちゃいけない訳」
「いいじゃないですか、奉仕活動でしょ、メイ」
スラム街にクレープは似つかわしくないのではとも思ったが、そこはスイーツ、されどスイーツね。子供達には大人気。星苺と黒砂糖を煮詰めて果肉を残した状態で創った特製のベリーソースと甘さ控えめの生クリームが見事にマッチして我ながら素敵な作品に仕上がったと思うわ。
「ほっぺた落ちる~~おいし~~」
「こんなの初めて食べたの~~お姉ちゃん、ありがと~~」
スイーツを食べ、幸せそうな表情の子供達。この子は確か、ジャンの妹と弟ね。
満面の笑みを浮かべる子供達。例えそれが束の間の笑顔であっても。
少しでもこの国の子供達に笑顔が増えますように。そう願うばかりね。




