48.初等部の運動会 1
今日は芙蓉学院初等部の運動会である。私は両親と一緒に彰仁の応援に行く。生駒と綱は、家族水入らずでお休みだ。最近は、特別な商談でもない限り土日はお休みになった。ノー残業デーまで作ったらしい。お父様このまま頑張れ!
今年は彰仁が最上級生で、白組の応援団長になったのだ。私はその応援にいくべく、キッチンで奮闘中だ。お弁当を少しだけ手伝っているのだ。
無論前世では行かなかった。彰仁に来るなと言われ気分を悪くし、両親の説得も無視して部屋に閉じこもった。大人げない姉である。
去年も来るなと言われたが、「あらあら思春期ね?」と余裕で無視して顔を出した。そもそも今年は、白組リーダーとなった修吾くんも見に行きたいので、彰仁の言動など無視をする。
ごめんね、てへペロ!
しかも今年はお弁当から参戦である!
彰仁のリクエストだと、カツだとか、唐揚げだとか茶色ばっかりでつまらないので、自分の楽しみのために私も作ることにしたのだ。
朝早くから、キッチンではシェフが一口カツを作っている。揚げられたカツがゴマ入りソースに付け込まれていく。ソースカツにすればサクッと感がなくても美味しいだろう。
一応、ゲン担ぎのカツである。
私はその横で、お父様から教わった唐揚げを揚げた。
実は昨日の内にフルーツサンドを作って冷凍しておいたのだ。マスカルポーネチーズと生クリームをあえて特製クリームを作り、カスタードを塗ったパンの上にフルーツと特製クリームをのせてパンにはさむ。チーズは正義だ。
ラップで包んで冷凍しておけば、お昼頃にはちょうど食べごろのはずだ。保冷材代わりにもなる。
それを切り分けて、お弁当の間に入れてもらった。苺とブルーベリーがとても綺麗だ。もう一つ、とっておきを入れた。うん満足。
芙蓉学院の初等部は、中等部とは敷地が別になっている。幼等部はまた別の場所にあり、さらに数カ所にわかれているのだ。幼児を少人数で手厚く養育する為だろう。いくつかある幼等部が初等部で合併される仕組みだ。
初等部の運動会は校庭で開催される。中等部と同じく、クラス分けにより四色のチーム分けになっていた。
修吾くんは白組リーダーとして宣誓をした。これがまた雄々しくて格好良かった。いつも見る天使な修吾くんとは違う一面に、思わずカメラを連写する。男の子はあっという間に大きくなる。
白組の応援団長は彰仁だ。開会式の応援合戦で、長い鉢巻に白い手袋で大きく声を張り上げて、胸をのけ反らせている。そんな彰仁は凛々しくて、大人っぽくなったと実感した。並みいるエリートの中でも引けを取らない堂々とした姿に、身が引き締まる。この子の姉として、できるだけ足を引っ張らないようにしなくてはいけないと思った。
高学年と低学年にわかれての綱引きに、学年別のリレー。低学年の創作ダンスは、ポンポンを使った流行りの曲でとても可愛らしい。間に大玉転がしなどが入って、新入学児の宝拾い。
初夏の晴れやかな日差しの中で、弾けるような笑い声が響き渡る。いつもは固い顔をした会社役員のパパたちも、ツンとした貴婦人ママたちも、今日ばかりは破顔してカメラで自分の子供たちを追いかけている。
とても爽やかだ。
午前の部の最後は、中学年のソーラン節の演技だった。長い袖なし法被を着て、鳴子をもって踊る。ロック調のソーラン節で激しく踊る姿は、低学年の可愛らしかった創作ダンスからは一変していて、知らない子なのに大きくなって……などと、思わず目頭を押さえたくなるのは、精神年齢が高いから?
お昼休みは体育館が解放され、校庭の方は閉鎖される。
体育館の観客席部分は臨時のカフェになり、我が白山フードサービスの関連会社が軽食を出店風に提供している。
アリーナ部分は家族でお弁当を広げることができるようになっていた。
私たちは体育館のアリーナに場所を取り、お弁当にする予定になっていた。
私が手を洗いに洗い場へ行くと、光毅さまがキョロキョロと人を探していた。
「どうしたんですか?」
思わず声をかける。
「修吾を探しててね。カフェでお昼をって約束してたんだけど、見当たらなくて……見かけたら俺に連絡くれるように言ってくれない?」
焦っている様子の光毅さまに快諾する。
「両親が来れなくてね、オレも今来たところでちょっと様子がわからないんだ」
困ったように眉を下げる光毅さんに頭を下げて、私はとりあえずアリーナへ戻った。彰仁が来ていれば修吾くんのこともわかるかもしれないからだ。
アリーナに戻ってみれば、彰仁が修吾くんと一緒に歩いてくるのが見えた。良かった。
合流した彰仁は、不満がありそうな顔で私を見たけど、姉の余裕でにっこり微笑み返す。
「修吾くん、とてもかっこ良かったわ! 彰仁もすごいじゃない!」
「来るなって言っただろ」
「コラ彰仁」
お父様が窘める。
彰仁は不満そうに顔をしかめた。
「修吾くん、光毅さまが先ほど探してらしたわよ。連絡をして欲しいっておっしゃっていたわ」
修吾くんに伝言を伝える。
「姫奈子お姉さん、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げたけれど、顔はなんだか曇っている。
「どうしたの?」
聞いてみても何も答えないで首を振り、体育館にいる沢山の家族をぼんやりと見ただけだった。
そうか、兄弟二人での昼食は、運動会だと少し寂しいかもしれない。周りは家族だったり親戚だったりグループで賑やかなのだ。
「あの、迷惑でなかったら、一緒にお昼をどう?」
修吾くんを誘ってみる。
「え?」
修吾くんが怪訝な顔をして見つめ返した。
「うちの唐揚げ旨いぜ」
彰仁が修吾くんを誘う。後ろでお父様が無言で頷いた。
「カフェでご飯ならまだ注文してないでしょう? だったらこちらに光毅さまをお呼びしたら? あ、でも、ご迷惑だったらいいのよ? ただの思い付きだから」
そう言えば、修吾くんは嬉々として光毅さまに電話をかけた。何やら光毅さまを説得をしているようで、私の方がハラハラしてくる。無理をさせてしまったかもしれない。
しばらくして光毅さまが息を切らしてやって来た。とても恐縮している様子で、うちの両親に頭を下げる。手ぶらであることと、迷惑であることを詫びているようだったが、お父様もお母様も笑って席を勧めた。
やっぱり出過ぎたことだったかもしれない。
「作りすぎてしまったので、もしご一緒できたら賑やかになって嬉しいなと思ったんですけど……、急すぎますね! 思い付きで逆にご迷惑を……」
私は光毅さまに慌てて頭を下げた。
「ううん。そんなことないけど。もともとカフェで頼むだけで何も用意してなかったから……でも、こちらこそ迷惑じゃないかな?」
「いいえ! 私は光毅さまと一緒なら嬉しいです!」
思いっきり本音が出れば、彰仁がギロリとこちらを睨んだ。
なんだよ、機嫌が悪いのはお腹空いてるからでしょ? 私に当たるなよ。
「お腹空いてるでしょう? さあさあ、お弁当にしましょう!」
お母様がそう言ってお弁当箱を広げる。
彰仁のリクエストのカツに唐揚げ。黄色や赤のプチトマトに生春巻き。お母様のスパムお握りは、照り焼き味でご飯には胡椒がたっぷり効いている。緑のシールはワサビマヨ味だ。
そして、私の作ったフルーツサンドはキラキラと輝いている。なかなか上できではないか!
「フルーツサンドってメシじゃない」
彰仁がフルーツサンドにもの申したから、私はもう一つの入れ物を胸に抱えてほくそ笑む。
「彰仁、これを見てもそう言える?」
挑発的に問えば、彰仁が怯んだ。
「……なんだよ」
私は入れ物を盛大に広げて見せつけた。
「じゃーん!! 丸ごとバナナチョコロールサンドですぅ!!」
チョコレートソースを塗った食パンに、生クリームとバナナを巻いて、丸ごとバナナチョコロールサンドにしたのだ。可愛いラップで包んで、斜めに切った切り口には、スプレーチョコを振ってある。
どうだ、美味しそうだろう!
「っう!」
彰仁がよろめいた。
ふふふ、そうだろう! 食べたかろう!!
「バナナはスポーツの間に取るのに適しているのよ? ケガを予防するらしいし、疲労回復になるんですって!」
そう、敬うべきバナナ様!
「姫奈子ちゃんは詳しいね」
付け焼刃の知識でも、光毅さまが褒めてくれるので嬉しくなる。
「美味しそうです! 姫奈子お姉さんが作ったの?」
修吾くんが素直に歓声を上げてくれるから嬉しくなる。
「そうよ! 修吾くんも食後にどうぞ!」
お父様がパンと手を合わせたから、いただきますの合図だ。
いただきますと手を合わせて、皆でお弁当を食べ始めた。
お母様のボリューム満点なスパムお握りは男子に大好評だった。私の作った唐揚げも、不格好だけれどみんなが食べてくれた。ソースカツを食べながら、絶対に勝つなんて彰仁が言って、修吾くんが笑う。
とっても楽しい昼休みだ。
合わせて笑った。ほらやっぱり男の子たちは可愛いのだ。







