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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@完全無欠の悪女です2月下旬発売
中等部三年

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93.芙蓉学院中等部三年


 芙蓉学院中等部三年生の春である。


 彰仁は昨日入学式を済ませた。前世や今世の私の入学式では出席しなかったお父様も、今回は出席していた。いい傾向だと思う。


 私は、最終学年のゴールドラインの制服に身を包み……、またもや綱に髪を整えられている。

 二年の時にも、もう自分でしなければと心に決めたはずだったのに、ズルズルとされるがままになってしまった。

 昨日の夜、今年からは自分ですると宣言したはずなのに、どうしてこうなっているのだろう。

 

 無力感に襲われながら、綺麗に整えられた自分を鏡で確認する。綱が手鏡を合わせ鏡にしてくれて、後姿までバッチリだ。焦げパンみたいな茶色のくせ毛は、綺麗に編み込みでハーフアップにされている。髪に結ばれた黄色いリボンは、綱がホワイトデーにくれたものだ。甘いものばかり貰って食べては太るでしょう、とのお優しいご配慮による。


 子供扱いされ髪を結われるのは、心情的に不本意だけれど、見た目的には大満足だ。


「……ありがとう。綱」


 複雑な気持ちで礼を言えば、綱は無言で鏡越しに微笑む。

 綱は、こっくりとしたカスタード色のベストを着用している。昨日から正式に生徒会執行部なのだ。特権として、ベストは好きなものが着用できることになっている。



「姫奈子もいい加減自分でそれくらいしろよ」


 部屋の入り口では、彰仁が私たちの様子を呆れながら眺めている。彰仁はブロンズラインの制服に、(ふようの蕾が胸に挿してある。


「簡単に言いますけど、普通編み込みなんか自分ではできませんから!」


 頑張ってもせいぜいただのハーフアップくらいしかできない。料理やメイクは好きでも、髪の毛はからきし駄目なのだ。


「いつまでも綱が尻拭いしてくれると思うなよ」

「わかってるわよ!!」


 私たち姉弟のやり取りを見て、綱は小さく笑った。


「準備できたなら、綱……先輩、一緒に行こう」


 彰仁が照れたように笑って、私まで照れてしまった。


 昨日は、生徒会執行部として綱も入学式に出席していた。その様子がとても誇らしかったようで、昨日は両親も彰仁も綱の執行部ベストぶりを、手放しで褒めていたのだ。

 彰仁も綱が先輩として感じられたに違いない。


 私たちは三人で車に乗り込んだ。

 小さかった頃は、後部座席で三人だったけれど今ではそんなわけにはいかない。助手席に綱が座り、私と彰仁が後部座席に座る。なんだか少し大人になった気がした。



 校門をくぐれば、桜吹雪に出迎えられる。葉桜に近くなった学院の桜が、まるで祝福するように惜しげもなく花びらを風に放つ。

 人だかりができていて、大きな歓声が響いていた。


 あの大きな人だかりはたぶん、八坂くんと氷川くんだろう。


 うん。かかわりたくない。


 私は綱の袖を引いた。


「早く校舎へ行きましょ」


 彰仁は怪訝な顔をして私を見た。私は綱の陰に隠れるようにして、校舎へと足早に向かう。

 ピロティに到着し、クラス分けを確認した。去年は前世とは違ったのだ。今年も違っているかもしれない。


 Oクラスに、綱と自分の名前を発見し安心する。今年も一緒になれたらしい。


「お、おはようございます」


 綱の隣に桝さんが近寄ってくる。私はそれを見てペコリと頭を下げた。もう以前のように追いつめてまで、仲良くなろうとは思わない。普通でいいと割り切ることにしたのだ。


「こ、今年も一緒ですね。よろしくお願いします」


 桝さんが、綱をジッと見て小さな声で囁いた。

 綱は優しい微笑を湛えて、よろしくなんて答えている。私はなんだかつまはじきにされた気分で、聞こえないふりをして、クラス分けを凝視した。


 桝さんのほかには、三峯くんと一条くんも同じクラスのようだ。クラス委員長はもちろん一条くん。副委員長は意外にも。


「ひぃなぁちゃん!!」


 大きな声が響いて、ギョッとする。やっぱり厄災の八坂晏司である。その隣には思った通り氷川くんもいる。

 私は大きくため息をついた。

 さすがにここで無視して逃げるわけにもいかない。

 

 チラチラと女の子たちが振り返る。ほんと勘弁してほしい。


「おはようございます」


 とりあえず二人に軽くお辞儀をし、その場を最短で去ろうとすれば八坂くんが綱の肩を組んだ。捕まった。


 きゃぁ、と小さな歓声が上がる。綱はとても迷惑そうに八坂くんを払う。


「姫奈ちゃんはクラスどこ? 僕はどこだった?」


 人懐っこい顔で聞いてくる。


「八坂くんはOクラスでしたよ。私のクラスの副委員です」

「やった!」


 天真爛漫に喜ばれて、ちょっと可笑しい。仕事が忙しいのに副委員なんてできるのだろうか。まぁ、芙蓉会の決めることに私は口出しできないが。


「俺はYか。離れてしまって残念だ」


 氷川くんが本当に残念そうで、それもすこし可笑しかった。思わずこちらもつられて笑う。


「で、生駒()ベストが黄色なんだ」


 八坂くんが、ニヤニヤと冷やかしてきた。綱は無言で眉をしかめた。

 氷川くんは気まずそうに顔をそらす。見れば、氷川くんのベストはタータンチェックに芥子色のラインが入っていた。


「メンズでは黄色が流行ってるんですか?」


 思わず八坂くんに尋ねる。


「うーん? そんなこと、ないはずなんだけどね?」


 含みのある言い方である。私は確認するように、チラリと綱と氷川くんを見てみたが、二人に目をそらされた。


 態度悪くない? 別に流行りくらい答えてくれても良くない?


「姫奈ちゃんのリボンも黄色だね。よく似合ってる」


 晏司君スマイルつきのお世辞に、周りの女の子が奇声を上げる。


「私のは流行りとか関係ないですよ」

「私が贈ったものです」


 綱がちょっと自慢げに言うのはなんでだ?


「へえ? 僕もリボンあげる」

「いえいえいえいえ……理由もなくいただけません」


 慌てて手を振って後ずさる。勘弁してほしい。


「姫奈ちゃん!」


 詩歌ちゃんと明香ちゃんがやってきて、あっという間にベストが勢ぞろいしてしまった。


 ブロンズカラーを中心に、黄色いリボンは何者なのだと問う声が、コソコソと聞こえてくる。

 カラフルなベストの中に、指定ベストの三年生ゴールドは私一人だ。むろん、花も持ってない。だからこそ浮いている。きたりらしい、なんて声もチラホラ聞こえ始めた。


 それよりなにより、遠巻きにこちらを見てくる視線が痛い。早くここから逃げ出したい。


 キョロキョロと視線を泳がせれば、困惑顔の彰仁と目が合った。


 うん、わかるよ、ゴメン。気まずいよね。


「あ、彰仁! 教室わかる? お姉さまが案内してあげるわ!」


 白々しく言えば、彰仁が苦々しい顔で私を睨んだ。


「昨日行ったからわかって……」

「心配だから案内してあげるわ」


 被せるように言い切って、彰仁の背中を押した。彰仁をダシにしてここを逃げ出す作戦だ。


「姫奈!」


 綱が声を上げた。


「行ってくるわね」


 私は振り返らずに彰仁を押して教室に向かった。


 三階は一年生の階だ。その踊り場で彰仁が立ち止まった。


「ここまででいい」

「ここまで来たならクラスまで送るわよ」

「いい。姫奈子と一緒だと面倒なことになりそうだから」


 突き放されるように言われてシュンとする。

 やっぱり、今回も姉であることは隠されてしまうのだろうか。さっきの騒ぎで、恥ずかしい姉認定されてしまったに違いない。

 そうそうたるメンバーの中で、ただ一人花も持たない外部生きたりだ。

 見劣りしても仕方がない。

 あの、ヒソヒソ話も彰仁の耳に入ったのだろう。あんなのを聞かされたら距離を置きたくなっても仕方がない。


「そ、そう……。か、帰りはどうするの?」

「校門でいいだろ?」


 彰仁はそっけなく答える。


「一緒に帰ってもいいの?」


 思わず問い返せば、彰仁は驚いた顔をした。


「当たり前だろ? 帰り時間が一緒なら普通一緒に帰るだろ。運転手に迷惑がかかる」


 それが前世では普通ではなかった。たまに帰りが一緒の時間になっても、彰仁はあからさまに私と一緒に帰るのを避けていた。


 私がみっともない姉だったから。


「そうね、良かった」


 ホッとして、笑えば彰仁は小さく溜息をついた。


「変なヤツ。なんで一緒に帰らないと思ったんだよ」

「だって、私、彰仁の姉なのに花もないでしょ? 姉弟だと知れたら嫌かと思って」

「バカ姫奈子」


 彰仁はそう言うと、私の額にデコピンをした。


「校門で待ってるからな! ちゃんと来いよ!」


 彰仁はそう言って私を指さすと、自分のクラスへと走っていった。


 ヒリヒリするオデコを擦りながら、でもちょっとだけ嬉しかった。




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