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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@お飾り側妃は糸を引く7/5発売
中等部二年

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81.選挙っておっかない


 今日は明香ちゃんから芙蓉館へ呼び出された。


 綱と一緒に文化祭の練習で使った談話室へ行くと、見慣れたメンバーが集まっている。

 氷川くんに八坂くん、詩歌ちゃんに葵先輩、淡島先輩までいる。

 

 淡島先輩と葵先輩、ベストの色が微妙に似てますね? いやー、ラブラブで羨ましい。

 なんて思ってニマニマしていれば、綱に椅子を引かれて座るように促された。


「さて、今日集まって貰ったのは、次期役員選挙についてのことなんだ」


 議長は淡島先輩らしい。次期役員選挙は良いけれど、私がなんで呼ばれたのか皆目見当がつかない。


「会長は和親かず。これは良いよね? で、副会長なんだけど、女子は葛城さん」


 明香ちゃんがニッコリ笑う。明香ちゃん、副会長に立候補するんだ。


「男子は、生駒でいこうと思う」


 綱はやりたいって言ってたし、良いんじゃないの? なんてお気楽に思っていたのだが。


 氷川くんと八坂くんは難しい顔をした。詩歌ちゃんと葵先輩は驚きを隠せない。淡島先輩と明香ちゃんは平然と微笑んでいる。


「生駒は止めた方がいいのではないか?」


 氷川くんが言った。


「うん、そう言うと思った」


 私は意味がわからずに、キョトンとした。


「選挙など、成りたい人が勝手に立候補すればいいのではないかと思っていました」

 

 だいたい事前にこんな打ち合わせをするのも不思議なのだ。


「白山さんがおいてきぼり食ってる感じかな? 少し説明するね」


 淡島先輩が説明を始めた。


「芙蓉学院の生徒会選挙は毎年、芙蓉会からと、その他内部生が立つことが多い。ベストになれば自動的にその後の芙蓉会入りが確定するから、内部生で目指す人も多い」


 確かに去年もそうだった気がする。でも、芙蓉会で人気のある淡島先輩と葵先輩が勝った。男子の副会長も芙蓉会だった。


「生徒会執行部は会長・副会長を除き、あとは指名制だ。会長と副会長で協議して働いて欲しい人を選ぶ」


 だから、氷川くんが選ばれたのか。淡島先輩と氷川くんは古くから懇意の仲だからだ。


「ここで、芙蓉会以外の会長、副会長が生まれたらどうなると思う?」


 現在、芙蓉会が圧倒的権力を誇るこの学院で、それと同等の力を持つのは生徒会執行部ベストくらいだ。今のところ、芙蓉会から生徒会執行部が選出されているので、摩擦はない。


 しかし、仮に副会長の内一人でも、芙蓉会以外の人間が入れば、執行役員の指名にも影響が出るのではないだろうか。

 たぶん、自分が芙蓉会に入れたい人を推してくる。


「最悪クーデター?」


 思わず口にしたら、明香ちゃんは吹き出した。


「姫奈子さんは過激ね」


 葵先輩が苦笑いする。


「まあ、そこまでは流石に無理だろうけどね。やりにくくはなる。任期は一年しかないから、まともな変革なんかできない。昔内部生が副会長になったことがあったらしいけど、その年から数年は荒れたそうだ。だから、僕らとしては芙蓉会で固めたい訳」

「それと、綱がなんの関係があるんですか?」


 思わず問えば、黙っていた綱が口を開いた。


「私は芙蓉会ではありますが、外部生です。外部生が執行役員になった前例がありません。反発は必至でしょう」


 また、それか。芙蓉会であっても、外部生は陰で『きたりの方』と呼ばれるのだ。

 くだらなすぎて、ため息が出る。


「まず当選できるかもわからないよね」


 八坂くんがニヒルに笑った。


「だから、僕らが生駒を勝たせる」


 淡島先輩が言い切った。

 私は目を見開いた。


「今のところ、内部生では女子副会長候補に大黒典佳が立つそうだ」

「大黒さんが相手だと私も難しいかも」


 明香ちゃんが肩をすくめて笑った。


「晏司くんファンクラブの票は大きいわよね。誤解が解けきれてないし、派閥は残ってるもの」


 八坂くんが苦々しい顔をする。


「生駒は内部生陣営から声がかかっているだろう?」


 綱は無表情で頷いた。


「え! そうなの?」

「執行役員に姫奈を入れるという条件を提示してきました」

「人の知らないところで、なんて迷惑な!!」


 勘弁してほしい。私は思わず頭を抱える。

 淡島先輩が笑った。


「白山さんは芙蓉会が嫌なの? それともベストが嫌?」

「両方嫌です」

「それはどうして?」

「だって、面倒だし責任が重いわ。重責が特権に見合わないもの」


 確かに、芙蓉会は特権階級でそこだけ見ればうらやましい。だけど、その裏ではただの学生とは違う責任を負わされている。


 前世では芙蓉館に憧れ、羨むばかりだったが、綱や桝さんを見ていて思った。芙蓉会であることは大変なのだ。


 花を胸に持つだけで、知らない人から噂される。自分の意思にかかわらず、苦手でもリーダーであることを求められる。

 仕事をそつなくこなして当然で、暗黙のプレッシャーに応えられなければ、芙蓉会らしくない、と言われてしまうのだ。


 生徒会執行部ベストになれば、プレッシャーはそれ以上だ。私には無理だ。


「皆、芙蓉の花と館に憧れるのにね」


 淡島先輩が笑った。


「それで、和は来年どうしたいか、って話になるんだよ」

 

 氷川くんが話を受ける。


「今年の文化祭で考えた」


 私の体が固くなる。私に対する嫌がらせの事件を言っているのだ。


「あれは、内部生の外部生への差別意識が表面化したものだ。昔から差別があるのはわかっていたが、噴出したのは初めてだった。来年度以降はそれをできるだけ押さえたい。それに賛同してくれる人を執行部に集めたいと思っている。だが、大黒さんは無理だろう? あの問題の扇動者だ」

「私は賛成しているわ」


 明香ちゃんが言う。


「俺は男子副会長に晏司を推したかった」

「僕に執行部は無理だよ。仕事があるし」


 氷川くんが言えば、八坂くんが答える。


「そこで生駒。こちらから出ないかい?」


 淡島先輩が笑った。


「でも、困ったね。白山さんが執行部入りを断るなら、こちらから生駒に提示できる条件がない」

「目的は同じなので私はこちらから押してもらえるならうれしいと思います。内部生陣営は私を立たせるつもりはあっても勝たせるつもりはないでしょう。なにせ私は大黒典佳に敵対している。勝てば利用する、負けてもリスクは何もないですから」


 綱が私を見た。


「私は綱が受かればそれでいいわ」


 別に何かして欲しいだなんて思いもしなかった。


「だが、悪いが生駒だと勝つこと自体が微妙なラインだ。内部生側が入ると面倒になる。俺としては当確な候補者が欲しい」


 氷川くんが眉を潜める。


「だから、勝たせるんだよ」


 淡島先輩が真面目な顔で私を見た。


「手伝ってね。白山さん」


 こ、これは、関わってはいけなかったやつかも。


 あわてて、綱を見れば真剣な目で見つめてくる。明香ちゃんも、葵先輩も、詩歌ちゃんもだ。


 覚悟を決めろ、そう言うことだろう。

 綱のためなら、それもいい。


「……なにをすればいいんですか?」

「なに、簡単だよ。葛城さんの推薦人になって応援演説して欲しいんだ」

「綱じゃなく?」

「生駒の推薦人は晏司に頼みたい」


 八坂くんはあからさまに嫌な顔をした。


「執行部を断るんだから、それくらいしてくれても良いよね?」

「なんで僕が。生駒と仲良くないし」


 八坂くんが拗ねたように答えた。


「晏司はあの文化祭を繰り返したいのかい? ボクにとってアレは汚点だね」


 淡島先輩の顔が怖い。


「それに八坂くんにもメリットがあるわよ? 『大黒さんがオキニだ』なんていう変な誤解を一気に解けるわ」


 明香ちゃんが言った。

 私からもお願いする。


「八坂くん、お願い」


 不本意かもしれないけれど、綱を勝たせてほしい。


「……わかりました、よ」


 渋々、八坂くんが答えた。

 それを確認して淡島先輩がニコリと笑った。


「それで葛城さんの方だけど。葛城さんは芙蓉会や内部生の信頼が厚いと思っている。いつもなら安心なところだけど、今年は大黒さんの派閥がある。大黒派は、晏司ファンクラブ票をまとめてくるだろう。でも、白山さんは外部生からの人気が高い。あとは、反大黒派もね。そこで、白山さんが推薦人になることで、その票を葛城さんにとらせたい」

「なんですか……それ」


 思わず突っ込んでしまう。そんな根拠のない分析で大丈夫か?


「あの文化祭でね、白山さんと生駒の株が上がったんだよ。だから内部生派は生駒をとりこみたいんだと思う。芙蓉会といっても生駒は外部生だからね。立ち位置が外部生代表ともいえるんだ。そうなってくると、芙蓉会への対抗馬としては、生駒が最有力だからね」


 淡島先輩が笑った。


「外部生なのに、周りの空気に呑まれないであの場で意見を言った姿が良かったんじゃない?」

「それは、あの後、淡島先輩や氷川くんがフォローしてくれたおかげじゃないですか……」


 多分、私たちが発言しただけだったら、あの場は収まらなかった。私のキレ発言を、ベストや芙蓉会が追認したから何とかなっただけだ。


 淡島先輩はそれには何も答えなかった。


「さて、生駒の方は外部生からの人気は強いが、内部生からの反感は根強いだろう。外部生が内部生を押し退けて、芙蓉会にいることですら反感の元なのに、ベストを目指すんだからな。また大黒派も生駒には入れないだろう。だから、晏司の票が欲しい。晏司が推薦人になれば、大黒票をけっこう取り込めるだろう」


 氷川くんが納得したように頷いた。


「そうか、生駒が受かれば、外部生にも希望が持てるな。きたりの方と呼ばれても、ベストに成れる。そして執行部としても差別はしないと表明できる」

「和の言う通り」


 淡島先輩が我が意を得たりと満足げな顔をした。


「和の推薦人は浅間さんにお願いするよ。僕はブレーンになる。現生徒会の信任を得ていることの表明になるしね」


 お、おうふ……。彰仁が大変だと言っていたのはこれなのか。ガッツリ政治が絡んできている。


 中等部の選挙なんてできレースかと思っていた。前世での氷川くんの対抗馬は思い出せないくらいだったのだ。


「ところで、内部生の会長候補は誰なんですか?」


 思わず尋ねた。氷川くん淡島先輩コンビとやりあうなんて大変すぎる。


「ああ、三峯恭介くんだよ。彼は担ぎ上げられてるだけだと思うけれど。会長は和で決まりだとみんな思っている。ただ、生徒会選挙で無投票って訳にいかないからね。先生の方でお願いするんじゃないかな」


 淡島先輩がニッコリ笑った。


 なんか、三峯君が可哀そうになってきた。負けるとわかっている戦に、頼まれて出るとか……キツすぎる。私なら泣きそうだ。


「白山さんと生駒には、ボイストレーニングをして貰う。したことはないだろう?」


 氷川くんが真顔で言って、私はゲッソリとしながら無言で首を縦に振るしかなかった。


 そうですよね。選挙も当然マジですよね……。





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