表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【6巻電子書籍&POD化7/25】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@神様のドS!!完結6巻7/25配信
中等部二年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/289

92.中等部二年 ホワイトデー


 ひな祭りが終わって、ホワイトデー。今年も綱は淡々とお返しを返していた。桝さんについてはわからない。芙蓉会で会った時にでも渡したのだろうか。なんとなく聞けなくて、そのままになってしまった。


 私もバレンタインのお返しをして歩いた。

 白山茶房では日持ちするお持ち帰り用のお菓子がなかったので、これを機会に開発し、その試供品をお返しにすることにしたのだ。とりあえず無難な雛アラレにしてみた。


 炒った豆と揚げたお餅に、色とフレーバーをつけてアラレにする。カリカリとした豆には砂糖、ふんわりさっくり仕上がった風船アラレにはチョコレートをかけて、違う食感が楽しめるようにした。色は黄色。フレーバーはバナナである。

 白山姫奈子と言ったらバナナが定着してしまったので、もう開き直ることにしたのだ。

 黄色いアラレを化粧クリームのような四角い透明の瓶に詰めた。丸い黒い蓋には白いラベルで『白山茶房』の名前を貼ってみた。少し渋すぎたかもしれない。

 


「姫奈子さん」


 昇降口から玄関に向かおうとすれば、氷川くんに声をかけられた。綱が胡乱な顔で氷川くんを見た。


「これを」


 ぶっきらぼうに差し出された小さな紙袋は、氷川財閥系列ホテル内にある高級フレンチのものだった。


「あの?」


 三月と言えどもまだ肌寒い空気に、氷川くんの鼻先が紅く光っている。


「二階堂から聞いた。今日は男子からプレゼントをしても良いのだと」

「ああ! ホワイトデーですか?」

「そうだ」

「ありがとうございます!」


 私は嬉々として受け取った。

 ここのフレンチはお持たせも美味しくて有名なのだ! 一体中身は何だろう? 焼き菓子だろうか? 開けるのが楽しみだ。

 

「では、私からも。これどうぞ。友チョコならぬ友アラレです」


 お礼にと、余分に持ってきた白山茶房のアラレをお返しする。それを見て綱が小さく笑い、氷川くんは少し微妙な顔をした。


「私が開発したんです。あの、甘いもの苦手でしたか? でも、アラレなのでそんなに甘くないと思うんですけど」

「あ、いや、大丈夫だ」

「そうですか? あ、つり合いが取れませんね」

「大丈夫だ。開けても良いか?」

「ええ」


 氷川くんは、袋から瓶を取り出すと蓋を開けてアラレをつまんだ。

 私は口に合うかドキドキとする。


「うん、旨いな」

「本当ですか?」

「ああ、姫奈子さんが開発したのだろう?」

「試作の第一弾は、バナナにしてみたんです。あと、ピンクは苺味の予定なんですが、緑はメロンにするか抹茶にするか悩んでいて……」

「バナナにあわせるならメロンだろうな。だが、和風味も面白そうだ」

「和風……、そうですね! 抹茶はきな粉と黒蜜のアラレと一緒にしてみようと思います!」

「ああ、それは良いかもしれない」


 氷川くんのお墨付きをもらって、俄然やる気が出て来た。商品化する際には色とフレーバーを増やしてみよう。


「アドバイスありがとうございます。では、ごきげんよう」


 ぺこりと頭を下げれば、氷川くんはやっぱり少し困ったような顔をした。


「? なにか?」

「い、いや、何でもない」

「そうですか?」

「呼び止めてすまなかった。では、また明日」

「はい。また明日」


 氷川くんが珍しく小さく手を振ったから、私もそれに応えて手を振り返す。綱が見咎めるように私に視線を送ったけれど、無視する方が失礼だろう。


「なによ」

「ごきげんですね」


 綱が厭味ったらしく言ってくる。ごきげんになるのは当たり前だろう。


「だって、氷川くんに褒められたのよ。嬉しいじゃない」

「……そうですか」

「そうですよーだ」


 綱なんか、私のことちっとも褒めてくれないくせに。


 内心思いながらも口にしたりはしなけれど。


「中身は何ですか?」

「なにかしら。楽しみね。あのフレンチの焼き菓子は美味しいって有名だもの。たくさんあったら綱にも分けてあげるわね」

「是非」


 珍しく綱が素直に欲しがるから笑ってしまった。やっぱり食べてみたいよね。


「そういえば綱は何をあげたの?」

「お返しですか?」

「ええ」

「ブランシュのギモーヴにしました。姫奈も好きでしょう?」


 ブランシュは、白山系列のケーキ屋さんの一つだ。確かに私も大好きで、人に薦めるのに間違いのない品だけれど……。


 私は小さくため息をついた。


「どうかしましたか?」

「……綱が残念な子だって気が付いただけよ」

「心外ですね」

「だって、私の好きな物を配ってどうするの」

「姫奈も欲しかったですか?」

「そういう意味じゃないわよ! せっかくモテるんだから、在学中にちゃんと彼女をゲットしなさいよね?」

「心配はご無用です」


 シレっと答えるから頭にくる。


「モテるからって図に乗ってると痛い目見るわよ?」

「図に乗ってなんかいませんよ」


 案外真面目な顔で返されて、ドキリとした。


「……もしかして、本命いたり、する?」


 思わず聞いたら、困ったように綱は笑った。

 なんでだろう。チクリと胸が痛む。聞かなければ良かった。やっぱりあの子、桝さん、なんだろうか。


「ごめんなさい。変なこと聞いたわ」


 私は話を切り上げて、そそくさと車へと向かった。

 校門近くに咲き乱れる梅の花の香りが、なぜだか瞳の奥を刺す。


「ひな!」


 綱に呼ばれて立ち止まる。


「本命には残る物をあげたいんです」


 綱の言葉。だったら、今年は本命にあげていないという意味だ。


「へえ、そうなの」


 なんだか白々しく出た声。

 とりあえず、なぜだか安心する。桝さんじゃないと安心する。

 自然に口元が緩んで、そのことが恥ずかしく、指先を温めるふりをして両手を口元に寄せる。


「まだ寒いですね」


 綱が言って、全然寒くなんかなかったけど、私は大人しく頷いた。




 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ