第四十一章
おばちゃんは「奈々ちゃんも辛かっただろう?」と言った。私は「うん」と頷いた。「でもね、亮も辛かったんだよ。亮はね、いつも奈々ちゃんのことを話してたよ。奈々は元気かなって。奈々のことが心配だっていつも言ってた。だから、亮が奈々ちゃんを家に連れてくる日が来るなんて、おばちゃんは本当に嬉しいよ」。そう言って、涙を拭った。
私は小学二年生のときに一度に家族全員を失った。経営していた会社が倒産し、父さんと母さんが灯油をかぶって焼身自殺したからだった。父さんと母さんは私と保志を残し、二人きりで逝くつもりだったのだろうが、たまたま家に帰ってきた保志に目撃され、保志も二人と一緒に亡くなった。新しかった家も夢も希望も私の愛する家族も全部一瞬で消えてしまった。私にとって、今でも決して忘れることのできない最大の出来事は、世間の人にはすぐに忘れ去られるような小さな新聞記事になり、周辺の人に知らされることになった。きっと、おばちゃんも亮ちゃんもそれを知って、ずっと心を痛めてくれていたのだろう。でも、びっくりしたのは、亮ちゃんまでもが天涯孤独になっていたこと。亮ちゃんもきっと苦しんだに違いない。だからこそ、私のことをいつまでも気に掛けてくれていたのだと思う。
おばちゃんは言った、「亮はね、孤児院に行くと言っていたんだよ。でも、亮は孫みたいなものだし、娘が嫁に行って私は一人暮らしだし、うちの子になってもらったんだよ」。そう話すおばちゃんの横で、亮ちゃんは何も言わずに心配そうに私を見ていた。私は亮ちゃんの顔を見て笑った。すると亮ちゃんも照れくさそうに笑った。
その中学最後のバレンタインデーが、こんなに幸せな日になるとは思わなかった。これからは、幸せなことばかりが続くのだと思っていた。だけど、そんな日は長くは続かなかった。あと一週間で中学を卒業するというときに、亮ちゃんは忽然と私の前から姿を消した。おばちゃんも、おばちゃんの家さえも……。
第四十二章に続く




