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Ⅱ 魔女の日常 02 メイ・ペリドッド 定期巡回①

「たまにはこういう日があってもいいわよね?」

「ふふふ……メイの場合は〝たまに〟ではなくて〝いつも〟な気もしますが」


 ガトーショコラを口に含み、舌鼓を打つ私からの問い掛けに、向かいに座る妖狐の女性が答える。狐色の耳をピクピク、尻尾をフリフリさせた彼女はいつも可愛らしい。あんな尻尾をフリフリさせている様子を見ていると、モフモフ抱き締めたくなっちゃうわね。


「あなたとこうしてデート出来る日常なら、私は大歓迎よ」

「それは嬉しいですね。メイみたいな美女を独占出来るんですもの」


 いつの間にか、私とサンストーンはお互い名前で呼び合う位に仲良くなっている。これも甘味の為せる業ね。


「んんっ……」


 刹那、私の身体へ甘味という名の電流が流れていき、幸せ成分が脳内を満たしていく。今日はサンストーンが発掘したアルシューン公国セントラリア地区、カカオ領との境近くにある隠れた名店が舞台だ。


 先日金のプディングを堪能したカカオ領のお店、あそこの濃厚ガトーショコラも絶品であったが、このガトーショコラ、フルーティーな香りが仄かに加えられており、カカオの濃厚さと相まってまた違った味わいを私へ魅せてくれる。


「やっぱり男と行くより、サンストーンみたいに可愛い女性と行く方が楽しいわね」

「あら、でもメイ。ハルキさんとうまくいってるんじゃないんですか?」


「ブフッ……ケホッ、コホッ」

「ちょ、ちょっとメイ、大丈夫ですか!?」


 思わず珈琲を噴き出し、咳き込む私。うまくいってるってどこからの情報よ? そもそもうまくいってるって何よ? 私とハルキはただの加護者繋がりであって、それ以上でもそれ以下でもないわ。


「気を取り直して私、ガトーショコラへ集中する事にするわ。サンストーンの情報がどこからの情報なのかは聞かない事にするわね」

「私を解析して脳内情報を読み取らないで下さいよ? メイ」


 ガトーショコラを満喫する私へ苦笑するサンストーン。まぁ、ハルキも自身の国へ帰った訳だし、しばらく会う事はないでしょうしね、きっと。


「で、そちらの首尾はどう?」

「ええ、お陰様でスピカ警備隊は大忙しですよ。何せ厄災レベル(・・・・・)邪神(幼女)を自由に国内で活動させていた訳ですからね。警備隊は関所や各拠点毎の警備強化、私の感知能力を下に侍女部隊へは上級悪魔の転移による侵入の監視をさせていますね」


 気を取り直して私はサンストーンの近況へと話題を振る。そう、私とサンストーンはただ此処に女子会をするために集まっている訳ではない。今回の目的は近況報告と情報共有であった。あくまで新しいスイーツの店の調査報告がメインではないの。


 アルシューン公国で起きた悪意の元凶。邪神オパール。彼女はかつてはどうやら幼女姿ではなかったらしい。姿形を変え、邪神は甘い言葉で人間の欲望へと忍び寄り、その無邪気を狂気に世界を破滅へと追い込んでしまう。しかし、何より厄介なのは、彼女がそれを遊戯としか思っていない事だ。


「ありがとうサンストーン。私は私の信念の下、これからも動く事にするわ」

「恐らくオパールと互角に戦える存在はトルマリンくらいのものでしょう。今は蠍座の加護であるルルーシュを退け、彼女が引いてくれた事をよしとするしかありませんね」


 エレメンティーナでの直接対決、その一部始終を聞いたサンストーンが私へそう告げる。彼女の飲んでいるラピスベリーソーダの炭酸がシュワっと弾けて消えた。


「それから、サンストーン。もうひとつ聞いていいかしら?」

「はい、なんでしょう? 最近の地球の(・・・)トレンドですか」


 守護者の力であちらの世界に渡る事が出来るサンストーンは、極創星世界(ラピス・ワールド)の文明発達へ貢献していると言える。特にアルシューン公国のスイーツ文化は地球の文明レベル(・・・・・)と寸分違わない程だ。


「そうそう、生前の世界に未練はないけれど……スイーツの流行くらいは知っておくべき……違うわ」

「メイのノリ突っ込みが聞ける位、仲良くなれて私は幸せです」


 話が完全に逸れてしまったわね。サンストーンがそんな私の様子にくすりと笑う。思わず私も釣られて笑みが零れる。


「スイーツの流行も気になるけれど、聞きたいところはそこではないわ。サンストーン……アメジスト(・・・・・)について知っている事を教えてくれる?」

「成程……マイ・アークライト・ヴェガの記憶から辿ったんですね?」


 私が詳しく話さずとも、サンストーンは私の質問の意図を汲んでくれた。アルシューン公国、迷宮での異変。あの場の解析で読み取れた記憶はごく一部であったが、そこで分かった事実。あの喫茶ショコラのウエイトレスであったマイは、ラピス教会で育てられ、クレイと共に諜報活動をしていたらしいという事。


 しかし、上級悪魔が潜んでいたあの喫茶ショコラへ初めから(・・・・)スパイを送り込んでいたとなると、目的は私と同じ。ルルーシュとオパールが送り込んでいた刺客、上級悪魔ジュークをラピス教会がマークしていたという事になる。


彼女(アメジスト)の目的が分からないわ。ラピス教会は表では傷ついた冒険者や住民達を癒し、冒険者ギルドと並んで巨大な組織よ。上級悪魔であるアメジストが何故あの場へ潜り込む必要があるのか……」

「そうですね。紛れ込んでいる理由は……彼女が創星の守護者であるから……かもしれません。彼女はうまく立ち回りたいだけなんだと思います。昔から何を考えているのか分からないような方でしたから……」


 私は、ラピスベリーソーダを飲み終えた彼女の琥珀色をした瞳をまっすぐ見つめる。驚いたのか彼女の狐色の耳がピクっと跳ねる。しばらく真剣な表情で見つめた後、私は表情筋を緩める。


「大丈夫よ、トルマリンですら知ってる事全部教えてくれないんだもの。ま、あのエロ猫は、教える必要がないと思っているんでしょうけど」

「メイ、ごめんなさい。守護者には守護者の事情があるの。でも彼女について私が知っている事は事実あまりないんです。話せる事があったらお話しますね」


 ペコリと頭を下げるサンストーン。


「こちらこそ無理強いをしてごめんなさい。謝る必要はないの。大丈夫よ。今度黒猫引き連れて、直接会いに行くとするわ」

「その行動力、さすがですね、メイさん。お詫びと言ってはなんですが、今度オープンするタピオカドリンク(・・・・・・・・)のお店で、関係者向けの試飲会があるんです。そこへメイさんもご招待しますね」


 ガタンッ ――――


 勢いよく立ち上がった事で椅子が倒れ、周囲の視線を浴びる事となる私。この後、サンストーンより、私があの世界を去った後やって来た〝タピオカドリンクブーム〟について熱く解説を受ける事となるのであった。


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