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二人でいたから  作者: 早瀬 薫
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第九章

 奈々子の不可思議な行動を追跡してからというものの、僕は毎日そのことで頭が一杯になった。来週も奈々子と僕の休みが合わない日がカレンダーに刻まれていた。気が付くと僕は無意識に、そのカレンダーを毎日睨み付けていた。

 それから数日して、奈々子の高校時代の友人である遠藤由美が久しぶりに工房を訪れた。奈々子が初めて工房に来たとき、友人のプレゼントを探していると言っていたが、その友人が遠藤由美だった。あのとき、奈々子は、由美がプレゼントをすごく気に入ってくれたから、彼女は近いうちにここに来るかもしれないと言っていたが、あの後、ほどなくして、由美は本当にこの工房に来てくれたのだった。由美は三年前に二歳年下の男性と結婚し、僕たちは家族ぐるみで付き合うような仲になっていた。彼女はブライダルプランナーの仕事をしていて、僕のデザインしたネックレスを花嫁に貸出ししたり、結婚指輪を販売するようなこともしてくれていた。由美が初めてこの工房を訪れてから、十一年の歳月が流れ、公私ともに、彼女とは密接な関係になっていた。でも、どちらかというと素朴な奈々子に対して、由美は身に着けるもの何もかもが洗練されていて、どうして似ても似つかない二人が仲がいいのか、最初のうち僕は理解できずに戸惑った。しかし、由美は外見と違って、案外中身は素朴な人なのだと思う。実際、由美の夫である信之は、どちらかというと地味な出で立ちの人だった。信之は東邦新聞社の記者をしていて、由美の勤め先を取材に行って知り合ったらしい。しかし、二人を見ていると、本当に夫婦なのかと疑うくらいに、二人は全く違った雰囲気を醸し出していた。由美は料理好きだったし、だからお菓子作りの好きな奈々子と由美が二人そろうと、食卓はいつにもまして、ものすごく豪華になった。僕は読書が好きだったし、だから直之とも気が合った。しかも直之はお酒の全く飲めない甘党だったので、奈々子とも気が合い、だから、僕たち四人は、見かけも職業も全く異にする四人だったのに、すごく気の合う四人だった。


「おやっさーん、亮さん、元気ー?」

 工房に入ってくるなり、由美は勢いよく言った。

「あ、また来たのか」

「また来たのかって、どういうものの言い方するのよ! 私はあなたの客よ、客! しかも上得意様に向かってなんて言い草?」

「はははは、そうだね。いつもお世話になってます」

「それはそうとね、この間、ブライダルフェアをうちの会社でやったでしょ? 亮さんの新作がすごく好評だったの。それで、今日、注文をどっさり持ってきてあげたのよ」

「えー、ほんとに?」

「うん」

「どのくらい?」

「三十五」

「うわー、すげー」

 工房の奥にいるおやっさんのほうを見ると、ニヤッとしながらのけぞっていた。

「感謝しなさいよ」

「はい、毎度どうもありがとうございます」

 結婚式場を予約するときは、当たり前だがもうすでに結婚が決まっているので、婚約指輪はすでに購入済みの人たちばかりで、だから由美が持ってきてくれる注文は、婚約指輪ではなく結婚指輪がほとんどだった。どうしてだか僕の作る結婚指輪は好評で、おそらく、一組一組細かい打ち合わせをして、オリジナルのものを制作しているからなのだと思う。しかし、由美は度々僕にこう言った、「亮さんのデザインって、指輪の中に小宇宙を感じられるのよ。だから人気があるんだと思うわ」。くすぐったいような半分訳の分からない褒め方をされて、僕はいつも戸惑った。由美は多分、ロマンティストなんだろう。それと同時に、口に出したことは絶対に実行するという生真面目さも持ち合わせているから、控えめな信之と気が合うのだろうなと思う。今度、みんなの休みが揃う来週の水曜日に、再び我が家に由美夫婦が訪ねてくれる約束をして、由美は工房を後にした。


第十章に続く

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