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【6巻電子書籍&POD化7/25】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻②発売中
番外編

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番外編 6.返事をしてはいけないよ


「姫奈、ちゃんと手を繋いで!」


 怒りっぽく綱が言う。


「えー、もう大丈夫よ」


 嬉しく思いつつ私は答える。綱の答えはわかっている。


「また迷子になりますよ!」


 わかっているけれど止められない。


「でも、また綱が探してくれるでしょ?」


 小首をかしげて尋ねると、綱は肩をすくめて苦笑した。


「まったく、あなたって人は……」



*****


 あれは私が七歳の冬のことだった――。



 朝から雪が降っている。黒い靴に雪が触れて消えた。お父様と生駒はお寺のスタッフと今日の段取りを話している。


 綱は今日、学校の友達と雪遊びに行ってしまった。私もそっちに行きたかったけれど、お祖父様の三回忌で私は遊びに行けなかったのだ。綱はうちの子じゃないからと、参列しないでいいらしい。


 隣に並ぶお母様を見上げる。片手で傘を差し、もう片方の手はあっくんと手をつないでいる。


「ねぇ、お母様、私も一緒の傘に入れて?」


 お母さまの袖を摘まむと、軽く振り払われる。


「姫奈子ちゃんはお姉様なんだから、自分で傘をさせるでしょう? きちんとしないと恥ずかしいわよ」


 そう言うと、お母様は前を向いた。


(恥ずかしいってなによっ!) 


 私はふくれっ面して俯いた。

 すぐに、知らない女性がやってきてお母様に挨拶する。

 芙蓉学院の制服でお母様の隣に立つあっくんを見て目を細めた。


「まー、彰仁くんは芙蓉学院の幼等部ですってね。将来有望ね~!」


 興奮気味な甲高い声が聞こえる。


 あっくんはオドオドと頭を下げ挨拶をした。


 女性は私の制服を見ると、一瞬目を泳がせた。


 私は自分自身を眺める。私の制服は桜庭学園初等部のものだ。


(私の制服は一番可愛いんだもの! 芙蓉より可愛いから、私はお姫様なんだから、失敗したんじゃないもの! 神様が桜庭に行けってしただけなんだもの!)


 お祖父様の言葉を思いだし、キュッと唇を噛み、女性を睨みあげる。


「……姫奈子ちゃんは、……まぁ、お元気そうね」


 私はツンと無視をした。


(なによ、あっくんは将来有望なのに、私は元気? どういうこと!?)


 お母様は私を睨み、窘める。


「ほら姫奈子、挨拶なさい」

「……」


 私は無視を決め込む。


「あらあら、緊張しているのかしら?」

「本当に申し訳ございません。躾が行き届いておらず……」


 頭を下げるお母様を見て、私は胸がチクンと痛む。

 むしゃくしゃして、淋しくて、なんだか自分が可愛くなくて、彰仁より全然駄目な気持ちがして、泣きたくなって俯いた。


(でも、だって! 悪いのはそっちだもん!)


 私はフンと鼻を鳴らして、その場から離れる。


「姫奈子! どこ行くの!」

「向こうの雪が掛からないところ!」

「知らない人について行っちゃ駄目よ!」

「わかってるもん!」


 私はお母様達から離れ、大きな杉の木の下へ向かった。木下の地面は真っ黒で雪がない。ここなら傘を閉じても大丈夫そうだ。

 私は杉の木に寄りかかり、傘を畳む。


(つまんない! つまんない! つまんない!)


 私は行き交う傘と黒い服ばっかりの大人達を見て、むしゃくしゃしていた。

 今日は、お父様も、生駒も忙しい。お母様はあっくんにつきっきりで、お祖父様は。


(お祖父様は黒い枠の中で笑ってる)


 私はキュッと手を握った。


 お祖父様は私が小学生になる前の年にお空の星になってしまった。それから、二年。今日はお墓のあるお寺にいる。


(こんなのなんの意味ないわ。お祖父様はここにいないんだから)


 みんな真っ黒な服装で、真面目な強ばった顔をして、誰が誰だか見分けがつかない。誰も彼も同じように見える。


(なんだかみんな顔が似てるんだもの)


 よく知らない人たちが集まって、わからないことばかり話している。


(お祖父様……。どうして、いなくなっちゃったの……。お受験終わったら、ちょこちゃんに会いに行くって約束したのに!)


 入院したお祖父様には、「子供は病院には入れない」とかでぜんぜん会えなかった。


(検査入院だって言ってたのに……)


 帰ってきたときは、口もきけない姿だったのだ。


(お祖父様は桜庭初等部の制服、一番可愛いって言ってたのに、見せてあげられなかったな……)


 ポトリ、足もとに涙が落ちる。

 もう、嫌だ。自分のことを私と呼ばなくてはいけない。「ひー」と呼ぶだけで窘められる。「次は頑張りましょう」と始まった、中等部受験の勉強。

 あっくんは、もう受験がないから、お母様と一緒に遊べる。

 私だけ駄目。私だけ駄目な子だから。


(どうせ、私なんかいらないんでしょ?)


 もう、手もつないでくれない。ひとりぼっちでも誰も来てくれない。


(もう、ヤだな。私もお祖父様のところへ行きたいな)


 誰も私のことなんか見ない。二回目も失敗しちゃったから。あっくんだけがいればいい。白山に私は必要ない。

 頑張ったのに頑張ったけど。


(淋しいよ。お祖父様。早くひーのこと、迎えに来て――!)

 

 ホロリと零れる涙は熱いのに、頬に触れた途端冷え切って心を凍らせる。

 すると、頭の上が突然陰った。黒い革靴、黒いズボンが目の先に見える。


「ひーちゃん? 泣いてるの?」


 私は顔を上げる。

 見覚えのない男の人だ。真っ白い髪で、白い口ひげを生やした上品そうな男性だ。お祖父様と同じくらいの年齢に見える。


(なんだか、絵本で見た仙人様みたい)


 白い口ひげのおじいさんは私に真っ白なハンカチを手渡した。


「ひーちゃんが泣いているとおじいさんも悲しいよ」


 おじいさんはそう微笑んだ。

 私はハンカチを受け取り涙を拭く。


「少し、向こうで甘い物でも食べようか。ひーちゃん、お汁粉好きでしょう?」


 おじいさんはお寺の先を指さした。参道には甘味処があるのだ。

 知らない人についていったら行けないって、言われた。


(でも、この人はひーちゃんて呼んだ! お祖父様のお友達なんだわ!)


 見分けがつかない黒服の集団の中、唯一私を気にかけたくれた人だ。

 お祖父様の友達なら、知っている人に違いない。

 私は黙ってコクンと頷いた。

 おじいさんはポンポンと私の頭を撫でると、手を差し伸べるた。私はその手を握りしめる。


(お祖父様と一緒、カサカサでシワシワで、大きくてゴツゴツで、気持ちが良い……)


 心の中にブワリと温かい空気が広がった。


「お祖父様といっしょ……」


 思わず呟くとおじいさんはニッコリと微笑んだ。


「ひーちゃんはお祖父様に会いたいかい?」

「うん! ひーはね、お祖父様が大好きだったの。お祖父様のお友達もね、だーい好きだったの。でもね、みんな駄目だっていうのよ。チョコちゃんにももう会えないの。忙しいからってね、ひーだけじゃ行っちゃ駄目だっていうのよ」


 スンと鼻を鳴らす。

 おじいさんは傘を広げると、私と手を繋いで歩き出した。


(こうやって、誰かと一緒に手を繋いで歩くの、久しぶり)


 お父様は帰ってこない。お母様の手はあっくんが握っている。お祖父様はもういないから。


(あ、でも綱はつなぐわね。綱は大人じゃないけど)


 思いだして小さく笑うと、おじいさんは不思議そうに私を見た。

 雪の舞い散る参道を歩いて行く。いつもお祖父様と入った甘味処の前を通り過ぎる。


「ここじゃないの?」


 私が尋ねると、おじいさんはユックリと頷いた。


「今日は特別なところに連れていってあげる。じつはひーちゃんのお祖父様も来るんだよ」

「本当? 絶対行くわ!」


 おじいさんは私の手を力強く握った。ちょっとビックルするぐらい強い力だ。でも、私はそれが嬉しくてブンブンとふってみる。


 参道の脇道を入る。丸い石が置かれた角を曲がって、暗くて細い路地を行く。

 赤い鳥居をくぐると雪が止んだ。でも、雲はそのままなのか辺りは薄暗い。長くツずく赤い鳥居を通りながら、こんなところにこんな道があったのかと不思議に思う。


 しばらく行くと小さなお店が見えてきて、おじいさんはそこのドアを開け中に入る。

 中は、白山茶房によく似た素朴なお店だった。ありふれたテーブルに椅子が四脚。外と一転して温かい。

 濡れていたはずの靴もいつのまにか乾き、暖かい部屋の中で眠くなってくる。炊いた小豆の薫りが心落ち着かせた。

 ふたりで席に着くとおじいさんは壁の張り紙を指さした。


「ひーちゃんは、なにが好き?」

「ひーはね、やっぱり、お汁粉がいいなぁ」


 ここでは無理して私と言わなくても怒られない。

 ひーは、ひーのままでいられる。


「じゃあ注文しようか」

「でもね、お祖父様が来るんでしょ? だったら、お祖父様が来てからにするわ。一緒に温かいのを食べたいもの」


 そう答えると、おじいさんは目を細めた。


「そうかい。ひーちゃんはお祖父様にどんなお話をしたいのかな?」

「だってね、お祖父様に卒園式、来てほしかったの。入学式もお祖父様とお祝いしたかったの。ひーのお誕生日に会いたかったの! お話ししたいことがいっぱいあるの!」

「学校は楽しいかい?」

「うん! ひーはね、桜庭大好きなの。だって、絶対世界で一番可愛い制服だし、お友達もいっぱいいるし」

「ふんふん。ひーちゃんは学校が好きなんだね」


 言葉にされて頷く。


「でもね、まわりはそう思わないのよ。大人の人はひーのこと、【お受験に失敗した可哀想な子】って目で見るの」

「そんなことないでしょう? 桜庭は立派な学園だよ」


 おじいさんは否定する。

 私はフルリと頭を振った。


「うーんとね。学校が良いとか関係ないの。どうして大人の人がそんな目をするかっていうとね。お母様のことを、【子供を失敗させた親】って馬鹿にしたいからなのよ。だからね、ひーがいなければ、お母様はそう思われなくなるんです」


 自分で説明して悲しくなる。

 大人たちは子供はなにもわかっていないと思い込んでいるけれど、そんなことはない。上手く言葉にできない、どうやって伝えたら良いのかわからない、そもそも聞いてくれる人がいない、それだけだ。


(恥ずかしい娘なんて、どうせ、いらないんでしょう?)


 振り払われた手。お母様の手はもう私のものじゃない。あっくんがいればいいのだ。

 ウキウキとあっくんの制服を準備するお母様。

 反対に私は気遣われる。みんな腫れ物に触るように優しくて、それがかえって惨めになった。息苦しくて、誰かに言いたくて、でも、お祖父様はもういない。

 俯いて呟いた。


「ひーね……。お祖父様のところに行きたいわ」


 ポツリ、涙が落ちた。


「ならば願いを叶えてしんぜよう」


 おじいさんは突然厳かに言った。


「連れて行ってくれるの? そんなことできるの?」

「七つまでは神の内、だから心配はいらないよ」


 ニタリとおじいさんは笑った。


「お迎えを呼んできてあげようね。」


 おじいさんはそう言うと席を立った。同時に視界が暗くなった。


「キャ!?」

「お祖父様に呼ばれるまで、誰にも返事をしてはいけないよ。答えたらそのモノに連れていかれてしまうから」

「どういうこと!?」

「ちゃーんと、耳を澄ましているんだよ。悪いモノは声真似をしてひーちゃんを攫いに来るからね」


 その言葉を最後に、静寂に包まれる。


 私は急に怖くなる。真っ暗闇で、小豆の匂いもしてこない。乾いたはずの靴は濡れ、空気はキンキンに冷えている。


(お祖父様のところへ行くって、死んじゃうってことだったの!?)


 いまさら気がつきブルリと震える。立ち上がろうとしても体に力が入らない。


(どうしよう!)


 声をあげそうになって両手で口を塞いだ。悪いモノに見つかったら攫われる。誰かが助けに来てくれるまでジッとしていたほうがいい。


(お祖父様が来るまでジッとしてなきゃ! お祖父様ならお話しすればわかってくれるはず!)


 ガタガタ震えながら暗闇で息を殺す。

 すると微かな声が聞こえてきた。


<ひーちゃん! ひーちゃん! どこにいるの!>


 お母様の声だ。


(悪いモノだったらどうしよう……)


 耳を澄まして吟味する。


<お願い、ひーちゃん! 帰ってきて!>


 『知らない人について行っちゃ駄目よ!』と言ったお母様の不機嫌そうな顔が頭をよぎる。


(違う。お母様はもうひーちゃんなんて呼んでくれない。帰ってきてなんて思ってない。それに本当のお母様だったとしても、約束破って怒られる。また、駄目だって、言われちゃう)


 自分自身をギュッと抱きしめる。あの声には応えられない。


 今度はお父様の声が聞こえる。


<姫奈子! どこにいるんだ姫奈子!>


 これだって嘘。お父様がこんなに必死になるわけない。


<お嬢様、どこですか? 生駒はここにおりますよ>


 今度は優しい優しい生駒の声。でも信じられない。悪いモノかもしれない。


(どうしよう、どうしよう。お母様の言うことをきかなかったから罰が当たったんだわ)


 私を呼ぶ声が闇の中で響いている。

 みんな本物のように聞こえて、嘘のようにも聞こえる。

 考えれば考えるほどわからなくなる。頭がガンガン痛くなり、もうなにも考えたくない。


(死んじゃったらどうなるのかな? もう、綱と遊べないのかな? もっと一緒に遊びたかったな)


 脳裏に浮かんだのは、最近、お気に入りの男の子。


(雪が降ったら雪だるまを作るんだって、約束してたのに)


 でも、もうきっと無理。

 まつげが凍って目が開かない。

 ドンドンドン、闇の中に壁を叩く音が聞こえて、ハッと覚醒する。


「お嬢様!! 姫奈子お嬢様! ここですか? ここにいるんですか!?」


 綱の声に驚いて、思わず声をあげた。


「え!? 綱? なんで、ここに?」

「お嬢様! 無事ですか? 大丈夫ですか?」

「え、うん。大丈夫……」

「今開けます、待っていてください!」


 綱に言われて素直に従う。

 外で、綱が叫ぶ声がする。


「お嬢様はここにいました! 誰か! 来てください!! かんぬきが凍っていて開かないんです!」


 周囲が喧噪に包まれて、しまったと気がついた。


(もし、違ったらどうしよう。綱じゃなかったらどうしよう)


 聞き間違えるはずのない綱の声。でも、あまりにも都合がよすぎる。

 だって、綱は遊びに行っているはずだから。友達と一緒にいるはずだから。

 闇に雪とともに一筋の光りが差し込んでくる。

 眩しくて目をこする。

 逆光の中手を差し伸べてくるのは、綱。


「いました! お嬢様がいました!」


 私はその手を取って、綱に抱きついた。


「つなぁ!!」


 刹那。


――あと少し、だったのに――


 背中の後ろでおじいさんの声が響いて、ゾッとして振り返る。

 そこは、お店などではなくうらぶれた小さなお堂だった。入り口の脇には、かんぬきが転がされている。

 呆然とする私をお父様は綱ごとギュッと抱きしめた。


「よかった……。無事でよかった。姫奈子」


 その安堵の吐息の熱さと、私を抱きしめる腕の強さに驚いた。


「ごめんね、ひーちゃん! 私が目を離したからっ! 手を繋いでいればよかったわ。ごめんなさい、ごめんなさい!」


 お母様は取り乱し泣いている。


(もしかして、ふたりとも心配してくれたの?)


 お父様は雪空の中、ジャケットを脱いで汗まみれだ。グチャグチャに汚れた靴に、スラックスに泥が跳ねている。

 お母様の化粧は涙で流れ、まとめ髪も崩れていた。

 必死に探してくれていたことがわかる。


(私、いらない子じゃなかったの?)


 信じられないが、心がホカホカと温まってくる。


 生駒は綱に問いただす。


「綱守、なんでここだとわかった?」

「遊びから帰る途中、どなたかと一緒に行かれるところをお見かけして。ひょっとしてと思って」

「なぜ、すぐに言わなかった!!」


 生駒が綱を叱責する。


「止めて! 生駒! 綱だって私の知り合いだと思ったんでしょ」


 私が言うと綱は頷いた。


「……でも、戻られないと聞いて、あのときの……と思い、足跡を追いかけたんです。そうしたら、ここで足跡が消えていたので……。すみません。あのときすぐに声をかけるべきでした」


 震えシュンとする綱を、お母様が抱きしめる。


「いいえ! よく探してくれたわ! 綱守くん! 本当にありがとう! 本当にありがとう!!」


 涙して礼を言う。


「生駒、綱守を責めるな。さすがお前の子だな。この状況で、とても冷静で素晴らしいじゃないか」


 お父様は生駒を窘める。

 恐縮する生駒を背に、お父様は綱の前に屈み込んだ。


「姫奈子を見つけてくれてありがとう。助かった。これからもよろしく頼む」


 そう言って、ポンと綱の頭を撫でた。


「ほら、姫奈子も礼を言いなさい」

「お礼なんていりません。お嬢様がご無事でよかったです。本当に心配しました」


 そういう言葉が真実に聞こえて、問い返す。


「綱は私が無事でよかったの?」

「ええ。もちろんです」


 不思議そうにキョトンとする綱。


「なんでよ」

「お嬢様がいなかったら淋しいです。お嬢様も大切な人に二度と会えなくなるのはとても悲しいですよね?」


 綱の答えに、私の心に灯が灯る。


――綱にとって、私は大切な人だったの?――


 駄目な子、失敗、恥ずかしい子、そんな私でも大切だって言ってくれる。


 生駒が綱の頭に手を置いた。


「この子は母を亡くしていますから……」


 生駒の顔は、無理して取り繕って笑っているような歪さだった。黒い瞳が潤んでいて、すべて察する。


 私は今更、事の重さに気がついた。


「ごめんなさい! 私! ごめんなさい!! 心配かけてごめんなさい!!」


 お父様の腕の中で、私はワンワン泣いて謝った。

 

 私がお寺からいなくなって、それは大きな騒ぎになっていたらしい。

 警察に連絡するかという直前で、綱が私を見つけてくれたのだ。

 綱は雪道に残された私ともうひとつの足跡を追い、お堂の場所を突き止めたそうだ。

 しかし、お堂から出たはずのおじいさんの足跡はたどれなかった。

 集まった人々の足跡でかき消され、グチャグチャになっていたからだ。


 警察で一応調査はおこなわれたが、私がいくら説明しても、誰も信じてはくれなかった。

 防犯カメラには、ひとりで歩く私の姿しか映っていなかった。そのため、仙人みたいなおじいさんの話は私の妄言だと思われたのだが、綱が見た人と特徴が一致していて、皆が首をひねった。

 仙人様みたいなおじいさんは関係者の中に見当たらず、知らない人についていった私はみっちり叱られた。

 ただ、お堂の扉にかんぬきがかけられていたことから、私の自作自演を疑われることがなかったことだけは幸いだ。

 結局事件は迷宮入りで、『現代の神隠し』なんていわれてしまった。

 以降、両親は過保護となり、結果、淋しかった私の心は満たされたのだった。


 ループした今なら思える。

 あれは、本当に神隠しだったのかもしれない。

 あのとき綱の声に応えなかったら、私は死んでいたに違いないのだ。


*****

 

 当時のことを思い出し笑いする。

 すると、綱が不愉快そうに眉を顰めた。


「なんです?」

「なんでも?」

「なにか言いたげですけど?」


 綱に問われて、唇がニマニマ緩む。


「だって……」

「だって、なんです」

「だって、お堂で見つけてくれてとき、まだ綱ってうちに来たばっかりだったじゃない?」

「そうですね」

「それなのに、見つけてくれたのってすごいなーって」


 私が言うと、綱はバッと顔を赤らめた。

 私もそれにつられて顔が赤くなる。


「え……? もしかして、綱って……」


 私は問いかけると、つないだ手を彼は強く引っ張った。


「ほら、早く行きますよ! 時間です!」

「そんな、まだ、時間あるでしょう?」

「ないですよ! さぁさぁ、行きますよ!」

「えっ! ちょっと教えてよ!」

「黙秘です! 黙秘」


 そう言って、グイグイ私を引っ張っていく。

 後ろから見てもわかるほど熟れた耳たぶが赤く色づいている。

 つないだ手は力強くて温かい。

 黙秘だと言われても、その答えは明瞭だ。


(でもね、私もいつか伝えられたらいいな。綱に呼ばれたから帰ってきたんだって)


 ありありと思いだす、仙人のようなおじいさんの言葉。


『答えたらそのモノに連れていかれてしまうから』


 アレは予言だったのか、呪いだったのか。

 今ではわからないけれど。


(そんなのどうでもいいわ)


 綱と一緒ならどこにだってついていくから。




end


『神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフ~⑥』最終巻配信記念の番外編です。

皆様のおかげで最終巻まで刊行できました。

各巻描き下ろし番外編がありますので、ぜひ読んでみてください。

そしてお手すきだったら、ご利用サイトで評価などいただけると嬉しいです!

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