第三十九章
信之の勤める東邦新聞社の近くの取引先に配達依頼があったので、工房へ帰る前に、彼に電話をしてみた。昨日の夜、信之から「報告することがあるから近々会いたい」とメールを貰っていたからだった。東邦新聞社の本社は新宿副都心のど真ん中に位置していた。大勢のスーツ姿のサラリーマンばかりとすれ違っていると、薄汚れたラフな服を着ている自分は少し気後れがした。新聞社の玄関の外で、植込みの花壇の煉瓦塀の縁に座って彼を待っていた。暫くして、信之が「遅くなってすみません」と息せき切って現れた。彼は「ロビーのソファーで待ってて下さったら良かったのに……」と言ったが、僕は「外が好きなんだよ」と答えた。
信之は、「こっちです」と言いながら、新宿の路地裏をどんどん進み、古びた一軒の喫茶店の中に僕を連れ込んだ。なんでも、ここはランチの量が多めで、隠れた穴場なのだそうである。生憎、昼飯を食べてから一時間も経っていなかったので、信之だけがランチを注文し、僕はブレンドコーヒーを注文した。近くには居酒屋や焼き鳥屋も軒を連ね、そこにもしょっちゅう行くのだと信之は語った。
「早速ですが、東府中の柏木三郎という人のことですが、彼は二十年前まで調布の駅前で不動産屋を営んでいて、住居は同じ敷地の店舗の裏に別棟であったそうですが、五年前に売却し東府中にマンションを買って、そこに引っ越しています。多摩川の吉田勝隆という人は、現在千葉の館山に住んでいて、探すのにちょっと苦労しました。娘夫婦が少し前まで多摩川の家にいたらしいんですけど、仙台に転勤になって引っ越したらしいです。だから、今現在家は空き家になっていて、誰も住んでいなかったんですよ」
「そうなんだ……。手間を取らせしまって、すまなかったね」
「いえ、いいんですよ、近所の人に話が聞けましたから。ただ、その近所の方に伺った館山の住所が間違っていて、そこでちょっとつまづいてはいたんですけど、どうにか辿り着けました。吉田さんも昔、布田で八百屋をやってたらしいです」
「ふーん」
「それでなんですが……」
「うん、それで?」
「やっぱり、二十年前に不審火が元で、店が火事になったことがあるそうです」
「二軒とも?」
「ええ」
僕はそれを聞いて、大きなため息を吐いた。
「飲食店が火事になるのは納得しないでもないけど、不動産屋と八百屋はやっぱりおかしいと思いますよ」
「そうだね……」
「二十年前の新聞の記事を調べてみたんですよ。そしたら、ありました。連続放火事件だったそうです」
「やっぱり、そうなのか……」
「でも、少し気になることが……」
「?」
「放火された家は、五軒じゃなくて六軒とありました」
「え?」
「それと、犯人はすぐに捕まったそうです。本人が自首したので……」
「そうなんだ……」
「犯人は中学生だったそうです」
第四十章に続く




