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【6巻電子書籍&POD化7/25】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻②発売中
番外編

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番外編 3.私が子供なわけじゃないんですからね?

 今日はとりの市だ。

 白山茶房の店長が熊手を買いに行くと言うから、一緒に行くことにしたのだ。


「ほら、迷子になりますよ」


 家の車から降りるなり、お小言を言っているのは、当然綱である。


「もう、店長さんと一緒だもん! ひとりでも大丈夫だって言ったのに、お母様ったら綱を付き添わせて」


 プンとほっぺを膨らませれば、綱は冷たい目をして鼻先で笑った。


「店長さんひとりでは大変だと思われたのでしょう。人混みですし、暗いです」


 綱はそう言うと当たり前のように手を差し出した。

 私は渋々その手を握る。

 神社から少し離れた駐車場で待っていた店長さんと合流した。店長さんは、去年の熊手を納めるべく、大きな熊手を担いでいる。白山茶房の神棚に飾ってあったものだ。

 手を繋いでいる私たちを見て、店長さんはニッコリと微笑んだ。


「仲が良いですね」

「いいえ」


 店長さんの言葉に、綱は間髪いれずに返事をする。


「私は奥様からお目付役を言いつけられているだけです」


 ツンと答える綱にムッとして、私はバッと手を振り払った。


「私だって、お母様に大丈夫だって言ったもん!! お母様も綱も私を子供扱いしてひどい!」


 フンとそっぽを向く。


「まったくです。お嬢様はこの年で白山茶房のオーナーです。もう、子供扱いはいけません」


 店長さんがそう言って、私はキラキラとした目を向けた。


「そうよね!」

「ええ、そうですとも! お嬢様の案内は私がするから大丈夫ですよ」


 店長が綱に言えば、綱はウッと言葉を詰まらせた。


「ありがとう! 店長さん! やっぱり頼りになるわ! 大好き!」


 私がそう言って、店長さんの腕にすがりつくと、店長さんは照れたように頭をかいた。


「いやぁ、お嬢さんにそう言ってもらえると、おじさんは嬉しいなぁ。娘だって祭りには一緒に来てくれなくなったから」


 綱はそんな私を店長さんから引き離した。


「姫奈、迷惑になりますよ!」

「迷惑ですか?」


 私が店長さんに問えば、店長さんは首を振る。


「いや、ぜんぜん?」


 店長は答えてから、プハッと噴きだした。

 そして、綱の頭をポンポンとはたく。


「まぁ、俺はこんな大きな熊手を持ってますから、綱守くんにお嬢様は任せたほうが安心ですね」


 店長さんはそう言うと、私の手を腕から外し、その手を綱の手に乗せる。


「はい、お嬢様。俺はお嬢様を大人だと思っていますがね、綱守くんの顔を立ててあげてください」

「綱の顔?」

「ええ、奥様からの言いつけを破るわけにはいかないでしょう?」


 店長さんはそう言って、綱を見た。

 綱は気まずそうに俯いて、ギュッと私の手を握る。


「……そういうことです……」

「ふーん? じゃあ、しょうがないわね」

「はい」

「綱も心しておきなさいよ? 私が子供なわけじゃないんですからね? お母様が心配性なだけなんですからね?」


 綱は、ハイハイとため息交じりに雑に答える。

 店長さんは肩をすくめて、小さく笑った。


「さて、いきましょうか」


 店長さんを先頭に、神社に向かって歩いて行く。


 十一月の放課後は日が暮れるのが早い。夕暮れの街角は、酉の市に向かう人々でごった返している。

 向かいから帰ってくる人たちは、新しい熊手を担いでいる。これで来年の福をかき集めようと言うわけだ。

 昨年の熊手を古熊手納所に収める。

 真っ赤な鳥居をくぐり抜け、にぎわう境内を歩く。熊手はもちろん、有名な芋羊羹のお店や、屋台も出ている。焼き鳥のかぐわしい香りが漂ってきて、小腹が空いてきたと思う。


「わぁぁぁ! すごい! いっぱい!」 


 思わずフラフラと店先へ引き寄せられる。

 二つ目の鳥居のあたりで十字路になり、私はワクワクと立ち止まる。思わず右手の店につられれば、人の波に攫われる。

 キュッと手を引っ張られハッとする。

 綱が呆れたように私を見る。


「お詣りが先ですよ」

「はぁぁい、わかってまーす」


 ふくれっ面で答えれば、店長さんが振り向いた。


「こりゃ、綱守くんが一緒で良かったな」

「店長さんまで!」


 憤慨すれば、綱が引っ張る。


「ほらほら、先へ行きますよ」


 そう言って、社殿へ向かう。夜空にほの明るく提灯が立ち並ぶ姿は、お祭りらしい。


 綱はいつもどおりの無表情で、提灯の名前を読んでいる。落雁のような白い肌に、小豆色の影が落ちる。提灯のせいなのか、その姿が妖しくて、知らない世界へ攫われてしまいそうだ。

 突然私は怖くなり、キュッと綱の手を握りしめた。

 綱は視線を提灯に向けたまま、表情も変えずに私の手を握り返した。

 ギュギュギュと三回。大丈夫、そういう意味。

 私はそれにホッとして、答えるように三回握り返した。


「お嬢様、それと綱守くんへ」


 お札を頂きいただいてきた店長さんは、私たちへお守りの入った袋をひとつずつ渡してくれた。

 お詣りをすませたところで、熊手を選びに境内を見て回る。


「私、黄金餅が欲しいの!」

「やっぱり、花より団子ですね」


 私の今日の目当てを言えば、綱がつっこむ。


「俺はかしらの芋を買っていこうと思っています」


 とりあえず焼き鳥を買って三人で食べる。お土産に切り山椒を買い、飴細工のお店を見てその技術に感心する。

 お腹が落ち着いたところで、熊手を買いに行く。


 屋台には芸術的な熊手が大小取りそろえられている。ギッシリと立てかけられた熊手は、商売繁盛を願う縁起物がたくさんついていた。

 七福神や打ち出の小槌こづち、大判小判などにぎやかだ。

 店では、丁々(ちょうちょう)発止はっしの値切り合戦が繰り広げられ、商売が成立すると手締めがおこなわれる。

 下町らしい活気と賑わいがお祭りらしさを盛り上げている。


「では、お嬢様、今回はお嬢様が買ってみますか?」


 店長さんに勧められ、私は店長さんの馴染みの熊手屋さんで熊手を買ってみることにした。

 店の前に立って熊手を眺めると、すぐに威勢の良い声がかかる。

 店の中には、すでに白山茶房の札がついた熊手があった。笑門しょうもん来福らいふくと中央に書いてある。

 熊手屋さんと店長さんは顔見知りらしく、常連の店長さんを見て相好を崩した。


「先代からの付き合いなんですよ」


 店長さんが教えてくれる。お祖父様の付き合いがこんなところで生きていて、私は少し嬉しくなった。


「あの熊手を買うわ!」


 私が言えば、店の主人が答える。


「あれは十万円だよ」

「予算は七万円なの」

「ラッキーセブンか。なら、この小さいほうはどうだい」

「どうしてもあれが欲しいの」


 ニッコリ笑っておねだりしてみる。


「まけた、まけた、八万!」

「買った買った!」


 値切り交渉を楽しんで、実際は祝儀を込めて十万円渡す。

 これがここでの文化なのだと、店長さんから教えてもらった。

 売買が成立すると、熊手屋さんが盛大にかけ声をかける。


「よーっ!!」


 パパパン・パパパン・パパパン・パンと拍手をしながら、あいだに合いの手をいれる。


「それ、それ、商売繁盛、繁盛!!」


 みんなで三本締めを打ち、手締めだ。

 ちょっとほかでは感じられないほどの爽快感である。


「ありがとうございました!」


 私たちが元気よくお礼を言うと、熊手屋さんからもお礼が返ってくる。とっても気分が良くなって、きっと来年も良い年になるだろう、そんなふうに思った。

 店長さんは太い竹で作られた大きな熊手を高々と掲げ、人混みの中を悠々と歩く。豪勢で立派な熊手は目立って、行き交う人が思わず振り返る。


「これで、来年も白山茶房は安泰です」


 上機嫌に店長が言って、私もご機嫌に答えた。

 黄金餅も買い、頭の芋も買えた。お芋は煮たものを届けますと、店長が言って、毎年この時期に届けられていた芋の煮付けは、これだったのだと初めて知った。


 帰りにみんなでおそばを食べて別れる。


 帰りの車に揺られながら、私は店長さんから貰ったお守りの袋を開けてみた。

 中にはピンク色のお守りが入っている。コロンとしたお守りに熊手がついていた。


「わぁ、かわいい~! 綱のは?」


 綱は私に言われて開けてみる。

 綱のお守りは、私のお守りの色違いで水色だった。


「おそろいね」


 私が言えば、綱は無愛想に「そうですね」と答える。


「これ、良縁のお守りだって! きっと私も良いご縁に恵まれるわ!」


 ふと気がついて、私が言えば、綱は大きくため息を吐きぼやく。


「……店長さん……」

「なによ?」

「なんでも」

「だって、あーんなに立派な熊手を買ったのよ? 彼氏ぐらいかき集めてくれるでしょ?」

「彼氏はかき集める物じゃありませんし、あの熊手は白山茶房の名前がついています」


 綱はあいかわらず面白みもなく答える。


「ああ、つまんない。夢ぐらい見たって良いでしょ?」


 眠たくなった私は、大きなあくびをした。

 ユラユラと暖房の効いた車に揺られて、お腹いっぱいの私は眠くなったのだ。


「顎はずれますよ。はしたない」

「家の車だもの、いいじゃない」


 そう答えて、もう一度あくびをする。目元の涙をゴシゴシ擦る。


「眠いなら、膝を貸しましょうか?」


 綱が、車の中にあったブランケットを自分の膝に広げながら言った。


「……ん」


 私は綱の膝にコテンと頭を預ける。


「ありがと」


 お礼を言っても、綱はなにも答えない。ただ、ヨシヨシと頭を撫でる。

 大きな手が、髪のあいだから耳に触れる。案外温かい掌に、私はほっと安心した。

 夢うつつのまどろみの中で、ラジオのボリュームがさがったの感じた。運転手さんが気をつかってくれたのだろう。

 ありがたいと思いつつ、私はゆっくり眠りに落ちた。




『神様のドS!!』中等部編、電子書籍&AmazonPOD化記念の番外編です。

本日配信です。

どうぞよよろしくお願いいたします。



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