80.中等部二年 お正月
クリスマスが終わって、お正月。今日は三日。
綱が生駒の実家から帰って来た。たった四日間会わなかっただけで、なんだか懐かしい。
私と彰仁はいつも通り、綱の部屋の炬燵に潜り込んでいた。
久々に家に帰ってきた綱は、日に焼けていて意外に思う。
「どこに行ってたの? 日に焼けてるわ」
「スキーです。今年は連日晴れていて日に焼けてしまいました」
「いいな、スキーか」
彰仁が羨ましそうに言う。
生駒の実家は雪深い里で、スキーやスノボが盛んらしい。綱も生駒に連れられて、最近のお正月はスキーに行くのが常なのだそうだ。
「綱はいつから始めた?」
「私は物心ついた頃には……」
「今からだと遅いかな?」
「大丈夫ですよ。今度、父に頼んで一緒に行きましょうか」
「そうする!」
「お嬢様は?」
「私は寒いから嫌」
私は即答して、そっと剥きかけのミカンを綱に押し付ける。そしてピスタチオを剥き始めた。ピスタチオを剥くのは楽しい。ついつい、食べない分まで剥きたくなる。固いものを無理やり割るのは良いストレス発散だ。
このミカンは甘くて美味しいのだけれど、何しろ皮が薄くて剥きにくい。うっかりすると詰まった柔らかい果肉に爪を立ててしまうのが難点だ。その汁が伝って手首まで汚すから腹立たしい。
そうして私がボロボロにしたミカンを綱が剥く。剥ききってから、ティッシュに中身を乗せてくれた。
私はそれを美味しくいただく。
「綱は姫奈子を甘やかしすぎだ」
彰仁はそう言って、自分のミカンを綱に押し付ける。
「これも頼む」
綱は笑ってそれを剥く。
「姫奈子は綱が居ないと生きていけないだろ」
「そんなことないもん」
「いいや、あるね、そんなこと絶対あるね」
彰仁が言えば、綱は笑って彰仁の前にミカンをおいた。
「はい、彰仁さまの分です」
「ありがとう」
彰仁が嬉しそうに受け取った。
「なによ、彰仁だって同じじゃない!」
「俺は当たり前だと思ってない。ちゃんと礼も言う」
「私だって感謝してるわよ! ピスタチオあげるわ」
たくさん剥いたピスタチオをティッシュに乗せて押し付ければ、綱はありがとうございますと言った。
「それ、剥きたかっただけだろ」
「いいえー」
そんな感じでお互いの近況をボツボツと話し、ダラダラとミカンを剥いて過ごしていた。
すると、綱が真面目な顔をして私たちを見た。
「お嬢様と彰仁さまに相談があります」
「なぁに?」
私は口にミカンを運びながら適当に相槌を打った。
「生徒会副会長に立候補しようと思っているのですが……」
「良いじゃない!! 綱ならきっとなれるわ!」
私が即答すれば、綱は嬉しそうに笑った。
彰仁はビックリしているようだった。
「彰仁は反対なの?」
「反対ではないけど、どうしたのかと思った。姫奈子が思うより、選挙はけっこう大変だからな」
「そうなの?」
「去年応援演説をしたけど、ごっこ遊びの初等部でも大変だった」
彰仁は心底疲れたように言う。
「このままではいけないと思うことがありまして。もう少し力が欲しいんです」
綱が真剣な顔つきで彰仁を見た。
もう少し力が欲しいって何なんだろう。芙蓉会にいるだけで充分特権があると思うのに不思議だ。
「自分で決めたなら応援する」
「ありがとうございます」
「手伝えることがあったら言ってね」
「よろしくお願いいたします」
突然の綱からの話に驚きはしたけれど、ベストの綱は簡単に想像できる。
きっと、なれると私は思った。







