37.クリスマスパーティー 3
ローストビーフを食べ終わって、次の食べ物を物色していれば、向かい側からクリスマスツリーが歩いてきた。
緑色のドレスはフリルがたくさん重なっていて、そのフリル一つ一つに白いファーがついている。ピカピカのオーナメントのようにキラキラ光った色とりどりの大きな水玉ビジュー。ラッピングのような真っ赤なリボンはこれ見よがしに腰を彩る。頭のてっぺんには赤いリボンカチューシャに金色の星がついている。微妙に星かぶりしてしまった。
ミス・クリスマスみたいなド派手な大黒典佳だ。
か、かわいいー!と思った瞬間、おや、かわいいか?と疑問がよきる。前世では間違いなく可愛いと思っていた。今でもチラッと思う。だけど、エレナさまを知って、美佐ちゃんとつきあうようになってから、見るのと着るのは違うかも、と思うようになってきた。
バッチリ目が合い睨まれた。
ゴーン! ゴングのなる音が響く気がしたのは気のせいか?
「あら、これはこれはゴリラ姫じゃありません? 影みたいな格好で気がつきませんでしたわ」
鼻先で笑われる。
「最近学校では大人しくしてると思ったら、見えないところで厭らしい。生駒くんは知っていて?」
一段低くなる声。
「綱になんの関係があるのよ」
「まぁとぼけるのがお上手ね? そうやってそのドレスのように影に隠れてコソコソしてるのね」
「コソコソなんてしてないわ」
「まぁ、餌を探すには良いカモフラージュにはなりますけど!」
なにをぉ! このホテルの食事を餌呼ばわりなんて、食べてないだろ! 食べてたらそんなこと言えないぞ! 口にいれてやろうかコラァ!
と思ったが、駄目だ、やばい、神さまが見てる。でも、悔しい! なんか言い返してヤりたいぃ!! ちょっと、遠回しに反撃するくらいなら許されるよね? ちょっとだけ目を瞑ってね? お願い神様。食べ物を馬鹿にするやつは許せません!!
「ここの食事を餌だなんて、お口にしたのかしら? こんなに美味しいお食事にたいして失礼な物言いね?」
嘲笑って見せれば、大黒さんの目が好戦的に光った。
「こんなに美味しいお食事も、あなたが周りでウロウロしていれば、格が下がると言っているの! 隠密女!!」
隠密女だとぉ! 自分はド派手過ぎるくらいなくせに!!
電飾は光って無いんですね!って言ってやる!! 言ってやるぅ!!
「やっぱり『きたりの方』は恥知らずですわね。せっかくのパーティーを彩る気遣いもできないなんて」
しかし、先に大黒さんからそう言われて、喉から出かかった言葉をのみこんだ。
確かにその通り。自分が目立たないことだけ考えて、パーティーを盛り上げることなんて考えてなかった。
自己中過ぎるところは、いまだになにも変わってない。不甲斐なさに思わず俯いた。
大黒さんは勝ち誇ったように顎を仰け反らせる。
「私は先ほど晏司君から眩しいね、ってお褒めの言葉をいただいたところよ。アナタが芙蓉生としてあまりにもみっともないから、情けをかけて貰ってるって自覚なさい」
ズシリと響く言葉にクラリとした。
不意を突かれたところで、大黒さんの翻った肩先があたり、私は押し出されるように前にのめった。
目の前のテーブルには、ツリーの形をしたクロカンブッシュ。薙ぎ倒してはいけないと、慌てて手を引っ込めれば、体ごとよろめいた。履き慣れないヒールがぐらつく。
転ぶ!!
おもった瞬間に腰を強く抱かれて驚いた。
振りかえれば、光毅さまがニッコリと笑っていた。
うわぁぁぁぁ! ポヨポヨお腹がばれてしまった。いや、いつもこうじゃないんだよ? 今日、いや、今だけなのよ?
じゃないよ! 招待されてたんだ? うそ、さっきの見られてた? 光毅さまの前では可愛い妹キャラでいたかったのに、口汚い性悪がばれてしまった……。
顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。恥ずかしすぎて、泣きたくなる。慌てて顔をそらして俯いた。
「大丈夫?」
「大丈夫です! ありがとうございます!」
腕から離れて、深々とお辞儀をした。ああ、最悪。逃げ出したい。
やっぱり口喧嘩とかダメだった? ダメだったんだよなぁ……。でも、どうにも我慢できなかったんだもん。
はぁ、神様のイケず……。
「では、これで!」
半泣きになって逃げ出そうとしたら、光毅さまに手を引かれた。
ドキリとする。
「姫奈子ちゃんが来てるなんて知らなかった。教えたら修吾がびっくりするだろうな」
まるで何にも見ていなかったかのように、ニコニコと光毅さまが微笑みかけてくれた。
光毅さまは、今日もキラキラと輝いている。すらりとした長身に、黒いスーツ姿。白シャツが日に焼けた肌に眩しい。カッコいい。
私も修吾くんを思い出して、ギクシャクとだったけれど、とりあえず微笑んだ。修吾くんは夏以降、私の家にもよく遊びに来ているのだ。
「修吾くんは元気ですか?」
「ああ、元気だよ。ねぇ、修吾に写真を送ってやりたいから一緒に写真を撮ってくれない? 夜空の星みたいな姫奈子ちゃんを見せてあげたいな」
言葉にして聞いてきたりはしないけれど、やっぱりさっきの醜いやり取りは耳に入っていたらしい。しかも責めたり軽蔑を微塵も見せずに、フォローしてくれる。相変わらず光毅さまは紳士的だ。こんな子供もレディーとして扱ってくれるのだ。
隠密女と罵られた私に、こんなに優しくしてくれる。素敵な大人のお兄さまなのだ。ああ、やっぱり好き、素敵。
一気にテンションが上がってしまう。
「もちろんうれしいです! あの、私のスマホでも撮っていいですか? 彰仁に自慢したいので」
彰仁を言い訳にして光毅さまの写真をゲットしようと試みる。光毅さまはあっさりと了承してくれた。やったー!!
「だったらあっちのツリーで取ろうか」
「はい!」
大きなツリーの前に二人で立って、撮影してくれるスタッフに向けて笑顔を作る。光毅さまは私にあわせて屈んでくれた。こうやって並べば、明らかに大人と子供とはっきりするが、それでも嬉しい。
写真は彰仁に自慢したのちに、待ち受けにしよう! そうしよう!
「姫奈子ちゃんは、あの子たちと仲が良いの? お友達?」
氷川くんたちのテーブルを見ながら光毅さまが尋ねる。
友達かと尋ねられて顔が赤くなる。詩歌ちゃんのことは友達だって言っていいよね? いいよね?
「はい! 浅間さんはお友達です!」
思わず元気いっぱいに答える。
「そうなんだ。あと二人は氷川くんと晏司くんだよね? どっちか彼氏?」
氷川くんと八坂くんはやっぱり顔が広い。
「まさか! 同級生なだけです」
「仲良さそうに見えたけど?」
冷やかすように笑う笑顔もカッコイイ。
「違います」
だがしかし! 全力で否定だ。光毅さまに誤解されたくない!
可能性なんかないよ? わかってるよ? でも、それでも嫌なものは嫌だ!
光毅さまは優し気な笑顔で頷いた。
「今度はうちにも来てよ。修吾も喜ぶ」
「喜んで!」
全開の笑顔で返して、光毅さまと別れた。
はぁぁぁ、もう今日は大満足だ。これ以上の至福はない。







