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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@お飾り側妃は糸を引く7/5発売
番外編

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番外編 2. 島津兄弟急襲 下


 会議室を出たところで、修吾くんが立ち止まり申し訳なさそうに言う。


「すみません。兄は別の仕事で立て込んでいるようで、姫奈子お姉さんと先に食事をしているようにと連絡が来ました」

「お仕事だもの。気にしないで」

「最上階のレストランを予約してあるそうです」


 私は修吾くんに案内されてレストランに向かった。

 

 SBテレビの最上階には高級フレンチレストランがある。本来なら子どもだけでは入れないようなお店だ。

 私たちは、そのレストランの窓際の特等席に案内された。出されたメニューにはドリンクとコース料理のものだ。金額は表示されていない。


 やだぁ! 大人のデートみたーい!! やっぱり光毅さまかっこいい!!


 スマートな光毅さまの計らいに、キュンキュンしてしまう私である。


 先に食事をしていて欲しいとのことで、修吾くんと二人で食事を楽しむ。

 今日のお買い物の話から、企画会議の話など、共通の話題があるからいつもより話も弾む。彰仁の学校の様子や、修吾くんのテニスクラブの話を聞いて、私は中等部の話をする。


「来年は一緒の学舎ですね」


 修吾くんが嬉しそうに笑って、私も嬉しくなる。


「そうね。すっごく楽しみ! 毎日会えるわね」


 そういえば、修吾くんは頬をうっすらと赤らめ、窓に目を向けた。

 大きな窓からは、東京タワーがバッチリと見えた。

 

 きっと光毅さまなら、こういう所でプロポーズしたりするんだわ! きゃー!!


 私は勝手な妄想で盛り上がる。


 そこへ光毅さまが現れた。

 首元を少しだけ緩めたネクタイ姿で、ちょっぴり悪い感じがする。なんというか、大人の色気だ。


「待たせたね」


 そう言って席に着けば、「いつもの」との一言でウエイターは頭を下げた。


 かぁぁぁぁこ、いいぃぃぃぃ!!!!  フレンチレストランの常連なんて、大人すぎて格好良すぎる! 私も早く大人になって、お気に入りのお店の常連になりたい!!!!


 キラキラとした目で光毅さまを見れば、光毅さまはなぜか私を見て笑った。


 ? なんで?


「二人のデートにお邪魔させてもらうよ」


 光毅さんの言葉に、キョトンとしてしまう。思わず首をかしげて、修吾くんを見れば、修吾くんは真っ赤な顔をして目をそらした。


 ……うん。なんだかわからないけど、かわいいわ。天使だわ。


「急なお願いだったけど、企画会議ありがとう。とても参考になったって担当が言ってたよ」

「こちらこそ、すっごく勉強になりました」

「それで、姫奈子ちゃんはやり手だねって、話題になってた」

「やりて?」

「白山茶房の宣伝したんだって?」


 光毅さまに言われてハッとする。

 もうそこまでバレていたのだ。


「あ、すみません。あの、」

「いや、謝らなくて良いよ。姫奈子ちゃんは流行を作る側になれると思う。応援してる」

「はいぃぃ!」


 光毅さまにニッコリ笑われて、メロメロの私である。


 そこで突如、レストランの照明が落ちた。

 

 そしてハッピーバースデーの生演奏が始まる。

 パチパチと花火の光るケーキがワゴンに乗ってやってきて、私たちのテーブルにケーキが置かれた。


「遅くなったけど……。ハッピーバースデー、姫奈子ちゃん」


 光毅さまがそう囁いて、私は胸がドキドキだ。かーっと耳まで熱くなる。

 慌ててほっぺたを両手で押さえて、顔を隠す。


「え? うそ、なんで?」

「ひな祭りが誕生日だって修吾から聞いたから。このケーキは修吾からだよ」

「ちょ、言わなくて良いいってっ!」


 修吾くんが焦って口止めをしようとする。


「弟の手柄を横取りしたりしないよ」


 光毅さまは悪戯っぽく笑った。


「修吾くんありがとう!!」


 修吾くんは顔を赤くしてブンブンと頭を振った。


「オレはこれくらいしかできないし」

「ううん! こんなの初めて! すごく嬉しい!」

「喜んでくれて良かった」


 私が言えば、修吾くんは嬉しそうに笑った。


「さぁ、ろうそくの火を消して?」


 光毅さまに促されて、ケーキの上のろうそくの火を吹き消した。

 その瞬間、周囲から拍手が沸き起こり、知らない人までもが口々におめでとうと声を上げてくれる。


「わぁ……、うれしい、うれしいです。本当にありがとうございます!」


 あまりのうれしさに瞳が潤む。

 こんな風に祝われたことは初めてで、ビックリして、感無量だ。

 ふたりに向かって深々と頭を下げた。


 光毅さまはそんな私の姿に、一瞬戸惑ったような顔を見せ、そして、意外にも、照れたように笑った。


「こんなに喜んでもらえると思わなかったな、修吾。……姫奈子ちゃん、かわいいね」


 光毅さまのレアなはにかみ笑顔に私はキュン死である。


 天にも昇るような心地で食事を終えて、ビルの車寄せに向かう。

 そこには既に島津家の車が待っていた。

 

「赤い車じゃないんですね」

 

 私が問えば、光毅さまがちょっと真面目な顔をして窘める。


「姫奈子ちゃん、気をつけて。夜に二人っきりで車になんか乗ったら、さらわれちゃうよ?」

「はーい。……でも、光毅さまになら攫われてもいいかも……」


 ゴニョゴニョと呟けば、光毅さまは更に真面目な顔をした。

 そして私をジッと見つめる。


 思わずドキリとする。急にグッと怖くなる。軽率な軽口を後悔した。


「あの……」


 謝りかけたその瞬間、光毅さまが耳元に顔をグッと近づけた。サラリと光毅さまの髪が私の頬を撫で、大人ぽいムスクの香水がさりげなく香る。


「っ!」


 ギュッと心臓をわしづかみにされたみたいに、心臓が痛い。ワクワクじゃないドキドキで、息を飲んで硬直した。


「本気にしたら困るくせに」


 光毅さまは含み笑いでそう囁いて、スッと離れた。


「ちょっと!」


 修吾くんが光毅さまのジャケットを引っ張って睨む。


「ごめん、ごめん。そんなに怒るな。姫奈子ちゃんがあんまり危機感がないからさ、大人がちゃんと注意しなきゃと思ってね」


 光毅さまは修吾くんを見て、おかしそうに笑う。


「わかった? 姫奈子ちゃん」


 笑顔の光毅さまに言われ、私は言葉も出ずにコクコクと頷いた。


 一瞬すごく怖かった……。でも、でも、やっぱり、かっこいい!


「さぁ、二人は後ろに乗って」


 光毅さまに言われるがまま、私と修吾くんは後部座席に乗った。

 あっという間に家について、玄関まで修吾くんが送ってくれる。

 そして別れ際に、修吾くんがポケットから小さな紙袋を取り出して手渡した。ずっとポケットに入っていたのだろう、少しよれてクシャッとなっている。


「……あの、こっちは兄には内緒で用意したんですけど……」


 ひどく肩身が狭そうにオズオズと差し出されたしわくちゃな紙袋。それがなんとも子どもらしくて可愛くて、私は胸がいっぱいになった。


「ありがとう! うれしい!!」


 受け取ってその場で開けば手のひらサイズのテディーベアだ。


「かわいい! 大事にするわね!」


 私の答えに、修吾くんは安心したかのようにパッと笑顔を輝かせた。


「今日は楽しかったです! また遊んでください!」


 修吾くんは元気にそう言うと、車寄せまでかけていった。

 その元気そうな背中が少年らしくて微笑ましい。

 そして、車に乗る前に私に一度頭を下げる。車に乗ってから、窓ガラスを全開に開けてバイバイと手を振った。


 寒いのに元気だな。


 私はホッコリとした気持ちで見送って、部屋に戻った。


 

 部屋に戻ってテディーベアをじっくりと見る。

 茶色い毛皮の可愛い子だ。首に掛かった金色のチャームには『SHU』と刻印がしてあった。瞳の感じが、ちょっと修吾くんに似ている。


「へー、君は『しゅう』くんなのね。大事にするわね、しゅう君」


 チョンとつつく。

 そして、足に刺繍があるのを見つけてのけぞった。


 ええ!? これって有名ブランドじゃない!?


 あんな紙袋で、ポケットから気さくな感じで取りだしたから、普通のぬいぐるみだと思って気楽に受け取ったのだが、よくよく見るとそうではない。

 正規サイズのアンティークには法外な値段がつけられることもあるのだ。

 

 足にはブランドのマークと『1』と数字が刺繍されている。多分シリアルナンバーだ。これはそれなりのレアもので、大切にしなければならない。


 ……修吾くん……。末恐ろしい小学生男子じゃない? 彰仁なんて絶対無理よ。絶対、良い彼氏になるわ。さすが光毅さまの弟だけある。


 私はゴロリとベッドに転がって、小さなテディーベアを胸に抱いた。


 きっと光毅さまも誕生日を兼ねていろいろしてくれたんだわ。服なんて白山家うちに用意させれば良いことだもの。でも、口にしないところが大人よね~。


 そして幸せだった一日を反芻はんすうし、ニマニマと頬が緩んだ。


 大人になったら、こんな風にしてくれる彼氏、できるのかしら? 


 ふとそんなことを思い、

 

「これ以上なんてないわよね」


 思わず一人呟いて、小さく笑った。





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